あだち充の「タッチ」といえば、上杉達也・和也の双子兄弟と幼馴染の朝倉南の3人を中心とした、高校野球と恋愛の二本柱で物語が展開していく青春漫画の金字塔だ。

「タッチ」がファミコンソフトとして登場したとき、誰もがまず野球ゲームを想像した。
しかし違った。野球ゲームではなかった。「シティ・アドベンチャー」、「さわやか三角関係をロールプレイ」。箱にはそう記載されていた。アドベンチャーゲーム? RPG? なんのことやらわからなかったが、なんとなくこう理解した。そうか、恋愛ゲームなのか。


期待を大きく裏切るハイレベルクソゲー


野球要素ゼロ、恋愛要素ゼロ、世紀のクソゲー「タッチ」の想像を絶する破壊力
画像はAmazonより

ゲームにおける期待というのはしばしば裏切られる。今も昔もそれは変わらない。良い方向に裏切られるのは僥倖だが、悪い方向である場合も多く、それは瞬く間に落胆・憎悪の対象となり、最終的には買った自分がバカだったという自己嫌悪に着地する。

「タッチ」を題材にした『CITY ADVENTURE タッチ MYSTERY OF TRIANGLE』はまさに後者だった。昨今、漫画原作の実写映画などで、原作無視の展開がたびたび批判の的となっているが、「タッチ」はそんなレベルにないほど原作を大きく無視した意味不明なゲームだったのだ。

クソゲーと言われるゲームの中には「愛すべきクソゲー」と呼ばれる類のものも少なくない。しかし『CITY ADVENTURE タッチ MYSTERY OF TRIANGLE』は世に出してはいけない類のクソゲーだった。


野球も恋愛も一切関係ないアクションゲーム


果たしてこれは、まさかのアクションゲームだった。しかも、野球要素も恋愛要素もなし! このゲームのあらすじを要約すると「飼い犬パンチの仔犬10匹を集めるためにパラレルワールドを3人で冒険する」というものだ。タッチを題材にする必要が1ミリもない! ちなみに原作ではパンチの仔犬は2匹だ。

説明不足と高難易度がクソゲーたらしめる所以


このゲームがクソゲーといわれる理由は、タッチという題材が一切生かされてないことだけではない。それに加えて、ゲームの説明が圧倒的に不足していること、そして無駄に高い難易度こそが、クソゲーたる所以なのだ。

まず、ゲームがスタートしても道中にほとんどヒントがないため、どう進めばいいのかわからない。もちろん、漫画に登場した他のキャラクターなど一切登場しない。
RPGなら村人に話しかけて進むべき道を切り拓いていけるが、このゲームでできるのはただただマップ上をうろつくことだけなのだ。進みながら学んでいくわけだ、何かを…。

アクションゲームであるがために、マップ上には敵がウヨウヨしている。中には戦車なんて物騒なものまで登場する。達也と和也は素手のパンチもしくはボールを投げて敵を撃破する。あ、ちょっと野球出てきた。


達也・和也は敵を倒すたびに経験値を得ることで自身の数値を上げることができる。しかし、なぜかこの経験値が体力と同義でもあるため、攻撃を食らうと数値が減ってしまう。さらに、マップ上に点在するショップ内での買い物についても、お金の概念がないのか獲得した経験値から支払われる。わかりやすく言えば経験値=体力=所持金なのだ。クソ設定というか、意味不明すぎる。

南はといえば達也と和也について回るだけで、敵に触れても死ぬことはない。
こう書くと人畜無害なカワイイやつに感じるが、実際のところ南が敵に触れると「もう たっちゃんなんとかしてよ」などと悪態をつき、ダメージはすべて達也と和也に降りかかる。足手まとい以外の何者でもない。

まさかの原作無視、ジャンルはアクション、そして伝説級のクソゲー具合、あだち充が激怒したためこれ以降ゲーム化が許されなくなったなんて都市伝説は一度でもこのゲームをプレイすれば誰もが納得してしまうだろう。
(空閑叉京/HEW)