そこで今回は、地方移住や田舎との交流のサポートを行う、認定NPO法人「ふるさと回帰支援センター」(東京都千代田区)の高橋理事長にお話を伺ってきました。

移住相談の件数は10倍以上に
――移住を希望する若者はどれくらい増えているのでしょうか。
「当センターに寄せられた移住相談の件数を見ると、2008年では2475件でしたが、2016年には2万6426件と、10倍以上も多くなっています。また年齢構成を見ても、2008年の時点では40代以下は約3割でしたが、2016年は約7割が40代以下と、若い移住希望者は目に見えて増えています」
――若い移住希望者が増えた要因はどこにあるのでしょうか。
「都会暮らしに疲れたというひとは多くなりましたね。日本全体が大量生産・大量消費・大量廃棄の方向に舵を切っていた昭和30~40年代には、『東京で働いて成功することこそ幸せ』という価値観が社会に根づいていて、若者たちもこぞって東京を目指したものですが、それは高度経済成長期の中で『頑張った分だけ見返りがある、豊かになれる』という前提があったからです」
――今の20~40代にとって、高度経済成長期の豊かさというのは、あまりイメージが沸かないものかと思います。
「私自身は企業に勤めていたわけではなかったので、それほど恩恵を受けていたわけではありませんが、当時は例えば、新宿あたりで夜遅くまで飲んでいたりすると、12時頃にはもうタクシーが捕まらなかったので、『通常料金の2倍、3倍、5倍払うから先に乗せろ』という人たちの姿を見ることが日常的でした。またある時には、知人から電話が掛かってきて『1500万円のマンションを買わないか。
――今の世の中からは想像もつきません。
「現代は都会で頑張ってもなかなか報われない時代になってしまいました。ブラック企業やワーキングプアも問題になっています。2008年のリーマンショック以降は特に顕著ですね。そういった現実に嫌気が差し、別の可能性を求めて地方に目を向ける方は多いですね。
地方移住に向く人・向かない人
――地方移住に向き不向きはありますか?
「向き不向きはあります。私たちとしても、向いていない人に移住を勧めてしまうと、本人にとって良くないばかりでなく、地方にも迷惑を掛けることになりますから、相談に来た方のお話はしっかりと聞くようにしています」
――移住に向くのはどのような人でしょうか?
「向いているのは、『郷に入っては郷に従う』ことができる人ですね。移住した先には、その土地にもう何十年も暮らしている人たちがいて、そこで作られてきた風習や景色があります。そこに上手く馴染める人や、何にでも興味を示せるクリエイティブな人は移住に向いています」
――逆に向いていない人は。
「都会を基準に考えてしまう人ですね。『どうしてここはトイレが水洗じゃないんだ』とか『東京ではゴミ収集車が週に2回来ていたのに、ここではどうして週に一度しか来ないんだ』と、東京風を吹かせてしまう人はあまり向きません。
――過去に移住をした方々の中で、特に印象的なエピソードは。
「たくさんありますね。本当にたくさん。新潟の十日市市にある限界集落に移住した若者は、自分で作った減農薬のブランド米や野菜を、インターネットを使い、作った人の顔が見えるような形で全国に向けて販売しています。もともとその土地にあった作風に敬意を払った上で、都会のノウハウやインターネットなどを使ってさらに良くしていったり、より広く伝えていくというアプローチが上手くいっています」

都会にいながら踏み出せる一歩も
――地方での暮らしに魅力を感じながらも、一歩目を踏み出せない若者が都会には多くいます。
「案ずるより生むが易し。まずは思い切って現地に行ってみることをおすすめします。1週間でも3日間でもよいので、ご自身が希望する自治体へ実際に足を運んでみてください。まずは軽い気持ちで、ご家族や恋人と一緒に旅行感覚で尋ねるのも良いですし、移住希望者向けのお試し住宅もあります。移住を成功させるためには『誰と』『どこで』『何をして』暮らすのかがとても重要です。現地の空気を吸って、こんな暮らしをしたいとはっきりイメージできると、上手くいく確率はぐっと上がります」
――やはり実際に行ってみるに越したことはないんですね。
「そうですね。けれどすぐに現地に行くのが難しい方でも、都会にいながら踏み出せる一歩もあります。ここ(ふるさと回帰支援センター)に来ていただければ、各都道府県の相談員に住まいや仕事の相談をできます。全国の自治体がやって来て年に400回以上もセミナーを開催しているので、そういったものに参加していただいても、自分の気持ちや、したい暮らしについて、しっかりと考える機会になるかと思います」
(辺川 銀)