月亭可朝さんが『ボインは赤ちゃんのためにあるんだ』と歌ってから40年以上が経つが、やはり『お父ちゃん』のためのものであったりして。だからこそ「公共の場での授乳」に賛否両論だ。
きっかけは新聞投稿
東京ウィメンズプラザで開催された「全日本おっぱいサミット」。開催のきっかけはある新聞投稿。ファミレスで授乳することに否定的な意見が掲載された。投稿したのは20代の女子学生。女性から見ても授乳は「恥ずかしい」「目のやり場に困る」というのだ。
フリーライターで編集者の今一生氏、ジャーナリストの津田大介氏によると、海外では公共の場で「授乳を妨害してはいけない」と定めている法律もあるそうだ。それは赤ちゃんにはいつでも母乳を飲む権利があるからという考えに基づいている。


津田氏は外で授乳するなというプレッシャーが、母親と赤ちゃんの「密室育児」の広がる原因のひとつではないかと分析。密室育児はときとして、母親の精神状態を悪くする。こうなるとおっぱいは社会問題だ。

写真家の語る「おっぱい」
25年以上おっぱい写真を撮り続けている、写真家・伴田良輔氏も登場。伴田氏はグラビアやヌード写真など、エロ寄りの写真に写るおっぱいには違和感を覚えていた。そこで自身は自然なおっぱいを作品にしている。

伴田氏の撮影したおっぱい写真からは、エロよりも母性、扇情よりも癒しを感じる。そのせいか伴田氏のおっぱい写真集の購入者は4割が女性。詩人の谷川俊太郎氏は、伴田氏のおっぱい写真に詩をつけている。
哺乳類ならおっぱいがあるのは当たり前。しかし伴田氏は、おっぱいに関して「当たり前のことを当たり前に言えない空気があるのではないか」と話した。
授乳は赤ちゃんも母親にも「癒し」
産婦人科医の村上麻里氏によると、生まれたばかりの赤ちゃんの胃の大きさは「さくらんぼ」くらいしかないそうだ。一ヶ月たっても大きさは「たまご」程度。だから、頻繁に授乳しないとすぐにお腹が空いてしまう。赤ちゃんが泣いたときには、時間がかかるミルクを作ってあげるよりも、母親がサッとおっぱいをあげるほうが合理的なのだ。

しかも、授乳すると赤ちゃんがお腹いっぱいになって安心するだけでなく、母親側にもリラックスを感じるホルモンが分泌される。ストレスを感じがちな育児中、授乳は赤ちゃんにとっても、母親にとっても「癒し」の時間なのだ。
ところが、授乳について学ぶ機会は女性側にもないのが実情。ここから考えないと公共の場での授乳は難しいのかもしれない。

ステージ上で一斉に授乳する「授乳ショー」
津田氏は「性的な文脈ではなくおっぱいを語る必要がありそうですね」、今氏は「おっぱいを語る眼差しはたくさんあるはず」と話す。伴田氏は「私が子どもの頃は、田んぼに行くとあぜ道で授乳する姿をよく見た。実際に(授乳を)見ることが多ければ、みんな驚かないのでは」と語った。
そして、ステージに赤ちゃんを抱っこした母親が登壇し、観客の前で一斉に授乳を始めた!

母親たちは授乳中でも周囲におっぱいが見えない特別な「授乳服」を着ていて、肌がチラリと見えることもない。授乳ショーを見ていた出場者の夫は「授乳服を着ているから何も感じませんね。授乳服でなければ妻がショーに出るのは止めました」と話す。

電車の中でぐずった際はその場で授乳することもあるとのこと。そうすると赤ちゃんも泣き止むので、もしかしたら公共の場での授乳は周囲の人にも有益なことだと考えることもできる。


男性も女性も意識の変換が必要
村上氏は「イタリアに行けば街中で恋人たちがキスをしていても自然なように、授乳はするのも見るのも、慣れの問題だと思います」と語る。また、津田氏は「社会はすぐには変わらないので、見る側も気を使わなくていい授乳服が今は必要。普通の服で、どこでも授乳できる社会を目指したい」と結んだ。

赤ちゃんのことを第一に考えるなら、どこでも授乳できる社会になる必要があることは分かった。でもエロ目線でおっぱいを語れなくなるのも寂しい気がする。
(前田郁/イベニア)