芸人が書いたネタを役者が演じる『笑×演』(テレ朝)。過去2回特番が放送され、この4月からレギュラー放送が開始された。


芸人はあくまでネタを書き、演出し、客席で見守るだけ。本番の舞台には役者のみが立つ。番組は芸人と役者の初顔合わせから、台本の読み合わせ、立ち稽古まで密着。芸人と役者がそれぞれこだわるポイントを見せてくれるのだ。これまでの放送から「ネタ作り」と「役作り」のプロ根性を振り返る。
「笑×演」で芸人と役者のプロ根性がガチでぶつかっている
イラスト/小西りえこ

「腹立つけどコイツが好き」


『笑×演』では、ネタを演じる役者が最初に決まり、芸人は役者にあててネタを書く。そのため、芸人は自分たちと異なるキャラクターのネタを書かねばならないことがある。

例えば、アルコ&ピースが担当したのは原扶貴子&尾上寛之。男女コンビであり世代差もある。同性同年代のアルコ&ピースと真逆だ。ネタ作り担当の平子は一瞬戸惑うも、「あらゆるギャップを活かすか……あえてそこを殺すっていうボケ方もあるんですよね。逆に幅広がっちゃうんですよ」と、すぐに意識高い系の発言にシフト。ワイプの中のバカリズム&ザキヤマ(番組MC)に「すげぇクリエイター感」「あのメガネの直し方やめろよ」「絶対誰か馬鹿にしてるよな」と散々ツッコまれる。


完成したコントは、母親が独特のやり方で息子を寝かしつけようとするもの。朗読に定評がある原を活かした形だ。一度読み合わせしてみると完璧な演技……なのだが、平子は完璧すぎて引いてしまう。

平子「銀河劇場で見るような演技ですよね。お笑いの劇場はもっと小さいので……」「僕らの単純な好みとしては、ドラマ仕立ての動きとか言い回しよりはドキュメンタリータッチな、日常に寄った感じのでやってるんです」

劇場の演技では大きすぎ、テレビの演技よりは客を意識しないといけない。演技を押さえながら、日常から徐々に逸脱していくよう演出していく。

なすなかにしも、自分たちではできない「身長差」ネタの漫才を作った。役者は身長191cmの小林正寛と、身長161cmの矢本悠馬のコンビ。身長差30cmを活かさない手はない。

一通り読み合わせたあと、小林が「漫才をやるとき、最低限のルールみたいなのはあるんですか?」と質問。ツッコミを担当する那須の答えは「(ツッコミ役の)矢本さんが、(ボケ役の)小林さんを楽しんでる感じがよいと思います」

なすなかにし那須「このボケが好き。腹立つけどコイツが好き。
ツッコミって、基本そうだと思うんで」
なすなかにし中西「……そう思われてるとは思わなかった」

思わぬ所でコンビ愛を確かめることになった、なすなかにしの二人である。

「まだ立ちじゃない方がいいですよね」


台本が横書きだったり、センターマイクを意識しなけらばならなかったり、演技の仕事とは異なる世界に戸惑う役者たち。Aマッソ×金子昇&清水一希では、シュールすぎるAマッソのネタに役者二人の理解が追いつかず、実際にAマッソが手本を見せることになった。Aマッソのネタを見た清水があることに気づく。

清水「めっちゃノッキングするんですね、台詞」
Aマッソ加納「ノッキングってなんですか?」
清水「『おぉ〜何やってん』って、(台本には)『おぉ〜』って書いていないじゃないですか。間を使うというか……」「ノッキングで笑いを取れって言ってくる演出家さん監督さんもいますし、ノッキングしているところを削ってキュッとさせる演出家さんもいますし」

Aマッソが意識せずに使っていた「おぉ〜」などの台詞のつなぎ。役者は演出家のプランを踏まえ、全て意識して発声せねばならない。細かいところだが、ここにも芸人と役者の意識の違いがある。

台本に対する意識の違いは、うしろシティ×神保悟志&高杉亘でも見られた。最初はネタの面白さを5分かけて説明する場面もあったが、理解してからの読み合わせはバッチリはまった二人。うしろシティ阿諏訪が「台本持って立っていただいても」と促すが、二人は顔を見合わせてやんわりと断る。

神保「まだ立ちじゃない方がいいですよね」
高杉「寝かせたいですよね」
神保「台本をいただいて覚えるのもそうですけど、自分の中で考える時間が欲しいです

すぐに立ち稽古に移らず、まずはどんな演技にするのか自分の中で考えたい。若手が作った台本でもきちんと「寝かせる」ベテランに、役者の矜持を感じる場面だった。
ちなみに『笑×演』は読み合わせと稽古を別日程にしている。役者が台本を消化する時間をきちんと用意しているのだ。

小沢兄弟の本気


最後に、ベテランが大爆発したタイムマシーン3号×小沢仁志&小沢和義の回に触れたい。

強面の役が多く、それぞれ「顔面凶器」「顔面暴力」という物騒な異名を持つ小沢兄弟。控え室では二人と黒ずくめの衣装でソファに体を沈めており、タイムマシーン3号に向けた第一声は組んだ足をほどきながら「面白いもの、書けた?」だった。ビビらない方がおかしい。

ネタは漫才。最初は強面のイメージで登場するが、後半になるにつれ「実は二人共かわいいものが好き」というキャラに代わり、最後はかわいいキャラ同士で改めて漫才をするというもの。前半で丁寧に振り、後半にギャップを持ってくる鉄板の構成である。

ただ、かわいいキャラを受け入れてもらえるか……と、読み合わせでは喉の渇きが止まらないタイムマシーン3号の二人。台本を一読し「これは大変だ(笑)テンポがいいから」と破顔一笑する小沢兄弟を見て、ほっと胸をなで下ろす。

ここから小沢兄弟の本気(と書いてマジ)な取り組みが始まる。
わからないことは全部聞く。

小沢和義「話しているとき、どう目線を送るの?こっち(お客さん)主体にして『知らねぇよ』っていうのか、こっち(相方)主体にするのか」
タイマ山本「しゃべってるんだけど、お客さんに聞こえない二人だけの心の声みたいな感じです(すぐに二人でやってみせる)」
小沢和義「なるほど、すっごいわかりやすい」

稽古では実際にタイムマシーン3号の二人がお手本を見せ、それを小沢仁志がスマホで動画に収めていた。本番直前まで舞台袖で稽古し、二人の手でハートを作るくだりについて「おいカズ、このハートもっとわかりやすい方がいいんじゃねぇか。この方がハートがよく見えるだろ」と角度を研究していたという。

小沢兄弟の本気は見事なギャップを生み、結果は大爆笑。タイマ関は「やったぞ!」と手を突き上げ、MCのザキヤマは「あんなのやったら面白いじゃん!ずるい!」と悔しがる。コメントを求められてた小沢仁志はこう締めた。

小沢仁志「まぁ、必ず死ぬと書いて必死だね

芸人と役者、プロ達の「必死」が一夜限りの晴れ舞台を作り上げる。『笑×演』(テレ朝)は毎週水曜深夜1時56分から放送中。TVerの見逃し配信でも観ることができます。

(井上マサキ)
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