アメリカと日本が戦争をする可能性は低かった
日本はなぜアメリカと戦争するにいたったのか? これについてきちんと説明できる人は、はたしてどのぐらいいるだろうか。恥ずかしながら私も、アメリカによる石油輸出禁止など戦争にいたった原因を断片的に覚えている程度で、ちゃんと理解していたとはいいがたい。

そんな大人のために打ってつけの本が最近出た。井上寿一『教養としての「昭和史」集中講義』(SB新書)がそれである。著者は日本政治外交史の研究者で、現在学習院大学の学長を務める。
サブタイトルに「教科書では語られていない現代への教訓」とあるが、本書の趣旨は教科書に出てこない新事実をあきらかにしようというものではない。むしろ逆で、内容的には現在多くの高校で使われている日本史教科書の戦前昭和史の部分に依拠している。ただし教科書は情報量が重視されるゆえ、どうしても事実の羅列になりがちだ。そこで本書は、教科書では端折られがちな、個々の事実をつなぐさまざまなできごとをとりあげながら、戦争にいたるまでの経緯をたどっていく。
太平洋戦争については「避けることのできた日米開戦」と題して1章が割かれている(第4章)。「避けることのできた」というのがポイントだろう。現在から振り返ると、アメリカの戦争は起こるべくして起きたとどうしても考えてしまいがちだ。しかしその過程をつぶさに検証してみると、真珠湾攻撃までには戦争回避できる場面がいくつかあった。それどころか、ヨーロッパで第二次世界大戦が起こってからもしばらくのあいだは、日本とアメリカが戦争をする可能性はきわめて低かったと、本書には書かれている。どういうことか?