朝ドラに関するインタビューのはずが、ついに話題はふたりが今ドハマリしている昼ドラ『やすらぎの郷』(テレビ朝日系・2017年 レビュー)の話に。
月〜土と月〜金の帯ドラマという意味ではフォーマットが似ている朝ドラと昼ドラ。朝ドラ的な目線で見た時の『やすらぎの郷』の魅力とは!?
第一回
第二回

「すごい上手いな、倉本聰先生」としか思えない
───かつては、明るく爽やかな朝ドラに対して、ドロドロした昼ドラという補完関係がありましたよね。
木俣 『牡丹と薔薇』とか『愛の嵐』とかですね。
───そのフジテレビの昼ドラ枠がなくなっちゃって悲しんでいたんですが、そこで『やすらぎの郷』ですよ!
木俣 時代を考えると、『ひよっ子』(第96作・2017年前期)のみね子たちが見ている映画で活躍していた俳優たちが、今「やすらぎの郷」に入っているとも考えられるんですよ。
吉永小百合さんとか植木等さんのお名前は出てきていますけど、八千草薫さんが『ひよっこ』に出てきてもいいですよね。野際陽子さんや冨士眞奈美さんはNHKにいたこともあるし。
───そのコラボレーション、見たいですね。朝ドラと昼ドラって帯ドラマというフォーマット的にも似ていますが、朝ドラ的視点で見ると『やすらぎの郷』はどう思いますか?
木俣 倉本先生は、こういう毎日15分くらいの長さの帯ドラマに初めて挑まれたのだと思うのですが、ツボを完璧に抑えていらっしゃいますよね! いいあんばいにエンタメと社会派の要素が盛り込まれているし、飽きさせない。
───朝ドラの場合、時々まとめ切れずにとっちらかっちゃっている脚本家の方も……。
木俣 今は、ほとんどの作家さんが1時間ものの連続ドラマに慣れていますから。毎週1時間の中で起承転結をつけて、10週間で終わり……みたいな。
それが朝ドラでは、毎日15分の中に起承転結をある程度つけながら、月〜土の1週間の中でも起承転結をつけて、さらに全体で半年間の大きなドラマも作らなくちゃいけない。毎日レビューを書いていると作家さんの苦労を感じますね。
逆に、起承転結のリズムをキレイに作り過ぎちゃうと、今度はドラマが単調になっちゃうんですよ。どこかで技をしかけていかないと、ダラーッとした印象になっちゃうんです。
朝ドラをはじめて書かれる方が、そういう部分でつまずかれて、エアポケットみたいな1話が出来ちゃうこともあるんだろうなと思いますね。
───脚本の執筆ペースが朝ドラとは違うというのもあるかも知れませんね。『やすらぎの郷』の方は、各キャラクターの経歴年表を作るのに1年かけたとか聞きますし。
木俣 追い立てられずに自分のペースでいい感じに考えていたんでしょうね。
井上ひさしさんとかもそうだけど、昔の作家さんは執筆に入る前にちゃんと設計図を作ってやってらっしゃるから、簡単に突っ込まれるような穴がないんだと思いますけどね。
今の作家さんたちもやっていないわけじゃないんでしょうけど、朝ドラの制作スケジュールを考えるとどうしても書くペースがギリギリになっちゃうので。かな。
実際に放送されてから、視聴率をかんがみて変えていったりとか、そういうこともあるのかも知れないですね。
レビューを書く側も覚悟が必要
───「突っ込み」に関しては、今はSNSがあるという問題もありますよね。かつては多少脚本に穴があっても、気にせず流して見ていたわけじゃないですか。
木俣 最近はすぐ突っ込まれちゃいますからね……。
紙媒体だったら「いかがなものか」とか書いてもそんなに拡散されなかったし、物議を醸すことってなかったですけど、今はすぐに反応があるから。
───ドラマの脚本や、ネットの記事などに対して「オレの方が分かってる!」とマウンティングしたがる人も多いですよね。
木俣 誰でも簡単に情報を発信出来るようになって、プロとアマチュアの境界が曖昧になってきた感じはしますよね。実際、アマチュアの方のほうが熱心に毎日細かく見て書いてるなんてこともあるし。
───ネットのそういう書き込みって、実は制作者側も見ているでしょうからね。
木俣 「ネットの評判は見ていない」っていう人もいますけど、絶対見てますよね。私たちだって自分の記事の評判をエゴサーチしたりするじゃないですか。
エゴサーチをしなくても、タイムラインに流れてきちゃうこともありますから、少しは目には入りますよ。
だからこそレビューを書く側も覚悟が必要ですよね。毎日見ています、本にもビデオにも身銭切ってます。

東京都生まれ。フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。エキレビ!名物「朝ドラ各話レビュー」をきょうも連載中(いまは「ひよっこ」)
朝ドラ100作目は誰が書くのか!?
───『あまちゃん』(第88作・2013年前期)などで、朝ドラの視聴者層が広がったとはいえ、いまだに熱狂的に好きな人と、まったく見ない人に二分されていると思いますが、「朝ドラを見ない」人たちに朝ドラをお勧めするとしたら?
木俣 まったく見ない人っていうのは、私がかつて「朝ドラを見ているなんて、ドメスティックな人だと思われそうでイヤだわ」と思っていたのと近い気持ちなのかなという気がしています。
「すごくオーソドックスな作りなんでしょ?」という先入観があるんじゃないかと思うんですよ。
私は『あまちゃん』をきっかけに、熱心に見るようになりましたが、過去作まで振り返ってみても、意外と作家性が強かったりして面白い作品が多いんですよね。
今が「一番遊び心がある朝ドラ」なんて言われているようだけど、そうでもなく、昔からも色んな仕掛けをしていたし、社会問題を考えたい人たちにとってもチクリと刺さるようなセリフがあったりして。私が言うのもなんですが、朝ドラに対して変な先入観を持たないで見てみてもらいたいですけどね。
もちろん相性があるから「この作品はイマイチだ」というものもあるとは思うけど、ハマればあなたの人生にマッチした、すごく大事な一作になるものが過去96作品の中にはあるんじゃないでしょうか?
───今後、書いてもらいたい脚本家っていますか?
木俣 うーん、そうですね……。『リーガル・ハイ』(フジテレビ系・2012年)の古沢良太さんには書いて欲しいですね。あとは三谷幸喜さんとか。もうすぐ朝ドラ100作目になりますけど、何となく100作目は三谷さんじゃないかという気もしませんか?
───ありそう! 三谷さんに、朝ドラの現場を描く朝ドラを書いてもらいたいです。
木俣 映画『ラジオの時間』みたいなヤツですね。
記念すべき100作目だし、朝ドラのプロデューサーの一代記とか、朝ドラで有名になった役者さんの一代記とかはいいと思いますけどね。
本当だったら橋田壽賀子先生の一代記をご自身で書くというのが一番キレイな形だと思いますけど、橋田先生は『春よ、来い』ですでに自伝的な朝ドラをやっちゃってますから。
……『やすらぎの郷』の後に、倉本聰先生が朝ドラも書いてくれないですかね?
───ああーっ、それは最高です!
(北村ヂン)