NHK 大河ドラマ「真田丸」(作:三谷幸喜/毎週日曜 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時)
6月19日放送 第24回「滅亡」 演出:木村隆史
ずんだ餅パフォーマンスの伊達政宗90年代小劇場の勇者たち「真田丸」24話
「演劇ぶっく」96年12月号の堺雅人、97年4月号の長谷川朝晴。
堺のいでたちは、当時、小劇場界の王子的ポジションだったかららしい。

天正18年(1590年)7月11日、北条氏政(高嶋政伸)切腹。これにて、名実ともに豊臣秀吉が天下の覇者となり、戦国時代は終わりを迎えた。
というのが24回のあらまし。
琵琶っぽい楽器がびょろんびょろんと鳴り、諸行無常感を出しながら、氏政が「返す返すも心残り どうせ秀吉と一線交えるなら 伊達や徳川と組んで日の本を分ける大戦をやってみたかった。華々しく戦国の世に幕を引きたかった」と悔恨の情を吐きだす。その前に信繁(堺雅人)に顎クイするサービスカットのようなものあり。びょろんびょろん♪(琵琶っぽい楽器の音色)「秀吉がうらめしいぞ」と呻く氏政。華々しく戦をしたい彼は、命は惜しくないと言う。そこに、何がなんでも真田家を守ろうとする真田昌幸(草刈正雄)と「恥は一時でござる。生き延びることこそが肝心」と氏政を説得しようとした家康(内野聖陽)との考え方の違いがある。

そして、ここにもうひとり、生き残ろうとする男がいた。
奥州の覇者・伊達政宗(長谷川朝晴)だ。
信繁に「もう20年早く生まれていたら もう少し京のちかくで生まれていたら(後略)」と本心を告白する政宗。表向きは秀吉(豊臣秀吉)に所領をすべて渡し、ずんだ餅パフォーマンスを披露して忠誠を誓うのだった。

喜んだ秀吉が餅をつく隙間に「おみごと!」「さすがでございます!」「お餅になってまいりました!」といちいち合いの手を入れる接待サラリーマンのような伊達政宗。こんな伊達政宗見たことない。
伊達の家臣・片倉景綱(ヨシダ朝)と信幸(大泉洋)、昌幸が話をしている時、秀吉と政宗の餅つきの声がかすかに聞こえるのは、映ってなくても俳優たちは声を出していたのか、後から声を足したのか気になる。
その声を聞きながら「伊達政宗、もう少し気骨のある男かと思っておった。ま、人のことは言えぬがな」と苦い顔をする家康。
家康といい、昌幸といい、政宗といい、「真田丸」では、いわゆる戦国物語でイメージづけられていた彼らとは少々違う面を描いている。

長谷川朝晴には勇猛果敢な戦国武将のイメージはなく(すみません)、伊達政宗を彼が演じると知ったとき正直意外だったが、政宗は武勇に優れているだけでなく、料理をたしなむなど手仕事にも長けていたという。秀吉にへつらいながらずんだ餅をつくる伊達政宗を長谷川は、単なる下っ端キャラではなく、適度なセンスの良さをもって演じていた。
主にテレビドラマのバイプレーヤーとして活躍している長谷川は、2014年、三谷幸喜の代表作のひとつ「君となら」の17年ぶりの再演(パルコ劇場)に出演して、笑いのできる俳優の実力を大いに発揮した。その時、主演だったのが初舞台の竹内結子(茶々!)、彼女の父親役は草刈正雄(昌幸!)、母親役は長野里美(こう!)だった。「真田丸」でかなり重要な役割を果たしている俳優たちが「君となら」に出ていたことを思うと、長谷川の伊達政宗も大阪の陣で信繁と再会した時、何かやらかしてくれそうな期待が膨らむ。ダークホースかもしれない。


長谷川の出身劇団はジョビジョバ(92年〜02年)。明治大学騒動舎から派生した劇団で、作、演出のマギーによる綿密に計算されたコントやシチュエーションコメディで人気を博していた(代表作は、本広克行監督によって映画化(00年「スペーストラベラーズ」)されている。そこで長谷川は俳優だけでなく音効も担当していた。同じく92年に旗揚げした早稲田大学演劇研究会から派生した劇団・東京オレンジの旗揚げメンバーには堺雅人がいた。笑いのジョビジョバと、即興性や身体表現を重視した東京オレンジとジャンルはやや違うが、ふたりは小劇場界で華と実力を兼ね備えた俳優として注目されていて、小劇場を中心にした専門誌「演劇ぶっく」の表紙を飾るなどもしている。

90年代の「演劇ぶっく」を見ていたら、94年4月号の「演ぶちゃーと‘94」(過去1年間の公演と俳優の人気投票)の俳優部門1位は西村雅彦(黙れ小童!の室賀!)、6位が長野里美(こう!)である。近藤芳正(平野長泰)が51位、小日向文世は59位、堺雅人は81位、24回に初登場のヨシダ朝(当時・吉田朝)が96位にランクインしている。
戦国の歴史も奥深く面白いが(こちらは近藤正高さんのレビューで堪能してください)、日本演劇界の流れも面白いものだ。ついでに記すと、「演ぶちゃーと‘94」では古田新太が4位、阿部サダヲが29位、松重豊は34位だ。20年以上前、小劇場界というアンダーグラウンドで活躍していた若手俳優たちが、2016年、こんなにも現役というかメジャーになっているところに、80〜90年代の小劇場の底ヂカラを感じざるを得ない。もちろんその時代、三谷幸喜率いる東京サンシャインボーイズが先頭を走っている。

「真田丸」にはこんな感じで舞台俳優がたくさん出演しているが、古田の所属する劇団☆新感線と阿部の所属する大人計画の俳優が出ていないという話題が、とある場であがった。
朝ドラ「あまちゃん」の印象が強いから重ならないほうがいいという配慮なのだろうかなどと深読みする中で、今、描かれている「真田丸」の時期と、新感線の代表作「髑髏城の七人」(初演は90年)の時期が同じであるという話に。「髑髏城〜」は本能寺の変の後、織田信長の影武者が亡き主君に代わり天下をとる野望に燃えるストーリーで、まさに天正18年、家康が江戸に移ったところが描かれているのだ。「清須会議」や「のぼうの城」を「真田丸」とあわせて楽しむ中で、その頃関東では・・・という感じで「髑髏城の七人」も加えてみるとさらに楽しめる、かもしれない。
また、偶然の面白さでいうと、前述の「君となら」に主演した竹内結子のことを三谷が開幕直前会見で「たぶん、竹内さんは20年後には大竹しのぶさんに、(中略)なっていると確信してます」と発言している(ウレぴあ総研より)

が、大竹しのぶは9月公開の映画「真田十勇士」(堤幸彦監督)で淀殿を演じているのだ。なんたる偶然!
こんなふうにいろいろ妄想膨らむ「真田丸」。24回のラストは「関ヶ原の乱まであと10年」と有働由美子のナレーションで煽った。わくわくのカウントダウン方式がはじまったのだろうか。
(木俣冬)
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