
人手不足が深刻になる今、企業間では、優秀な人材の争奪戦が起きている。「何の対処もしなければ優秀な社員が辞めてしまい、優秀な人材が採用できない恐れがある」。
優秀な人材に見切りをつけられないためにも、新しい人事評価制度の検討は不可欠だ。企業へと「人が辞めない」人事評価制度の導入・サポートを行っている高橋氏に、古い形骸化した人事制度と、それに取って変わるべき新しい人事制度とはどんなものなのかについて聞いた。
「集団管理」からいまだに脱皮できていない古い人事評価制度

2017年7月19日に開催された「あしたの働き方改革シンポジウム2017」の中で、あしたのチーム代表取締役社長の高橋恭介氏は、過去の人事評価制度の悪い点を是正し、新しい人事評価制度を検討する必要性を呼びかけた。
調査の結果、優秀な人材は「給与と頑張りの連動性がないことが原因」で、辞めてしまうことが最も多いことがわかったという。
つまり「どんなに頑張っても賃金が上がらない」「どうすれば評価が上がるかわからない」と会社に見切りをつけているのだ。
高橋氏によれば、従来型の人事評価制度はもはや通用しなくなってきているという。
「従来の人事評価制度は形式的で、成果が正当に評価されず、フィードバックもされないという、人材育成視点が大きく欠落しています。会社が決めた一律の基準で判断し、社員の“伸びしろ”を考慮しないのです。これは、高度成長期時代の成功体験の名残であり、終身雇用、年功型処遇をベースとした集団管理から未だに脱皮できていないことが背景にあります。
日本の労働生産性の低さはG7中最下位(平成22年 財団法人 日本生産性本部調査)、採用シーンにおいても国際競争力において完敗しています。早急に、従来の集団管理から個別管理へと移行しなければならないと考えます」
「個別管理」の人事評価制度は査定のためのツールではない
古い人事評価制度を「個別管理」に切り替えることで、企業の成長にもつながるという。
「長年勤めていれば自動的に給与が上がるのではなく、社員一人ひとりの成果をもって正当に評価をし、適切にフィードバックを行い人材育成へとつなげる仕組みの導入が必要です。それは、企業成長につながり、“働き方改革”を実現するものでなければなりません」
あしたのチームが目指す人事評価制度とは、次の4つの経営課題に対して効果を発揮するという。
・生産性の向上
・管理職の育成
・離職率の低下
・採用/研修コストの圧縮
「人事評価制度は、査定のためだけのツールではなく、これらの経営課題に対して効果を発揮します。恒常的な人材育成が実現すれば、結果的に、企業業績の向上につながります」
優秀な社員が集まり、優秀な人間が辞めない会社になるだけでなく、業績まで上がってしまうというのが、この新しい人事評価制度というわけだ。
成功している「すごい人事評価」とは
あしたのチームは、すでにこの個別管理の新しい人材評価制度を1,000社以上導入・サポートし、多くの企業業績の向上を達成させているという。その制度のポイントは次の5つだ。
【あしたの人事評価のポイント】
1.行動目標を自分で設定させる
「社員に自ら目標を設定させます。成果を出すための具体的な行動目標ができ、やる気が起きてきます。上司と話し合いながら加筆・修正します」
2.絶対評価
「他人との相対評価ではなく、自分で決めた目標の達成度合いによって評価します。そして報酬を連動させます。目標を達成した人が何人いても全員の給与をアップする絶対評価です」
3.マイナス査定
「評価は評点してランクに分け、細かく報酬に連動させます。このとき、マイナス査定も取り入れます。こうすることで社員は自分の目標達成に対して、緊張感が生まれます。また、入社時の雇用条件と実際のパフォーマンスが著しく異なるなどの『モンスター社員』対策にもなり、社内でフェアな評価が行き渡ります」
4.四半期評価
「年に4回、3ヶ月ごとの細かいスパンで評価すれば、会社は社員へ短期間の行動改善を促すことが可能です。評価のPDCAサイクルが高速で回り、社員の成長速度が速まります」
5.IT化
「評価用紙の記入や回収、集計など、何かと時間と手間がかかっていた人事評価制度をIT化することで、運用負荷が軽減します。
高橋氏によれば、これらを実施する中で、上司と部下が徹底して話をする機会を設けることが重要だという。
「社員が自分の評価=給与が決定する面談に“真剣勝負”で挑むのは当然です。しかし、従来は面談で対面する相手が『人事評価に関する査定権限を持っていない』という問題がありました。必要なのは、経営者が人事の現場に査定権限を持たせること、そして査定権限を持った上司が“本気のコミュニケーション”を通じて、社員の個性や特質を踏まえた可能性からマイナス要素までしっかりと考慮することです」
ブラックな人事評価制度を持つ企業どうかを見分ける方法

すでに多くの企業は試行錯誤し、新しい人事評価制度を取り入れている。転職する際には、ぜひとも優れた人事評価制度のある企業を見つけたいものである。
そのためにはブラックな人事評価制度を持つ企業を避ける必要がある。高橋氏に見分ける方法を教えてもらった。
●ブラック企業の求人広告の特徴
・給与が相場よりも異常に高い。
・給与幅が大きすぎる。その幅の理由が明記されていない。
・会社理念に具体性が乏しく、押しすぎている。
・評価制度が具体的に明記されていない。
・「新卒」「未経験」「若手」大歓迎で、それらの初任給も高い。
・年功制、時間給、成果主義。
「新卒や未経験が活躍でき、それらの初任給も高く設定されている場合は注意が必要です。ビジネス価値の低い単純な仕事で、従業員に消耗品のような働き方を強いる可能性があるからです。すぐに人が辞めるので、ベテランに十分な人材がいない可能性もあります。
また、年功制や時間給の場合、正当に評価する仕組みがない可能性があります。例えば『社長に気に入られるかどうか』が評価、『長時間働く人』=『優秀な人』という勘違い、成果評価のみで社員を使い捨てするなどの悪しき習慣があることが考えられます」
高橋氏によると、企業説明会などでは次のようなことも判断基準とするといいという。
・経営理念や社是が強すぎる
「企業説明会などで人事評価の仕組みの開示を求めたとき、回答は不明確なのに経営理念は熱く押してくることがあります。その場合、理念や社是だけが一人歩きしており、正当な人事評価がされていない可能性があります」
・「最近誰も辞めていない」と自慢する
「辞める社員が少ないということは、もはや優秀な社員が誰も残っていない、人が入ってこないため代謝がないことを意味します。健全な企業では常に新陳代謝が行われており、上位下位、それぞれ一定の人たちが辞めています。上位2割は『卒業』=優秀な人材を業界に輩出している。下位2割は『ドロップアウト』=働かない、やる気のない人たちはいられなくなるというしくみです」
(石原亜香利)
取材協力

高橋恭介さん
株式会社あしたのチーム代表取締役社長
1974年、千葉県生まれ
大学卒業後、興銀リース株式会社に入社。
2008年には、同社での経験を生かし、リーマンショックの直後に、株式会社あしたのチームを設立、代表取締役社長に就任する。現在、国内20拠点、台湾・シンガポールに現地法人を設立するまでに成長。1000社を超える中小・ベンチャー企業に対して人事評価制度の構築・運用実績を持つ。給与コンサルタントとして数々のセミナーの講師も務める。
https://www.ashita-team.com/