「ぶっちゃけ、平均年収は重要だ」

これは多くの就活生の本音ではないだろうか。気になる企業があったら、「企業名 平均年収」でまずググったり、「就職四季報」で調べたりというのは就活中に誰もがやった事があるはず。
だが、そこで得られる情報には注意が必要だ。サイトに載っている分の年収を自分が将来もらえるとは限らない。

まず、ネット上のまとめサイトに掲載されているデータには、社員数名から集計しただけのものや、推測で書かれている不正確なものも多い。

「就職四季報」は全上場企業と非上場企業の一部についてのきちんとしたデータを集めているが、ここでも注意が必要である。
上場企業は、毎年「有価証券報告書」という、投資家向けに企業の経営実態を開示する資料を提出しており、これはネット上でも公開されている。「有価証券報告書」の中には「提出会社の状況」という項目があり、ここに社員の「平均年齢」「平均勤続年数」「平均年間給与」が記載されているのだが、ポイントはこれはあくまで「提出会社の状況」であるということだ。

上場しているような大手企業は大抵、幾つもの連結子会社を抱えている。しかし「平均年間給与」として開示されているのは本体の親会社のものだけである。このカラクリを使って、平均年収を大きく見せている例もある。

近年「ブラック企業」としての批判が高まっている外食大手・ワタミは、2011年度には「平均年間給与」が560万円もあった。これを以って当時のワタミは、他の外食チェーンよりも高給を払っているからウチはブラック企業ではない、と声高に広報していた。
確かに、近年業績を急拡大させており「日本一の、ホワイト企業を作ろう」というメッセージを新卒採用ページで打ち出すなどはっきりとブラック企業対策を意識している「鳥貴族」でさえ平均年間給与は491万円で、その他の上場している外食企業の平均年間給与は軒並みそれ以下の水準に止まっていた。


しかし、ワタミグループは昨年度期までで全体で6000人の社員を抱えていたが、「提出会社」として記載されていたのは本体にいるたった100人ほどのみだった。今期になってグループの再編が進むと、本体の社員数は1778人にまで膨らんだ。すると、そこで明らかになった平均年間給与は約356万円と、他の外食企業より低い水準であった。リストラが進んだもののワタミグループ全体の人数は未だ3500人ほどおり、約半数の給与水準は不明なままだ。「ホールディングス制」などの会社形態で、グループ全体では多くの社員を抱えているのに親会社には少数の社員しかいない場合は、正確な平均年収を算出するのは困難だ。

他にも、ゲームソフトの販売・開発大手であるスクウェア・エニックスの平均年収は昨年度で1403万円となっているが、これはスクウェア・エニックス・ホールディングスの提出会社に所属する社員たった19人の平均に過ぎない。
連結会社全体では3924人もの社員がいるので、全体のたった2%の社員の数字しか開示されていないことがわかる。

もちろん、逆に見かけの数字が小さく見えている例もある。総合商社や大手金融機関では毎年、いわゆる「総合職」と「一般職」をそれぞれ採用している。バリバリと出世を目指す総合職と、事務仕事中心の一般職では給与水準に違いがあるが、その詳細は有価証券報告書内では明らかにされていないので、一律「平均年間給与」として表示されている。三菱商事・三井物産・伊藤忠商事・住友商事・丸紅のいわゆる五大総合商社の平均年収は上場企業の中でもテレビ局などと並んでトップクラスとされているが、総合職として入った場合は見かけよりもさらに高い給与水準が見込めるというわけだ。

ただいずれにせよ、注意すべきなのは平均年間給与は「現時点での数字」に過ぎないということだ。
今後業績が厳しくなっていく業界においてはじわじわと人件費は削られていくだろうし、逆もまた然り。
見かけの「平均年収」には振り回されすぎない企業選びが重要だ。

取材・文 大熊将八(おおくましょうや)
財務分析と取材の両面から企業を調べることを得意とし、現代ビジネスなどで企業分析記事を連載しているほか、「進め!!東大ブラック企業探偵団」というビジネス書を講談社より出版、東大や京大の大学生協でベストセラーとなる。分析術を活かして、就活生の進路相談にも乗っている。

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