日曜夕方の人気アニメ『ちびまる子ちゃん』『サザエさん』の深読みが密かな人気を集めている。
両番組とも、昭和の家庭を描いたアットホームなアニメながら、ネットでは主人公よりも脇役に注目が集まっている。


『ちびまる子ちゃん』では、強烈なワガママで周囲を巻き込む前田さんがクズすぎると話題になり、『サザエさん』においても壁の落書きに名前を付けるなどサイコパスな行動を繰り返す堀川くんが話題だ。

こうしたアニメ作品を斜め上の角度から楽しむ手法はネット時代に広く定着したといえる。アニメに別の映像をつなぎ合わせる“MAD”や、キャプチャ画像を加工する“クソコラ”などはよく知られている。

ベストセラーとなった『磯野家の謎』


だが、ネット以前にも同様の楽しみ方は存在していた。それが謎本である。
1992年に発売された『磯野家の謎:「サザエさんに隠された69の驚き」』(飛鳥新社)は200万部を超えるベストセラーとなった。翌年には続編として『磯野家の謎おかわり』も発売されている。
本シリーズのヒットを受け、のちに多くの作品の謎本が作られることにもなった。

『サザエさんの謎』の著者は、東京サザエさん学会(略称はT.S.G)である。出版のためにでっちあげられた団体のように見えて、巻末の紹介欄には「1981年に創設され、東京在住の教員・編集者・学生数人が集まり、作品からよみとれるかぎりをよむ目的で、資料収集・分析をすすめている」とあり、なかなか本格的だ。

磯野家は実は資産家だった?


本書が対象とするのはアニメではなく、原作となった漫画の単行本である。漫画に描かれている内容を徹底して分析し、最後に筆者の考察という名の妄想や願望が書き加えられている。

例えば問3「磯野家にトイレがたくさんあるという噂は本当だろうか?」においては、7人家族が住む平屋建ての住宅に3つのトイレがあると指摘。
「これはおそらく波平が、将来カツオが嫁に来たときのためにと考えてのことだったのだろう」と磯野家の事情をおもんぱかる。

さらに問8では、世田谷区新町に一軒家を持つ磯野家の住宅事情は、最初は借家だったものを買い取っていると指摘し、間取り図も作成している。
5つの部屋と台所に加え、庭には離れの物置部屋を持つ磯野家の敷地はおよそ100坪、土地だけで磯野家の資産価値は2億円と分析する。庶民的に見える磯野家は、実は資産家だったのだ。

ところで漫画版『サザエさん』はもともと終戦直後の1946年から新聞連載の四コマ漫画としてはじまったものであり、最終的に『朝日新聞』に連載された。
磯野家の人々が持っていた政治観、芸術観のほか、サザエのファッションセンスは時代に合ったものかといった流行論も本書で語られている。戦後の庶民生活史の検証資料として『サザエさん』は使えるのだ。

お硬い話題ばかりではない。誰もが一度は疑問に思う、ほとんど出てこないマスオさんの実家について、ノリスケは新聞記者なのになぜヒマそうなのか、磯野家の住人はなぜあの髪型なのか、といった素朴な疑問にも一応の答えを出している。

謎本の中には書き飛ばしたようなものも多いが『磯野家の謎』は細かい分析がなされており、なにより対象への愛情が感じられる良書である。『サザエさん』深読みの副読本としておすすめしたい。


※イメージ画像はamazonより磯野家の謎
編集部おすすめ