大槻ケンヂ 筋肉少女帯はどうとでもなれるバンド。近年は内田くんに頑張ってもらおう、と/インタビュー1
撮影/東京神父

■大槻ケンヂ(筋肉少女帯)/アルバム『Future!』インタビュー(1/3)

筋肉少女帯のニューアルバム『Future!』が10月25日にリリースされる。大槻ケンヂ言うところの筋肉少女帯の音楽的な軸「エンタテインメント・ヘヴィ・メタル」に留まらない、ロックのジャンルを横断するような幅広くポップな音楽性も、悩める聴き手に進むべき道を指し示し、善き方向へ導かんとする歌詞の世界も、「いつになく」と言っていいほど拓かれた作品になっている。そのような充実したアルバムになったのはなぜなのか、今の筋肉少女帯はいかなる意志を持って動いているのかを、大槻ケンヂに訊いた。
(取材・文/兵庫慎司)

内田曲をアルバムのまんなかに持っていって、橘高曲・本城曲と分けて、今までの筋少の方向とは違う雰囲気を作れたかなと思いました

──ジャケットの食虫植物にびっくりしたんですけれども。

大槻:ジャケットはハエトリソウなんですけど、食虫植物をテーマにした曲を書きたいなと、常々思っていて。今回、毒々しくて美しいものをやりたいなと思っていて……僕はアルバムを作る時に、いろんな他人の創作物を見て、刺激を受けるようにしてるんですけれども。今回、映画で言うと、デヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』とか、ダリオ・アルジェントの『サスペリアPART2』とか。本も……木谷美咲さんの『官能植物』という本がありまして。その本が、とてもピンとくるものがあったんですね。アートワークもすごく美しい本で。

そのどれにも共通するのが、毒々しくて美しいということなんです。「ああ、僕の中で毒々しくて美しいというのは、ハエトリソウに限らず、食虫植物のイメージなんだな、じゃあ食虫植物でいってみようかな」という感じでしたね。特にジャケットのビジュアルイメージは、『官能植物』に影響された部分はありますね。
大槻ケンヂ 筋肉少女帯はどうとでもなれるバンド。近年は内田くんに頑張ってもらおう、と/インタビュー1
撮影/東京神父

──デヴィッド・リンチの映画も、大槻さんにとってそういうものですか?

大槻:デヴィッド・リンチは、昔よく観てたんだけど、『マルホランド・ドライブ』は観てなかったの。で、観たらもう……デヴィッド・リンチがイケイケの頃の映画ですよね。「これはすげえな」と思って。話の内容としては、交通事故に遭って記憶を失った美女が、ハリウッド女優を目指すかわいい女の子の家に転がり込んで、そこからいろんなことが始まるんですけど。最後にイヤ~な終わり方をする、ちょっとホラー風味な映画ですよね。意味がわからないんだけど、途轍もなく毒々しく美しく、おもしろい。この感じを出したいなあ、っていうのがありましたね。

『サスペリアPART II』は、観たけど昔すぎて憶えてなかったの。それで観てみたら、よかったなあ……ジャーロっていうイタリア映画のジャンルでね、猟奇犯罪映画なんですけど、意外に金田一耕助みたいなミステリー映画で。音楽も……ゴブリンっていう、イタリア版『ゾンビ』とかの音楽もやってるバンドなんですけど、それもいいなあと思って。
大槻ケンヂ 筋肉少女帯はどうとでもなれるバンド。近年は内田くんに頑張ってもらおう、と/インタビュー1
撮影/東京神父

今度のアルバムに「エニグマ」って曲がありますよね? あの曲は、本当は「ゴブリン」ってタイトルにしようかなあって思ってたんですね。曲を書いてきた内田雄一郎くんに「この曲はすごいね! これを表題作にしてもいいぐらいだね」って言っていて、そのあと『サスペリアPART II』を観て「ゴブリン」にしようかと。深夜に観た恐怖映画のサントラみたいな雰囲気でいこうってことになって。不可思議最先端メタル・プログレになると思ったんです。キング・クリムゾンで言うところのヌーヴォ・メタルみたいな。

だから、結局、意外にディープ・パープルな感じになったのがね、ものすごいショックで。でも考えてみたら、このメンバーでやるんだから、そりゃそうなるよなと思って(笑)。それがまたバンドのおもしろいとこだなと、嬉しかったです。

