
前回の記事では、渋谷で4月から6月にかけて新規オープンした注目スポットの数々を紹介した。
その一方で閉店する店も少なくない。
今回は、渋谷を代表する大型店や有名店でありながら、残念ながら5月から7月にかけて閉店することになった店舗たちを紹介したい。

ブックファースト渋谷文化通り店(6月4日閉店)

かつて渋谷を代表する大型書店であったブックファースト渋谷店。
2007年に東急百貨店本店近くの旧店舗から109前に移転し「ブックファースト渋谷文化通り店」となっていたが、6月4日に閉店してしまった。
旧・渋谷店(現:H&M渋谷店の場所)は6階建てで、大阪市に本店を置く同社にとって東京の旗艦店として親しまれたが、109前への移転後は規模を縮小。近年、店舗近くにTSUTAYA、HMV(渋谷モディ内、書籍扱い)など新たな大型書店が進出した影響もあり、地階という目立たない立地となったブックファーストは苦戦を強いられていたとみられる。
このブックファースト渋谷文化通り店の跡にはヴィレッジヴァンガードの旗艦店「ヴィレッジヴァンガード渋谷本店」が出店している。ヴィレッジヴァンガードは、渋谷センター街の旗艦店「渋谷宇田川店」(2011年開業)を3月に閉店させたばかり。同店の閉店によりヴィレッジヴァンガードは渋谷区から姿を消しており、近隣に新たな出店地を探していたという。
109前という渋谷の一等地だけに、旗艦店として「サブカルの王道」を貫いて欲しいところだ。
GAP渋谷店(5月7日閉店)

この写真はパルコの閉館直前のもので、現在パルコは解体・再開発中だ。
渋谷パルコに行くついでに寄ったことがあるという人も多かっただろうGAP渋谷店。
GAP日本旗艦店の1つとして長年親しまれたこの店舗も、5月7日をもって閉店となった。
GAPは1995年に日本上陸。渋谷店はその1年後の1996年11月に開店したもので、GAP出店に伴い新築された「GAP渋谷ビル」で営業をおこなっていた。建物は3階建てで、売場面積は1,041平方メートル。
近年GAPは売り上げの減少に伴うリストラを進めており、2017年1月には兄弟ブランドの「オールドネイビー」を日本から撤退させている。渋谷店が閉店した要因は、GAPのリストラ方針や出店方針の変化(郊外モールへの出店加速)のみだけでなく、渋谷パルコが閉館したことが大きいだろう。
GAP渋谷店に隣接する渋谷パルコは建物の老朽化のために2016年8月7日をもって閉館。跡地は再開発されて商業施設とオフィスなどを備えた複合ビルが建設される予定で、工事は2019年まで続くことになる。GAP渋谷店はパルコのエントランス対面に位置しており、建替え中は来客数の減少が避けられない状況にあった。
パルコが閉館中ということもあり、GAP跡の建物は後継店舗が入ることもなく空き店舗のままとなっている。周囲の人通りも目に見えて減っており、渋谷公園通りはかつての賑わいを失いつつある。GAPの閉店はまさにそれを象徴するものであったといえる。
一方で、渋谷パルコはパルコ跡に新たに建設される複合ビルに再出店することを目指している。パルコの再開業まであと2年ほど。公園通りは、またかつての輝きを取り戻すことができるだろうか。
ルミネマン渋谷(7月31日閉店)

ルミネ唯一のメンズ館だった「ルミネマン渋谷」。
「ルミネ」という名前を冠していながら駅から離れており、またその規模も4階建て(営業フロアは1~3階)、店舗面積約970平方メートルとルミネにしては小さめ。
ルミネマン渋谷は2009年8月にタワーレコード渋谷店のとなりに開業。コンセプトに「渋カジ復活」を掲げ、主要客層を10代後半から20代前半男子に設定し、アーバンリサーチのワーク・ミリタリー新業態「URBAN RESEARCH ID」、ナノ・ユニバースのメンズ専門店「nano・universe GroundFloor」など16店舗が営業していた。個性的なテナントやイベントも多かったものの、ルミネらしからぬ駅から離れた立地と規模に加えてファストファッションの台頭、109MEN’Sなどとの競合もあり、「復活」の目標も空しく開業から僅か8年であえなく閉店することとなってしまった。
ルミネマン渋谷では閉店セール&フェア<THE LAST>を6月9日から開催している。店舗にはかつて同店で「名探偵コナン」のイベントを開催した青山剛昌さんなど著名人や店舗スタッフからの感謝の言葉が記されている。

