遠隔操作スタンドの手強さ
レッド・ホット・チリ・ペッパー(以下レッチリ)、再び襲来! 虹村形兆を殺害してスタンド使いを生み出す「弓と矢」を奪った、ジョジョ第四部の中ボスに位置している強敵だ。仗助達にとっては杜王町の平和を乱す脅威であり、形兆の弟・億泰からすれば憎き仇である。
前回の顔見世から実に5話ぶりの登場。

仗助や承太郎といった歴代主人公のスタンドは、本体からの射程が数m程度だが強い力を持つ近距離パワー型がほとんど。遠隔操作型は、その対極にあるカテゴリだ。本体は安全地帯に隠れてネチネチと攻める、知能犯にピッタリくるタイプだろう。
遠隔操作タイプのおよその特徴は、「距離と引き換えにパワーが弱い」「スピードが速い」「本体と視覚や聴覚が共有できる」の3つ。第三部のタワー・オブ・グレー(クワガタのスタンド)はスタープラチナのラッシュをかわす速さを持ち、水のスタンドであるゲブ神は、はるか彼方の砂漠から音で位置を把握して花京院の眼を切り裂いた。
いい所ばかりのようで、弱点も多い。同等のスピードを持つタイプにはパワー負けするし、本体が姿をさらす近距離では無防備になりやすい。しかし、レッチリはどちらも当てはまらず、近くても遠くてもとにかく強い。こんなの反則じゃないの?
それは現代文明を支えている電気のおかげ。電気の通るところなら瞬間移動、恐るべきパワーは無限にある電気から取ってくるから、遠隔操作タイプの常識を外れる。映画『アメイジング・スパイダーマン2』のエレクトロもメチャクチャ強かったが、電気タイプの異能力者は「都市インフラ」そのものが味方する最悪の敵なのだ。
いわば守るべき杜王町のインフラが牙をむく今回の敵。仗助達はどうやって立ち向かうのか?
第11話は、こんなお話
行方をくらましていたレッド・ホット・チリ・ペッパーがついに姿を現す。電気の通る所はどこにでも移動でき、承太郎以上かもしれないパワーを持ち、しかも遠隔操作できるスタンドに改めて脅威を覚える仗助。翌日、承太郎に呼び出された仗助や億泰たちは、ある人物が杜王町に向かっていると知らされる……。
スタンドヤンキー同士の煽り合戦
「もしここでこれをやめると、おれは一度決めたことをやり遂げられなかった男として一生悔いを残すことになる!」
母に背中をガスガス蹴られようが、絶対にゲームパッドを手放さない仗助。原作ではどんなゲームか不明だったが、アニメ版ではコナミの『グラディウス』シリーズっぽい画面で、どう見ても最初のステージ1。
そこまで必死になる面かな……よりも、原作ではスーパーファミコン(1990年発売)に似ていたゲーム機がNINTENDO64(1996年発売)ソックリになってることに注目。ジョジョ第四部の設定は1999年なので、アニメ版は“史実”に沿っているのだ。
電源をオフにしたはずのテレビ。その画面の中から出てきたのは貞子……ではなくレッチリだった。演じる森久保祥太郎さんはアニメ及びゲームの『ペルソナ4』でもテレビの中に入っていて、まさにハマリ役。
「以前からちょくちょくこの家にゃあ寄らせてもらってたんだぜ?」
街中の電線をドアより気軽に通るレッチリは、合鍵を持ってるストーカー以上の恐ろしさ。そんな性悪と仗助の煽り合いは、アニメで声がつくと実にアツい。ブチのめす?楽に『殺してやり』に来たのさ。
邪魔な承太郎を襲う前に「比較」として選んだ仗助が、予想以上に成長していて驚くレッチリ。しかし、自らの力に「町の電力」を上乗せして、第一ラウンドはレッチリの勝ち。
前哨戦の力比べはお約束として、レッチリにふっ飛ばされて家具やゲーム機を巻き添えにした仗助のアフターケア(アニメオリジナル)が楽しい。母親が駆けつけた頃には、散らかった部屋はきれいに元通り。いいなあ、クレイジーダイヤモンドの“直す”能力って!
胆石と白内障を患った元主人公(79)
「なんの話だよ仗助?こんなうすら寂しい所に呼び出してよォ?。トニオさんとことかいつもの茶店じゃ駄目なのかよぉ?」
町外れの野原で、虫さされをポリポリかきながらボヤく億泰。原作では茶店=「カフェ・ドゥ・マゴ」だったのだが、アニメでは名前がそのまま使えない事情でも……?