──でも、ニュー・ウェイヴ風味な曲があったり、ファンクがあったりと、今回のアルバムは音楽性が広がっていますよね。

大槻:そうですね。筋肉少女帯、再復帰以降は、橘高くんを軸とするエンタテインメント・ヘヴィ・メタル志向が強かったと思うんですよ。で、クライアントやスポンサーにもそれをニーズされて。橘高くんも「いわゆる橘高メタルの曲を作ってください」と、オファーされることが多いんですって。そうすると、だんだん方向性が定まってくるじゃないですか。でも、筋肉少女帯は、どうとでもなれるバンドだと思っているので。

わりと僕は、近年、「内田くんに頑張ってもらおう」っていうことを言っていて。今作も、内田くんが3曲ほど作ってるのかな。しかも、かなり自由に作ってきたので、これはおもしろいなあと思って。内田曲をアルバムのまんなかに持っていって、橘高曲・本城曲と分けて、今までの筋少の方向とは違う雰囲気を作れたかなと思いました。
大槻ケンヂ 筋肉少女帯はどうとでもなれるバンド。近年は内田くんに頑張ってもらおう、と/インタビュー1
撮影/東京神父

──選曲・曲順は大槻さんなんですよね。

大槻:選曲は、今までは会議室に集まって、みんながデモを持ってきて、1曲ずつ聴いて、歌詞が思い浮かびそうだったら○、もうひとつだったら△、みたいな感じで僕がジャッジしてたんです。だったんだけれども、それならば、その場で聴いて判断するよりも、一度持ち帰って聴いて、歌詞が浮かんでくるかどうか、1日ぐらい置いた方がいいんじゃないかっていう話になって。で、マネージャーがみんなの曲を持ってきて、僕が聴いて、メンバーやスタッフに「この曲は歌詞ができそうです」ってメールして決める、っていうふうに変わりました。

「奇術師」っていうインストゥルメンタルの曲は、書いた橘高くんは「バラードにしてくれ」って言ってたんだけど、僕はこれは、例えばサンタナの「哀愁のヨーロッパ」みたいなギター・インストにするのはどう?って言って。「エニグマ」は、僕は「これはインストの方がいいんじゃないかな」って言ってたんですけど、内田くんが「ここに声を入れてくれ」って、意外に歌詞らしきものが増えましたね。
大槻ケンヂ 筋肉少女帯はどうとでもなれるバンド。近年は内田くんに頑張ってもらおう、と/インタビュー1

歌詞は全然意味ないんだけど、最後の「ガストンの身にもなってみろ!」だけ、ちょっと意味がありまして。『美女と野獣』に、ガストンというね、マッチョイズムが最優先とされる村で生まれた、いちばんのモテ男がいるわけですよ。で、ベルっていう綺麗な娘がいるんだけど、変わり者でね。お父さん、発明家で。で、ベルは本にしか興味がない。そしたらお父さんが野獣の城に捕まって、お父さんを探しに行ったベルが、野獣とできちゃってガストンがふられる、ガストンは怒り狂って二人を殺そうとするわけですよね。

ベルっつうのはいわゆる、サブカル女なわけですよ。ヲタですね。ガストンはマッチョイズムの、クラス・ヒエラルキーの上のヤツなんですよ。これはめずらしいの。たいがい逆じゃないですか。クラス・ヒエラルキーの上のヤツらに対して、サブカルのモテない子が復讐するみたいな話だけど、『美女と野獣』っていうのは、サブカル女によって、クラス・ヒエラルキー上位の男がむちゃくちゃにされてしまう話なんですよ。僕は完全にベルの側の人間なんだけど、「ガストン、かわいそう。サークルクラッシャーみたいなサブカル女の餌食にされて」と思っていて。『美女と野獣』が好きだっていう人と会うと、「ガストンの身になってみろ!」って言ってたんです。それを入れました。

──「この曲に入れたのはなぜ?」と言われても困る?

大槻:うん(笑)。全然意味ない。ただ自分の気に入ってたフレーズなだけ。

――インタビュー2へ



≪リリース情報≫
New Album
『Future!』
2017.10.25リリース




≪インストアイベント情報≫
2017年10月27日(金)21:00~ タワーレコード新宿店

≪ツアー情報≫
【New Album「Future!」発売記念「一本指立ててFuture!と叫べ!ツアー」】 
2017年11月11日(土)愛知・名古屋 CLUB QUATTRO
2017年11月16日(木)東京・EX THEATER ROPPONGI
2017年11月25日(土)大阪・心斎橋BIG CAT
2017年12月10日(日)東京・赤坂 BLITZ

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