今やiPhone、アンドロイドなどのスマートフォンは人々の生活に欠かせないデバイスとなっている。
しかし、90年代にはもちろんそんな便利なものはない。
もう街でも見かけることの少なくなった「ガラケー」と呼ばれる携帯電話の黎明期であった。

ガラケー夜明け前、ポケベル全盛期


街中で公衆電話を見つけるのにもひと苦労する昨今だが、携帯電話が普及する以前は、固定電話が主要な連絡手段だった。
今では笑い話になっているが、恋人の自宅に電話して厳格な父親に怒られるなどという話は定番で、確実に電話を取るためにわざわざ時間を決めてお互い家の電話の前にスタンバイしていたりしていたという。

そんな時代に、メッセージを送る端末として携帯電話より先に登場したのが「ポケベル」ことポケットベルだった。90年代中頃には学生やビジネスマンの間で、手っとり早くメッセージ交換ができるツールとして一気に普及。その文化は当時話題となった不倫もののテレビドラマ「ポケベルが鳴らなくて」にも描かれている。
ポケベルは、初めは数字のみの送受信が可能であったため、数字の語呂合わせでメッセージを送り合う言葉遊びのようなやりとりが流行った。「4510=シゴト」「14106=アイシテル」といったものだ。
やがてNTTがメッセージを変換するサービスを開始すると、ショートメッセージのような短文の送受信も可能になった。

PHSの登場とガラケーの進化


その後、携帯電話ほどのコストをかけずに通話できるPHSが普及するも、携帯電話はさらにめざましい進化を遂げ、90年代後半には一気に普及率を上げることとなる。
今から考えてみると、当時の携帯電話は驚くほど制限された機能のわりに通話料も高かったのだが、それでも徐々に若い年代の利用者が増えるにつれ、次々に機種のバージョンアップを繰り返していた時代だった。

自分の携帯電話を持ち始めた人々がすることは今も昔も似ている。恋人や友人と撮ったプリクラをカバー裏に貼ったり、中には電池パックの裏蓋などにこっそり貼ったりする人もいた。
当時は必ず付いていたアンテナをカスタムして、光るアンテナや、やたら長いアンテナにしてみたり、ストラップをたくさんつけたり……。
もしかしたら携帯電話本体に個性を出す方法は、スマホ時代の今よりもたくさんあったのかもしれない。

また着信音のメロディも、日進月歩で進化した時代だった。単純な「ピーピーピー」という音しかなかったものが、8和音、16和音、32和音、自作できるものなど各メーカーが工夫を凝らし、複雑な着メロが使えるようになっていった。

今ではひとつの液晶のなかであらゆることができる時代だけれど、PCで仕事すること、勉強すること自体がまだまだ少なかったこの当時、携帯電話は日常に広まっていた一番のハイテクノロジーだったことは間違いない。
2007年にはポケベル、2008年にはPHSが廃止されたが、”ガラケー”と呼ばれる一時代を担った携帯電話の形を今あらためて思いかえすと、スマホとはまた違った愉しみを感じるかもしれない。
(空町餡子)

※イメージ画像はamazonよりPANASONIC docomo STYLE series P-01E ブラック
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