
個人的には、御子柴のホームラン、フリーザ最終形態以降の衝撃
前話でアグニは「俺もよく嘘をついた」とネネトに語っている。その語り口からこの嘘が、火達磨になる前の事だというのは明らかだった。そして今話明かされたその嘘の内容は、ほぼ予想通り昔のことだった。
しかし、その中に一つだけ読者の予想を大きく裏切ったものがあった。それはこの物語の根底を揺るがすもので、衝撃的と称された第1話と同等のインパクトを与えたように思う。
いや、個人的にはそれ以上で、“ROOKIES”で御子柴が打ったホームランと同じぐらいの驚きだ。それより遡るとすれば、ヨダレを垂らすわ、顔は異様に長いわ、ツノは何本生えてるんだかわかんないわで、オドロオドロシかったあのフリーザの最終形態が、ツルンとしたちっさいのだった時になる。
アグニがついていた嘘とは?
今話は、アグニの回想を使った嘘のバラシから始まった。その嘘とは、“妹の心配する顔が見たくないから、腕を切られても痛くないと言った事”、 “妹に笑って欲しくて、凍ってない川に入った事があると言った事”。ここまでは正直、予想の範囲内。しかし、問題は次からだ。
場面は、奴隷の檻の前に立つアグニに戻る。アグニは、自分の少年時代の幻想を見ていた。
「ドマが言ってたんだ。氷の魔女を倒すって・・・俺は、かっこいいって思っただろ!」
アグニは、復讐の標的にしていたドマになんと憧れていたのだった。続いて少年アグニは、人の肉を食べる自分の村が焼かれた事も仕方ないと叫んだ。人の肉を食べる村なんて狂っていると。アグニはドマを恨んでいるわけではなかったのだ。
死ぬ間際のルナに託された願いは「生きて」だ。しかし、そんな物は叶えられるはずがなかった。なぜならアグニにとって凍りつく世界でルナだけが生きる糧だったからだ。その糧が死んでしまったら、生きる希望なんてなにもなかった。
それでもルナとの約束を果たしたい。そこでアグニは、ドマが残酷に死ぬことを糧にし、復讐者を演じることに。
そんなアグニは、捕まっている奴隷達を見て「人を助けたい」という自分の本当の気持ちに気付く。そして、少年アグニが覚えたての英単語を叫んだ。「パンチだ」。アグニは奴隷の檻を殴り壊し、トガタ監督の命令を無視して大勢の奴隷を解放してしまう。
アグニ、シンプルなジャンプ主人公になる
単なる復讐鬼かと思われたアグニが、たった1話で今時珍しいぐらいの超シンプルなジャンプ主人公に生まれ変わった。こうなるともう何をやってもかっこいい。思ったように行動するだけでかっこいいはずだ。これでやっと“少年ジャンプ+”読者の少年達に相応しい主人公になったと言えるだろう。まさかエログロニッチファンタジーから、こんな正統派が生まれるとは思ってもいなかった。
こうなると気になるのはトガタ監督。
(沢野奈津夫)