
フガイタイ戦、決着
フガイタイは視界に映る鉄を思いのままに操る能力を持つ。装着している特別性のゴーグルによって、おそらくは視界を広げその能力はチート化している。数本の鉄骨を飛ばしてアグニを串刺しにし、そのまま宙に持ち上げて大気圏外まで運んで塵にしようと目論む。能力がチートならその攻撃方法も規格外だ。
雲の上まで運ばれると、アグニは自分のクビを引きちぎり地面に落とす。そのクビから身体を再生させ、そのまま受身をとり着地。再生能力者の防御方法もまた規格外だ。上空から落ちたほとんど化け物のアグニは、すぐさま立ち上がりフガイタイに飛び掛かる。フガイタイもフガイタイで躊躇なく鉄骨を飛ばし、アグニをまたしても串刺しに。アグニは、自らの腕を引きちぎりフガイタイにぶつけるという原始的ロケットパンチ。フガイタイは一瞬で燃え上がり決着した。
その戦いを見て逃げ出した空を飛べる男カルー。しかし、途中で見かけた車から出て来た謎の男にバット一撃で殺されてしまう。
“スッ”
この漫画の擬音は、たまに変だ。幼い頃のアグニが悪漢の頭を鉈で切りつけた時は“スッ”だったし、前話でダイダを殴った時の音は“カ”。ここぞという時に原作の藤本タツキ先生は、少し変わった擬音をつけることが多い。
では、なぜ“スッ”だったのだろうか?人の頭を鉈で切り付けた時の音などもちろん聴いた事はないが、“スッ”ではないことは誰にでもわかる。おそらく“ザクッ”とか“ガッ”とかそんな感じだろう。では、この“スッ”とはなんなのだろうか?おそらく、この“スッ”は擬音ではない。“ザクッ”と頭に切り付けた後の様子を表した擬態語、つまりイメージ音なのだ。「人の顔をジロジロ見る」の“ジロジロ”の部分の事だ。「悪いことをした人間の頭に鉈が突き刺さっても当然であり、その様は“スッ”としている」という事のように思える。
“カ”と“ン”で“カン”
では、“カ”はどういうことなのだろうか?何やら硬そうな鎧で覆われているダイダを殴ったらおそらく“ガンッ”とかそういった鈍い音だろう。この比較的軽い音、“カ”は、神の所作を表現した擬態語のように思う。炎を纏う不死身の男アグニが必殺パンチを繰り出す様は、奴隷達から見れば神の所作。“カ”っと光り輝いて見えたのではないだろうか?“カ”は白い字で書かれ、次のコマには“ン”は黒い字で書かれていた。
“ペン”
そして今話、自分の腕を引きちぎって投げる原始的ロケットパンチの擬音は“ペン”だった。では、“ペン”とはどういう音なのだろうか?この“ペン”という音に、藤本先生らしさが詰まっている。
通常、腕を投げて相手を殴ったら“ゴッ”とか“ボコッ”とかそういう音になる。しかし、藤本先生は違う。まず、腕を投げてもそう都合よく拳や肘が相手に当たらないのだ。原始的ロケットパンチと表現したが、実際に当たったのは二の腕。トドメの一撃としては何とも締まらない部分で決着が付いてしまっている。
それほど硬くない二の腕が当たったら、その音が“ペン”でもおかしくはない。無数の鉄骨がアグニに刺さる擬音“ザザザザザ”という怖い音との対比と、どんなに苦戦しても朽ちるまで消えない炎を身に纏うアグニは「相手に触れれば勝てる」というあっさり感を出すための音、それが“ペン”なのだ。
しかし、このペンにはもう一つ意味があるように思える。それは、生々しさだ。
新キャラの登場でよってますます先が読めなくなっている「ファイアパンチ」。これからも独特な展開が待ち受けているだろう。これからは、それを強調する擬音に注目して読んでも面白いかもしれない。
(沢野奈津夫)