
来月10月に衆議院の総選挙が行われることになりそうです。
北朝鮮ミサイル対応で内閣の支持率が上向いていることや、野党第一党の民進党も前原新代表が発足したにも関わらず党勢を回復できていないこと、小池都知事の側近である若狭勝議員と細野豪志元環境相による国政新党の準備が整っていないこと等の理由から、早めに解散総選挙を打ってしまおうという考えのようです。
また、モリ・カケ問題(森友学園や加計学園)に関して、国会で野党に責められないようにするために、臨時国会の冒頭解散に踏み切ると見られています。確かにとても卑怯だと思いますし、安倍首相の説明責任を一切果たさない姿勢には不信感しか募りませんが、やっていること自体は合法的であり、自民党の大勝が予想されています。野党はしっかりと準備をして欲しいところです。
リベラル政党が日本にはない
ただし、毎度のことなのですが、選挙で投票先を選ぶ時に私はとても苦労しています。というのも、アメリカ民主党のような都市型リベラル政党や、欧州のような社会民主主義を標榜するリベラル政党が日本にはないからです。
もちろん民進党、自由党、社民党、共産党等の公約を見ると、リベラルな社会(※ここでは進歩主義的で、国家の分配機能・機会均等・人権保護を重んじる考えをリベラルと規定しています)を標榜している部分もたくさんあるのですが、世界の政治の常識を考えればリベラルではないこともかなり多くあります。その典型例が消費増税に対する姿勢でしょう。
通常は大きな政府を志向するのが左派、小さな政府を志向するのが右派です。つまり、増税をして社会保障を充実させ、国家の分配機能を強める方向に舵を切るのは左派であり、逆に税や社会保障の負担を緩めて自由競争を活性化させようとするのが右派です。
ところが、日本では最も左に位置するはずの共産党は消費増税に断固反対しています。自由党や社民党も同様です。民進党の前原新代表は増税の必要性を示唆しているものの、民進党内にも増税反対の議員がたくさんいます。基本的に左派政党のほうが消費増税に異を唱えるという「ねじれ現象」が起きています。
1000兆円借金の原因は「なっちゃってリベラル」
このような持論を述べていると、「自民党がリベラル的な政策をやってきたからだ」という反論を頂戴することがあります。確かにそれは正しいと思います。
実際、自民党は55年体制(1955年から1993年に至るまでの間、自民党が政権を担い、社会党が野党第一党を保った体制を指す)の頃からウイングを広げて、左派にウケが良い政策を取り入れることで、中道左派を取り込んできました。安倍政権でもその流れを周到しており、「女性活躍推進」や「働き方改革」がその代表例でしょう。
ですが、ジェンダーギャップ指数(男女不平等ランキング)は改善するどころか年々悪化していますし、長時間労働は世界トップクラスをいまだに脱していません。結局のところ、安倍首相をはじめとする自民党の保守派の政治家たちが、ジェンダー平等な社会や労働者が働きやすい社会を心から底からは願っていないために、対策が付け焼き刃にしかならないのだと思います。
このような「なっちゃってリベラル政策」最大の失敗の爪痕が、1000兆円を突破した日本の借金残高ではないでしょうか。自民党は福祉社会という国家ビジョンを持っていたわけではなく、ただ時代を後追いするように社会保障制度を構築したために、財源問題が疎かになり、国債を際限なく発行してきたと言えます。
結局のところ、福祉国家のビジョンを持ち合わせていない自民党政権では、その社会課題を本格的に解決することは厳しいのでしょう。これを解決するには、自民党による対症療法的な対策ではなく、本格的なリベラル政党よる本格的なリベラルな政策が必要だと思うのです。もちろん野党も財源から逃げる「なっちゃってリベラル」から脱却するべきです。
アンチをやっているうちは相手に勝てない
次に、野党の演説を聞いても、正直なところ「応援しよう」という気持ちはあまり湧いてきません。というにも、個々の政治家の口から出てくる言葉の多くのは自民党政権に対する批判ばかりだからです。
確かに野党という立場上、政策を実行することができないのは分かりますが、力点が批判に偏り過ぎではないでしょうか? 民進党の前原新代表が「政策も国家像も大事だが根底には怒り」と語ったのはその典型例でしょう。結局のところ、民進党はいまだに単なる反自民政党から脱することができていないように思います。
でも、反自民のままでは自民党に勝てるはずがありません。野球にたとえてみましょう。もし、阪神タイガースが自分たちを応援してくれるファンを増やし、収入を増やし、選手を強化して読売ジャイアンツ(巨人)を倒そうと思った時、「アンチ巨人」を前面に掲げて成功するでしょうか?