さらに7月26日には隣接するタワーレコード渋谷店にて、9mm Parabellum Bullet、DJピエール中野(凛として時雨)、人気Twitterアカウント「ライブキッズあるある」中の人が登場する記念ライブイベントも予定で、それに合わせて1階に出演アーティスト関連商品を取扱う「ヴィレッジヴァンガード」の特設ショップが期間限定出店しているほか、最終営業日となる7月31日には、閉店1時間前から「ラストイベント<THE NEXT>」の開催も予定されている。
ルミネのなかでは比較的地味な存在だったルミネマン渋谷。しかし、閉店まで個性的なイベントが目白押しであり、ぜひイベント開催時に来店して「ルミネらしからぬ雰囲気」を体感してみることをお勧めしたい。
青山アンデルセン(7月31日閉店)

渋谷の宮益坂から青山通りを表参道方面に15分ほど歩いた地下鉄表参道駅近くにある人気ベーカリー「青山アンデルセン」。この人気老舗ベーカリーも、この夏で約50年近い歴史に幕を下ろすことになった。
アンデルセンベーカリーを運営するアンデルセン・パン生活文化研究所 (タカキベーカリー)は1948年に広島市で創業。キャッチフレーズに「パンからはじまる、ヒュッゲな暮らし。」を掲げ、全国各地でベーカリー「アンデルセン」、「リトルマーメイド」、「トランドール」などを展開するほか、西日本を中心に百貨店やスーパーマーケットなどにおいてもパンを販売している。
青山アンデルセンはタカキベーカリーの首都圏旗艦店として1970年開店。1985年現在地に増床移転した。現在は1階にベーカリー、2階・3階にレストラン、地下1階にサンドイッチカフェが出店しており、ランチ時には多くの客で賑わうなど長年に亘って「表参道の顔」として親しまれてきた。

青山アンデルセンの閉店理由は一風変わったもので、店舗の地下にある東京メトロ表参道駅の改良工事によるもの。地下鉄表参道駅はもともと1938年に東京高速鉄道(帝都高速度交通営団の前身)銀座線青山六丁目駅として開業したもので、一部は老朽化が進んでおり、バリアフリー化も含めた大規模な改良工事が必要となっていた。アンデルセンは表参道に再出店したい意向を示しているそうで、数年後には生まれ変わった姿を見せてくれることを期待したい。
なお、アンデルセンベーカリーは東急百貨店東横店や新宿伊勢丹にも出店している。レストランなどは併設されていないものの、パンについては共通のメニューも多いため、あの味が懐かしくなった際にはそちらへ行ってみると良いだろう。
旧ドン・キホーテ渋谷店(5月7日閉店)

前回の記事でも紹介した通り、東急百貨店本店向かいにあった「ドン・キホーテ渋谷店」も新店舗への移転に伴い閉店している。
ドン・キホーテ渋谷店は1999年に開店。5階建てで、当時のドン・キホーテとしては旗艦店級だった。
開店から20年弱、ドン・キホーテは首都圏から全国、国外へと出店エリアを大きく広げるとともに総合スーパー事業へも進出しており、渋谷店は店舗が手狭となったことに加え、総合スーパーへの転換をおこなうために移転することとなった。

ドン・キホーテが渋谷に初出店した頃には考えられない規模の大型店となった。
今回掲載した店舗はいずれも渋谷を代表する大型店だったものの、約10~20年でその役目を終えて閉店を迎えることとなった。
店の移り変わりが激しい街の1つである渋谷。もちろん今回挙げた大型店以外にも、多くの店舗がその歴史に幕を下ろし、渋谷の街を去っている。その陰には、「ブックファースト」や「GAP」などが閉店する一因となった「再開発」や「競争激化」の影響を受けたものも少なくない。
東京オリンピックを控えて刻々と変化し続ける街・渋谷。再開発の槌音が鳴りやまないこの街では、今後はどのような新しい店が生まれ、そしてどのような店が去っていくことになるのだろうか。
(都市商業研究所)