絶好調の『ウルトラマンオーブ』も折り返し点。先週放送された第13話「心の大掃除」はこれまで放送された前半12話分の総集編だ。

まだ一度も「ウルトラマン」と名乗っていない「ウルトラマンオーブ」13話

とはいえ、単に見せ場をつなぎ合わせただけではなく、新たに撮影されたパートも多い上に、後半戦につながる前半の伏線を丁寧に拾い上げた見応えのある一篇となっていた。個人的には、いつも肝心なときにいないビートル隊の渋川隊員(柳沢慎吾)のことをウルトラマンオーブの正体だと勘違いするジェッタ(高橋直人)がツボでした。

さて、今回は第13話の振り返りではなく、筆者がここまで『ウルトラマンオーブ』を見てきた中で感じたことをまとめてみたい。

風来坊ヒーロー、クレナイ ガイが背負う“影”


『ウルトラマンオーブ』は光と影の物語である。いきなり何を言っているのかわからない人もいるかもしれないが、少しだけお付き合い願いたい。

クレナイ ガイ(石黒英雄)は“風来坊ヒーロー”だ。街から街へと流れ歩き、定住する場所も持たないし、特定の人物と深くかかわることもない。『木枯し紋次郎』の「あっしにはかかわりのないことでござんす」である。

風来坊ヒーローは、意味なく流れ歩いているわけではない。彼らは必ずと言っていいほど、過去に暗くて辛い経験を抱えている。経験上、自分が深くかかわることで相手を不幸に巻き込んでしまうと知っているから、すぐに街を離れてしまうのだ。それが風来坊ヒーローの持つ“影”である。

ガイにも暗くて辛い経験がある。
過去、マガゼットンとの戦いで大切な女性を守りきれなかったのだ。それ以来、ウルトラマンオーブはオリジナルの力を失い、歴代ウルトラマンたちの力を借りなければ変身できなくなってしまった。ガイがオーブニカ(ハーモニカ)で奏でる悲しげなメロディーは、このときの思い出のメロディーでもある。

普段のガイは、『ウルトラセブン』のモロボシダンにも通じる“陽性”の男だ(ガイもダンも宇宙人で風来坊という共通点がある)。だが、ガイは悲しい過去という“影”も背負っている。光と影をあわせ持つヒーローなのだ。

ところで、ウルトラマンといえば“光の戦士”という呼び名が知られている。しかし、現在のウルトラマンオーブは“光と影の戦士”という呼び名がふさわしい。最凶・最悪のウルトラ戦士、ウルトラマンベリアルの力を借りて変身したウルトラマンオーブ・サンダーブレスターは、まさしく“影”の部分だ。

第13話で、SSPの3人がウルトラマンオーブの活躍を振り返りながら「まさに正義の味方!」と盛り上がっているところを見ていたガイが「正義の味方か……」と呟くシーンがある。この場面は、ガイが自分を“正義の味方”と言い切ることにかすかな疑念を抱いていることを表している。その原因はもちろんサンダーブレスターだ。


平和を愛する心ではなく、怒りを爆発させることで、大魔王獣マガオロチにさえ圧勝したサンダーブレスター。12話の最後で宿敵ジャグラス ジャグラー(青柳尊哉)が言い放った言葉が、ガイの脳裏に焼き付いているようだ。

「楽しかっただろ? 強大な力を手に入れて、すべてを破壊するのは」
「そんなことは……」
「いい子ぶるな! しょせん、お前も俺と同類だ。……楽しめ! フヘェ、フハハハハ!」

ジャグラーを演じている青柳尊哉は、このセリフを「その力を手にしたことで、お前が本当に苦しむのはこれからだ。これでやっと俺の気持ちがわかるぞ」と解釈して演じたという。また、青柳はこのシーンについて、「『ウルトラマンオーブ』の世界観が凝縮された名場面になっていると思います」とも語っている(いずれも『宇宙船』vol.154)。

本来の力を失い、歴代ウルトラマンたちの力を借りて変身していたガイ(ウルトラマンオーブ)を歯がゆく思っていたジャグラーだったが、闇の力に手を染めたガイを見て喜んでいるようだ。

ウルトラマンオーブは“超人”ではない


ジャグラーは地球侵略に興味を持たず、ひたすらウルトラマンオーブを付け狙う。かつては銀河系の果てで決闘を行ったこともあり、メフィラス星人ノストラからは「光に選ばれたオーブ、闇に魅入られたジャグラー」と表現された。このような主人公のライバル的な悪役は、ウルトラシリーズにおいて類を見ない。

ウルトラマンオーブとジャグラーという構図は、光と影そのものだ。ジャグラーの「お前も俺と同類だ」というセリフからは、2人は決して大きく隔たる存在ではないことが読み取れる。
2人の差とは、まさに光と影の差なのだ。だから、サンダーブレスターという闇の力に触れたガイに対して、「俺の気持ちがわかるぞ」という解釈が成り立つ。

光があるところには必ず影がある。強い光をあてれば濃い影が生まれる。人間には明るい部分があれば、一方では暗い部分も必ずある。

これまでのウルトラマンは影の部分がない“超人”だった。文字通り、光の国からやってきた光の戦士だったというわけだ。しかし、ウルトラマンオーブは光と影の両方を持っている。大切な人を失った悲しい過去という影、サンダーブレスターという影、ジャグラーという影……。つまり、今のウルトラマンオーブは超人ではない。言い方を変えれば、非常に人間らしい存在なのかもしれない。

実は過去のトラウマから、ガイはこれまで一度も自分のことを「ウルトラマン」と名乗っていない。
「俺の名はオーブ」とは名乗るが「ウルトラマン」と名乗ったことはないのだ。これは、本作のプロデューサーを務める鶴田幸伸のこだわりなのだという(『宇宙船』vol.154)。

これからガイが堂々とウルトラマンを名乗れるようになるには、悲しい過去を乗り越えなければいけないし、宿敵のジャグラーも倒さなければいけない。そして何より、闇の力に魅入られる自分自身にも勝たなければいけない。

『ウルトラマンオーブ』とは、光の影の物語であり、影に打ち克っていく物語である――というのが、ここまで見て感じた筆者の見立てである。「闇を照らして、悪を討つ!」という決めゼリフともつながっている。自分の闇を照らして、内なる悪を討つわけだ。

さて、この記事が配信されている頃には放送が終わっている第14話は「暴走する正義」。CMではすでにお馴染みの巨大ロボット・ギャラクトロンが登場するぞ! 見逃してしまったあなたには、円谷プロダクション公式チャンネル「ウルトラチャンネル」で1話まるごと見逃し配信中です。闇を照らして、悪を討つ!
(大山くまお)
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