窪塚洋介とDragon Ashの降谷建志。

最近、あらゆるメディアでその組み合わせをよく見かける。
映画『アリーキャット』で初共演を果たしたのである。
別に知り合いでもなんでもないけど、90年代後半から00年代前半の二人をリアルタイムで体験してきた同世代にとってはやはり感慨深い。2人で表紙を飾った雑誌『Men's JOKER』最新号掲載インタビューの「混沌とした90~00年代をサヴァイヴしてきた者同士」というコメントがまた泣ける。
窪塚洋介と降谷建志、2000年代初頭を席巻したその軌跡を振り返る【キネマ懺悔】
『Men's JOKER』8月号

ヒット曲を連発したDragon Ash


気が付けば20年近く前……驚くべきことに、ともに79年生まれの彼らは当時10代後半から20代になったばかりだ。
その頃の2人のキャリアを振り返ると、降谷は97年にDragon Ashのフロントマンとしてメジャーデビュー。98年5月、バンドを代表する名曲2ndシングル『陽はまたのぼりくりかえす』を発売。翌99年には春から『Let yourself go, Let myself go』、『Grateful Days』、『I LOVE HIP HOP』と立て続けにヒットシングルをリリース。

全然関係ないけど、巨人の松井秀喜が初めて本塁打40本台を記録したのはこの年だった。そして、7月23日に発売された3rdアルバム『Viva La Revolution』は約180万枚の売り上げを記録し、オリコン1位を獲得する。

降谷建志が持つポップスターとしての図抜けた才能


当時、大阪のアメリカ村で深夜の街を歩くと、やたらと車高の低い怖いお兄さんたちのカーステレオからは、この間までの鈴木あみではなく爆音で「Viva~Viva~」と流れ、まさに世紀末の音楽革命と驚いたものだ。

その直後、2000年3月にZeep Osakaで開催された“TMC2000”という音楽イベントに行ったら、Dragon Ash人気で会場は満員御礼。まだZeebraに無邪気に憧れて、『I LOVE HIP HOP』を歌っていた頃のKjは20世紀最後のポップスターといった雰囲気で圧倒的にキラキラしていた。
窪塚洋介と降谷建志、2000年代初頭を席巻したその軌跡を振り返る【キネマ懺悔】
『I LOVE HIP HOP』

その手法に賛否はあるだろうが、降谷建志が持つポップスターとしての図抜けた才能、例えば難解なものに大衆性を持たせる簡易翻訳機的な能力が、日本においてまだマニアックだった“HIP HOP”というジャンルを、街のカーステレオまで持ってきたのは間違いのない事実だと思う。

『2000年代初頭に最も売れた俳優』


時を同じくして、窪塚洋介は2000年4月~6月放送のTBS系ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』の“キング”安藤崇(タカシ)役で一気に知名度を上げる。

『ストロベリー・オンザ・ショートケーキ』や『もう一度キス』といったテレビドラマと並行して、『溺れる魚』(01年堤幸彦監督)、『GO』(01年行定勲監督)、『Laundry』(02年森淳一監督)、『ピンポン』(02年曽利文彦監督) 、『凶気の桜』(02年薗田賢次監督)、 『刑務所の中』(02年崔洋一監督)と一癖ある監督たちの映画にも立て続けに出演。


以前この連載で『浅野忠信「90年代最も売れた俳優伝説」を振り返る』という記事を書いたが、窪塚の場合は浅野の次の『2000年代初頭に最も売れた俳優』と言っても過言ではないだろう。混沌の90年代を体現したのが浅野忠信なら、00年代の新しい始まりを感じさせてくれたのが窪塚洋介だった。
その後、ともにハリウッド映画を経験し、あの頃テレビなんか出るわけがないと笑っていた浅野がドラマで木村拓哉と共演、ドラマをきっかけに世に出た窪塚が現在は映画のみの活動に絞っているところにも15年以上の時の流れを感じる。

窪塚洋介とクドカンのゴールデンコンビ


ちなみに『池袋ウエストゲートパーク』、『GO』、『ピンポン』の脚本は“クドカン”こと宮藤官九郎だ。窪塚洋介とクドカンのゴールデンコンビ作品はもちろん今観ても色褪せていない。

『ピンポン』のペコ役で「シグ? 死がねぇよ。空飛ぶんだ。月にタッチするなんてわけないよ。I Can Fly!」と絶叫しながら空を飛ぶシーンは色々と生々しすぎる……というのは置いといて、クドカンが書く人物や台詞に等身大のリアリティを与えられる俳優が窪塚洋介だった。

各映画賞を総なめにした『GO』では、一歩間違えばマンガ的なキャラクターになってしまう在日三世の主人公クルパーこと杉原を熱演。列車が走る線路で命を懸けた全力疾走、元プロボクサーの父親(山崎努)から叩き込まれたキレキレの格闘シーンの身のこなし、まさに肉体派アクション俳優としての資質も存分に発揮している。
窪塚洋介と降谷建志、2000年代初頭を席巻したその軌跡を振り返る【キネマ懺悔】
『GO』

「広い世界を見るのだ」という台詞が似合う窪塚の持つ、純真さと今にも崩れそうな危うさを絶妙なバランスで引き出せるのがクドカン脚本だったように思う。


90年代終わりから2000年代初頭にかけて、それぞれのジャンルで独自の路線を突っ走った窪塚洋介と降谷建志。彼らの時代というより、彼らの存在が時代そのものだった。映画『アリーキャット』はそんな同時代を生きたすべての人に観てもらいたい。


『GO』
公開日:2001年10月20日
監督:行定勲 脚本:宮藤官九郎 出演:窪塚洋介、柴咲コウ、山崎努、大竹しのぶ、山本太郎、新井浩文
キネマ懺悔ポイント:76点(100点満点)
試写会でクドカンは、窪塚演ずる杉原が因縁をふっかけてきた相手を灰皿で殴り、額から派手に流血させるシーンでクスクスと笑い続けたという。原作者の金城一紀も熱望したヒロイン役の柴咲コウ(当時20歳)がやべーくらいに可愛いと公開時話題に。
(死亡遊戯)


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