銀二に教わった事
とある雑居ビルの屋上に呼び出された森田(池松壮亮)は、銀二(リリー・フランキー)に別れを告げられる。銀二は餞別に5000万、さらにとある2択を用意していた。その2択とは、何も入っていないトランクと5億円入っているトランクの2択を選べというもの。だが、この挑戦を受ける場合、5000万は貰えない。森田は、迷わず5000万を捨てて2択にチャレンジする。
森田は一方のトランクを選択する。そして、銀二が選ばれなかった方のトランクを持ち運ぼうとすると、2つとも空ことを疑い「そっちの中身を見せろ」と要求。しかし、銀二が開けるとそこには札束の山が…。一人になった森田が、残されたトランクを開けると、一番上だけ本物の万札と後は偽札が詰まったトランク、それと「2択の秘訣は両方偽物を用意すること」と書いた手紙だった。森田は、この偽札を本物の5億にしてもう一度銀に会いにいくと決意する。
セザンヌ編・金の橋
森田は、とある喫茶店で画家を目指している青木美沙(鉢嶺杏奈)と出会う。美沙がポール・セザンヌい精通している悪徳画商・中島(佐野史郎)に騙されている事を知る。そこで森田は、帝日銀行の土門頭取(大石吾朗)からおよそ10億の価値を持つセザンヌの“ジャドブッファンの眺め”を騙し取り、銀二に教わったことをヒントに中島にあるギャンブルを仕掛けた。
そのギャンブルとは、一級品の贋作と美沙が書いた明らかに下手な贋作を含めた3枚の中から本物を選べという物。
中島目線で強いられる恐怖
この金の橋は、福本作品には珍しく主人公が仕掛ける側のギャンブルだ。何重にも張り巡らされた罠を、悪役の中島が受ける事になる。心理描写もほとんど中島のものだ。つまり、7億を失う道筋、決着が着いた時の喪失感を視聴者は中島目線で味わわされることになるのだ。これが本当に怖い。
中島はこのギャンブルが開始された当初から、“正解は本物”と見抜いていた。しかし、「美術評論家を紹介する」と美沙を騙し、本物の額縁に印を付けていた事により、どうしてもその印が見たくなってしまう。この時点で中島は、本物を見分けるのではなく、印が付いている物を探す事に集中してしまう。
そして中島は“金の橋”を作り渡ってしまう。本物は真ん中だとわかっているのに、印が見える位置までドンドン金をつぎ込み橋を架ける。こうなると、金を失いたくない気持ちから、より勝負を確実なものにしたくなり、なおも金をつぎ込んでしまう。あげく、1億でライトを上から照らしてほしいと森田に要求。森田は、これを快く承諾する。
ライトのおかげで中島は印を発見することが出来た。それは予想通り真ん中の額縁にあった。しかし、よく見るとその印は丸で囲まれている。当然これは印に気付いた森田がやったものだ。中島は疑心暗鬼になり、手籠めにしたはずの美沙まで疑ってしまう。
“金の橋”の怖さは「わかっているのに選べない」を作り出している所だ。銀さんは「穴だらけ」と指摘しているが、もし、中島が即決即断の豪快な男だったとしても、真ん中は選べなかったのではないかと思う。中島本人も言っているが、5万50万の勝負ではなく、これは10億の絵画が掛かった勝負。どんな人間でも事細かに、より確実にものにしたいという心理が出てしまう。果たして、“金の橋”を架けずに真ん中を選べる人間なんているのだろうか。
今夜から“ポーカー編”がスタート。森田の名言、「オレが積もう、ヒジの高さまで」が飛び出す。
(沢野奈津夫)