先週放送の第六話「共振」は、主人公・馬締(まじめ)光也(演:櫻井孝宏)がいよいよ童貞喪失!? と色めき立った向きも少なからずいただろう。実は筆者もそうだった。なぜそんなことを思ったのかは、追々明かしていくことにしよう。

SMAR
同じアパートに下宿する香具夜(演:坂本真綾)に恋する馬締は、長文の恋文をしたため、思いきって香具夜に手渡す。同じ童貞でも、『逃げ恥』の平匡さんと比べると、馬締のほうがよっぽど自分の気持ちに素直に行動している。まぁ、西岡(演:神谷浩史)のアドバイスも大きいのだが。
なお、『舟を編む』の舞台は、だいたい今から20年ぐらい前という設定。すでにEメールや携帯メールは存在したが、恋心を伝える手段としてのラブレターはまだ現役だった。とはいえ、この時代を境に一気に存在感をなくしていく。今はやっぱりLINEとかで伝えるんだろうか?
仕事に“業”を感じる者は幸せだ
一方、辞書編集部には重い空気が立ち込めていた。辞書「大渡海」の編集作業を続けたければ、「玄武学習国語辞典」の改訂作業を行なうように上層部から指示が下ったのだ。改訂作業は大変手間がかかるため、「大渡海」の編集作業をストップせざるを得ない。
「会社は本当に辞書を作る気があるんでしょうか」と訝しむ佐々木さん(演:榊原良子)。
不安に駆られる編集部の面々だったが、老国語学者の松本先生(演:麦人)は明治時代に編まれた日本最初の辞書『言海』を持ち出す。『言海』は国語学者の大槻文彦が私財を投じて、たった一人でつくりあげたものだ。「なんでそこまで?」と問う西岡に、松本先生はこう答える。
「業(ごう)……というかもしれませんね」
「……理性ではどうにもならない心の動き」
「業とはまた業(わざ)とも読みます。生業(なりわい)や仕事という意味もありますね。天命とも言えるかもしれません。どうにもならない思いに駆られ、仕事をする。私たちも同じはずです」
即座に「はい」と答えられる馬締は天職を見つけた幸せ者だ。しかし、隣にいる西岡は下を向いたまま何も答えられなかった。もともと自分に辞書づくりの適性はないと思っていたが、仕事が面白くなってきた途端、上層部から異動を命じられたのだ。
西岡の異動を知り、途端にうろたえる馬締。
自室に戻った馬締は、自分の『言海』を開く。すると「料理人」という言葉に目が止まった。馬締が恋する香具矢は料理人だった。語釈を見ると、「料理ヲ業トスル者」とあった。馬締が恋する香具矢は料理人であり、料理を生業にする者だ。
ここで童貞の馬締が一大決心をする。自分は辞書をつくる。それが自分の業だ。香具矢は料理の道を歩んでほしい。それが香具矢の業だ。
馬締の恋文に対する香具矢の返事は……
「ごめん!」
香具矢の返事は一言だった。覚悟はできていたはずなのに、涙がこぼれる馬締。こんな夜は猫だって寄り付かない……。と思ったら、香具矢がいきなり部屋にやってきた! 暗い部屋の中で、正座したまま向かい合う2人。いくつか言葉を交わした後、香具矢が言った。
「私も、好きです」
ここで本編終わり! あっ、なるほど……。
ちなみに原作では、布団を被って泣いている馬締の上に香具矢が覆い被さってくる(!)。必死の思いで「好きです」と言う馬締に香具矢は口づけをして、「どうして硬直してるの?」「慣れなんて必要?」なんて言いながら、そのままセックスするのだ。うーん、この女子の圧倒的な上手感! しかし、ここまでアニメで描いていれば、『逃げ恥』のキスを上回ることができたかも……?(そういうことじゃない)
ところで、なぜ香具矢は馬締を選んだのだろうか? それこそ理由は「共振」としか言えない。「共振」の語釈は「心や行動が、相手と反応し合って同じようになること」。
ただ、今回の終わり方はちょっと違和感がなさすぎるような気がした。いくら「共振」しているとはいえ、馬締のトーンと香具矢のトーンがまったく同じなのだ。同じように正座して向き合い、同じように言葉を交わす。馬締が想像した通りの結ばれ方とも言えるだろう。原作にあった香具矢の異物感(風呂上がりの湿った髪、頬をなぞる指、吐息、甘い香りなど)こそ、童貞男子の想像の埒外にある恋の一つのピークだと思う。
純愛にキュンキュンするのも良いけど、香具矢をもっと行動させたほうがキャラクターの奥行が出たかも……。とはいえ、深夜アニメでもそこまで描くのは難しいのかな? 女性の質感をアニメで表現するのも大変なのかもしれない。
さて、今夜放送の第七話は「信頼」。西岡に残された時間はあとわずか! 馬締と辞書編集部はどうなる……?
(大山くまお)