平日午後のゲーセンはカオスである。男子高校生がかったるそうにチャレンジするクレーンゲーム。明らかに営業サボってるスーツ姿のおっちゃんが燃えるメダルゲーム。出勤前と思われる夜のおネエちゃんが画面に向かって無表情でぶっ放すマシンガン。で、コーラを飲みながらウイイレする俺。
こののんびりとしたスローな時間の流れには、懐かしさすら感じる。
憧れの場所だった東京のゲーセン
20年前、地方の中学生にとって東京のゲーセンは憧れの場所だった。かつて90年代に「ゲーセン黄金時代」と呼ばれた頃の話である。
91年の『ストリートファイターII』、93年の『バーチャファイター』らの登場をベースにした格闘ゲームブーム。
ゲーセンではストIIの周りを、通称“ベガ立ち”と呼ばれた腕を組んで立つ男たちがぐるりと何重にも取り囲む異様な熱気に溢れていた。
100円玉1枚で見れる一瞬の夢。
何人もの有名ゲーマーが登場し、その様子を報じる深夜番組『トゥナイト』(テレ朝系列)を観て「いつか俺も高田馬場のゲーセンで戦ってやる」なんつって心に誓う中学生多数。
受験も部活も中途半端に終わった少年たちにとって、唯一熱くなれる場所がゲーセンの格闘ゲームだったのかもしれない。
突っ込みどころ満載! 映画版『ストリートファイター』
そんな格ゲーブームの中、95年5月に日本公開されたのが映画『ストリートファイター』である。本国アメリカでは94年に公開された本作は、登場人物設定こそ『ストII』をベースにしているが、主人公はリュウとケンではなく、ジャン=クロード・ヴァン・ダム演ずるガイル大佐の異色作。
軍事国家を築く独裁者バイソン将軍を倒すために敵地に乗り込むガイル大佐と仲間たちという、それヴァン・ダム映画で何度も観てるよ的な設定で、例によってキャラ造形はアメリカンテイストでかなり大雑把。
最強ヒロイン春麗が悲しいことに熟女だし、黒人ボクサーM.バイソンはマイク・タイソンから訴えられないようにバルログへと名前変更。だいたいリュウもケンも見た目が超弱そうじゃねえかと突っ込みどころは満載だ。
ネタバレをかました故・淀川長治
97年12月のテレ朝『日曜洋画劇場』放送時には、故・淀川長治先生が「見所はガイル大佐とラウル・ジュリア演ずるバイソン将軍の対決ですね。さあどっちが勝つか、どっちが勝つか。…それはもうご覧になる前からクロード・ヴァン・ダムが勝つことが分かりますけど」と放送前にナチュラルにネタバレをかましてしまうミステイク。
けど、ある意味ポップコーン片手に安心して見れる90年代の王道アクション映画とも言えるだろう。
結末は観る前から分かってる。実際、久々に見返してみたら最初から最後まで明るく楽しいテイストで、ストIIファンだけでなく安定の娯楽作品として充分楽しめた。
ED曲はチャゲアス
ちなみにエンドロールで懐かしのチャゲアス風の洋楽が流れたと思ったら、クレジットを確認するとガチでCHAGE&ASKA『SOMETHING THERE』とあって驚愕。
調べてみると、日本公開時には映画本編前にこの曲のPVが劇場で流すという、今やったら炎上上等のプロモーションを展開していたようだ。
90年代、チャゲアスの『YAH YAH YAH』をカセットウォークマンで聴きながら、ゲーセンまでチャリをこぎ「今からダルシム これから一緒に殴りにいこうかぁ~」と口ずさみ『ストII』をプレイしていた中高生が日本全国に推定30万人はいたはずだ。
オンライン対戦ではなく初対面同士で顔を合わせてガチで戦う、90年代のゲーセンファイトクラブ状態。そのすべては『ストリートファイターII』から始まった。90年代後半には格ゲー熱は落ち着くが、やがてそれはK-1やPRIDEといったリアルな「総合格闘技ブーム」へと繋がっていくことになる。
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『ストリートファイター』
公開日:1995年5月6日
監督:スティーヴン・E・デ・スーザ
出演:ジャン=クロード・ヴァン・ダム、カイリー・ミノーグ、ミン・ナ、ラウル・ジュリア
キネマ懺悔ポイント:43点(100点満点)
ストII映画で思い出すのは、挿入歌の小室哲哉プロデュース作品、篠原涼子『恋しさと せつなさと 心強さと』はなんと200万枚突破のダブルミリオン達成……と言ってもこの曲が使われているのはこの実写版ではなく、94年夏公開のアニメ版『ストリートファイターII MOVIE』の方なのでご注意を。
(死亡遊戯)
※イメージ画像はamazonよりストリートファイター [DVD]