料理人に女性が少ない理由を聞いた 問題は長時間労働、育児への無理解
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昔から料理人やシェフといえば男性のイメージがあり、まだまだ女性が少ない。その理由を調理師専門学校の女性教授や女性パティシエに聞いて探ってみた。


なぜ料理人は男性のほうが多いのか


厚生労働省「平成28年賃金構造基本統計調査」の「調理士」の項目を見てみると、男性の数のほうが多い。およそ男女比は「7:3」か「6:4」になっている。

調理士 男 120,110人
調理士 女 68,420人
調理士見習い 男 15,340人
調理士見習い 女 19,130人
参照:厚生労働省「平成28年賃金構造基本統計調査

このように、料理人に男性のほうが多い理由はどこにあるのだろうか。辻調理師専門学校 日本料理教授の若林聡子さんと、ポッシュ・ドゥ・レーヴ芦屋 オーナーパティシエールの伊東福子さんに、率直な意見を聞いてみた。

●料理の世界は“男性社会”というイメージが残っている
「昔からイメージは大きいと思います。事実、私も料理人の道を選んだ高校2年生とき、担任に『料理の世界は男性社会なので無理だと思う。無理よ』とはっきり言われたことがありました。男性社会というイメージや、力仕事も多く、厳しい社会であるというイメージが、まだ残っているのだと思います」(若林さん)

●妊娠・出産が想定され、職場が男性中心
「女性の場合は、どの仕事もその傾向がありますが、キャリアを積んでも妊娠・出産などを機に仕事から離れないといけないと共に、復職するのもむずかしい状況があります。もし仕事に戻れたとしても、仕事の核となる部分を任せてもらうのはむずかしいこともあります。
雇う側の立場からすると、若い女性を採用したとしても『どうせ妊娠・出産で辞めるだろう』という想定があり、どうしても将来的に見て、男性に育成を注力しがちです。そのため、最終的には男性中心の職場ができるのだと思います」(伊東さん)

●長時間労働の環境が多い
「職人の世界であるため、長時間労働になっている環境が多く、女性はその環境についていけない場合も多いと思います」(伊東さん)


男性の料理人と女性の料理人に違いはある?


ところで、仕事をする上で、女性の料理人として男性の料理人にはかなわないと感じることはあるのだろうか。

「力仕事は男性にはかないません。他は特にありません」(伊東さん)

「力仕事だけだと思います。お客様への接し方、調理作業の段取り、発注等の事務処理など、つまり『考える』ことについては、何の問題もありません。
技術に関しては練習すればできることです。
ただ、とても重いものだけは男性に手伝っていただきます。その代わり、助けていただくだけではなく、男性が苦手とする分野、例えば縫い物などは、女性が率先すれば大丈夫です」(若林さん)


女性の料理人のほうが正直勝っていると思う点


料理人に女性が少ない理由を聞いた 問題は長時間労働、育児への無理解
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反対に、正直、男性の料理人より女性の料理人のほうが勝っていると思うところを聞いてみた。

「繊細、かつ柔軟性がある仕事は、やはり女性の方が勝っている部分かと思います」(伊東さん)

「私は入職して6年目までは、技術や努力において男性より上でないと女性がこの世界で認めてもらえないと感じていました。毎朝、出勤も誰よりも早く来て、誰よりも遅く帰ることを実践し、がむしゃらに働きました。
しかし6年が過ぎ、周りが見えてきた頃、茶道・華道・書道・着付けや和紙など、日本文化を勉強しようと思い、仕事とは別に習いに行くようになりました。すると私にしかできない仕事ももらえるようになり、段々と自信につながりました。日本料理の醍醐味でもある、料理の盛り付けは一番楽しいと思えるようになりました。こうした女性にしかできない分野から見た場合、男性よりも勝ることがあると思います」(若林さん)


女性の料理人が増えない理由は?


女性の料理人は、力仕事以外では特に男性との差はないようだ。女性料理人ならではの強みもある。しかし、現状、男女比ははっきりしている。女性の料理人が増えない理由はどこにあるのか。最後に、2人に意見を聞いた。


●働く環境がまだまだ遅れている
「女性が料理人として働き続けようと思うには、労働時間の改善と採用する側の意識改革が必要だと思います。出産をした後でも再雇用すると共に、パート・アルバイトの方がするような仕事を任せるのではなく、きちんとその人の実力に見合った待遇、仕事を与えることが大切かと思います」(伊東さん)

●出産・育児との両立がむずかしい
「この業界に女性の進出が増えない理由の第一は『出産』だと思います。当然ながら出産とは子供を産むことだけでなく、育てなければなりません。子供の成長の中には、病気になる、学校行事で仕事を休まなければならないなど自分のペースで働くことができない事情があり、それは繰り返しやってきます。
普段の生活でも、常に時間を気にしながら、分単位、秒単位で計算しながら働かなければなりません。これが長年続きます。兄弟が増えれば20年近く悩む内容かも知れません」(若林さん)

●社会的な支援・理解がない
「母親の悩みを共有するためには、同じ境遇を経験するしかないでしょう。経験がなくとも周囲に理解ができる人材の育成がなされていないことも問題かと思います」(若林さん)

「社会的支援も必要だと思います。雇用する会社側への出産前後、子育て期間の手厚い支援制度のさらなる拡充が、実力ある女性料理人の継続雇用につながるきっかけになると思います」(伊東さん)

(石原亜香利)

●取材協力
辻調理師専門学校 日本料理教授
若林 聡子(わかばやし さとこ)さん
1992年辻調理師専門学校卒業。茶道、華道、器など幅広い知識を持ち、日本料理専任の教員として学生指導にあたる傍ら、テレビ「二人の食卓」や新聞、雑誌、海外イベントなどに多数出演。
http://www.tsujicho.com/

ポッシュ・ドゥ・レーヴ芦屋 オーナーパティシエール
伊東 福子(いとう ふくこ)さん
「実力ある女性パティシエに活躍の場を提供する。」「いつまでもお菓子作りに携わりたい」という女性パティシエの夢・想いを込めて、「ポッシュ・ドゥ・レーヴ=夢のポケット」という店名にしています。
http://www.poche-du-reve.com
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