もちろんそんなことはありません。アンチ巨人を掲げたところで、ファンは増えないからです。もしアンチ巨人を理由に阪神を応援している人がいたとしても、彼には巨人以外の受け皿があれば良いだけ。自分たちにずっと勢いがあれば良いですが、去年今年のように広島カープに勢いがあれば、そっちを応援し始めるかもしれません。そのようにして彼は勢いのある球団や刷新イメージの強い球団を転々とすることでしょう。
結局のところ、自分たちのコンセプトや文化を心の底から気に入って、勢いのある時も無い時も常に応援してくれるような固定ファンの層を分厚くする以外に成功の方法はありません。これは政党でも同じはずです。無党派層からいかに自党の支持層に移行してもらうかが重要だと思うのですが、日本の野党は政権の支持率を下げることばかりに注視して、その視点があるとは到底思えないのです。
旧民主党政権が誕生した時も、自民党に対する逆風が起こって政権を獲得できたわけですが、国民が旧民主党の国家ビジョンに対して共感して投票したわけではないので、あっという間に支持が離れてしまいました。風任せではダメだということがいまだに分かっていない人が多いようでとても残念です。また、「当選ファースト」で政党を転々とする人たちが生まれるのも、政党のビジョンの欠如を物語っているのだと思います。
保守二大政党なんてやめてください
若狭氏と細野氏が、自民党に対抗できる新たな国政政党を立ち上げて、100名ほどの候補者を擁立するというニュースが取りざたされていますが、これも自民か反自民かで政治が動いていることの証拠であり、国家ビジョンの欠如の極みでしょう。
二大政党とは、本来保守とリベラルで構成されるものです。それなのに、二大政党が保守になれば、リベラルな考えの国民は自分たちの代表が国会からほとんどいなくなってしまうわけであり、そんな異常な状態にして良いわけがありません。もちろん仮にリベラルの2党が二大政党を構築することがあったとしたら、それもまた良くないことだと思うのです。
ところが、保守二大政党というかなり歪んだ状況に対して、危機意識の無いメディアや国民が多いことに本当に驚いてしまいます。おそらくメディアや国民自身が国家ビジョンを持ち合わせていないがゆえに、政治家も持ち合わせていないということが起こっているのではないかと思うのです。
リベラルの首相候補が一人もいない異常事態
最後に、リベラル不在は政党だけでなく、政治家個人単位でも大きな問題があります。
「次の首相にふさわしいのは誰か」についてのアンケートを様々なメディアが行っていますが、そのほとんどで上位5位以内を全て保守派が占めています。自民党以外でも、小池百合子都知事(元自民党)や橋下元大阪市長等の名前があがるだけで、リベラル派は誰一人いません。一党独裁を敷いている国ならばわかりますが、そうではない国でこのような偏在が起こるのはかなり異常な状態です。
リベラル派の政治家に首相を担えるだけの人材が欠乏していることも偏在が起こる理由の一つかもしれないですが、ただ「相応しい人がいない!」と嘆くのも違うと思います。欠乏が一時的ならまだしも、ずっと続いているわけなので、政治家個人の問題というよりも、システム的な欠陥のほうが要因として強いと考えることが妥当でしょう。
とりわけ偏在に対する危機意識やバランス感覚が国民やメディアに乏しいのは、非常に由々しき問題だと思います。自国の政治の常識と思っているから違和感を覚えない人も多いのかもしれませんが、他国で一党に偏っていたら、独裁色の強い国と感じる人も多いのではないでしょうか?
日本は独裁国家ではないですが、外見上はそれと同じような偏在が起こっているわけであり、民主主義が十分に機能していないことの証左だと思うのです。積極的にリベラルな政治家を育てることが、日本社会全体にとって必要ではないでしょうか。
(勝部元気)