ちなみにドゥ・マゴはパリに実在するカフェで(渋谷に提携店あり)、観光エリアのサンジェルマン・デ・プレが発祥の地。ああ、後に出てくるあのネタと関係あるのか!と原作読者なら気づくはず。
しまらない登場をした億泰だが、前回に引き続いて主役的なポジションと言っていい。レッチリは兄・形兆の仇なのだから、トニオさんの料理にゴキゲンだった顔もガラリと変わって鬼気迫る。
そのワリを食ってるのが、いつもは凛々しい康一くん。レッチリはスケべ電話(90年代末だとダイヤルQ2?)をかけるのと同じくらいの手間ヒマで頭に来た人間の命を電線の中に引きずり込める……そんな劇的にヤバい奴の話をしてるのに「そおいやあー宿題が朝起きたら机の上から消えていた」と呑気すぎるリアクション。
町外れの野原に呼び出したのは承太郎だった。電気の通ってる町中だと、話を聞かれてしまう恐れがあるためだ。そしてレッチリの本体を「見つけ出すことのできる人物」が杜王町の港に到着するという。
「スタンド名は隠者の紫(ハーミット・パープル)。ただその男は年を取りすぎていてな。とても戦える体力はない」
「そいつ何歳っすか?承太郎さんの知り合いっすか?」
早く気づけよ仗助!と連載当時さながらに、テレビに向かって突っ込む全国の第三部ファン一同。
「79!クソジジイじゃねぇかよ!」
「確かに足腰は弱くなって杖をついてるな。2年前に胆石除去手術もしたし白内障も患った。歯は総入れ歯でTボーンステーキが食えないと嘆いていたよ。頭もボケ始めている」
実の息子からボロクソに言われ、胆石と白内障まで抱えたおそらく史上初の元・主人公!
「仗助くん!79歳で外国人のスタンド使いと言ったら!」
あーあ、康一くんが先に気づいちゃいましたよ。仗助の父であり承太郎にとってのジジイ、ジョセフ・ジョースターが来ることに。
兄貴の因果応報を語る億泰
電線もない野原のど真ん中で、承太郎達の密談を聞いていたレッチリ。
兄の仇にプッツン来た億泰は瞬間移動でバイクに追いついたものの、素早いレッチリに動きが見切られた……と思わせて、本当の狙いはバイクの前輪。仗助の「アタマ使ったなぁー億泰」という褒め言葉は、ふだん使ってないなぁー!ということですね。
「俺の兄貴はよ。死んで当然の男だった。いつか誰かに殺されると思ってたぜ。「罪」ってのはよぉ〜そうなるようなことをしてりゃどっかから廻り廻って「罰」がやって来る。それぐれ〜おれにだってわかるからなぁ〜」
兄貴の因縁が関わる話では、胸に抱える複雑な想いを吐き出す億泰。ガオンと空間や地面を削り取って、レッチリをあと一歩まで追い詰めた。が、土壇場でレッチリが仕掛けてきた心理戦。色あせて弱っているように見えるのは本当なのか、承太郎の首を掻っ切るためのフリなのか……。
「こいつは兄貴を殺した!俺がケリを着けてやる!真実はそれ一つだ!俺の心の中のよ!」
それでこそ億泰、それで負けてこそ億泰。町中の電線を知り尽くしたレッチリに引っ掛けられ、地面をえぐり取って電気ケーブルを露出させてしまったのだ。
エネルギー満タンで復活したレッチリに瞬殺され、ケーブルの中に引き込まれた億泰。しかし腕を切断されたことが不幸中の幸い。クレイジーダイヤモンドで腕を”治す”と、本体が戻ってくるから。
ちょっと待って。腕を治すと、デカい本体の方に飛んでいくんじゃないの? それにザ・ハンドで削り取ったケーブルは、切断面同士がくっついて(立入禁止→立禁止のように)断線しないのでは?など、今回はいろいろツッコミどころが多い。
特に承太郎!「バイクを奪われた瞬間に時を止めろよ」とか「なぜ億泰が戦ってるところに走っていかない」とか。漫画のコマを再現しているものの、「動き」のあるアニメだと承太郎が落ち着きすぎてる違和感が際立つ。まぁ、後輩の見せ場を横取りしない良い先輩なんですけどね。
さて、杜王町に向かう船の中。ミスタージョースター、声は第三部のまま石塚運昇さんだッ!ということで次回に続く。
(多根清史)
