ドラマ『フリンジマン~愛人の作り方教えます~』(テレビ東京系)の見どころの一つに、“愛人候補”として各エピソードに出演するゲスト女優の存在がある。
「フリンジマン」8話。板尾創路の宣言がどうにも生々しい。“愛人候補”として的にされる小倉優香に妄想
原作コミック3巻

初っ端から最新話まで、その人選にハズレは一切なし! 山口詠美役を演じた筧美和子、川上ミエ役を演じた佐津川愛美、江口カオリ役を演じた岸明日香など、どの女優も男なら前のめりになること請け合いだ。


そして、先週放送の第8話へ出演したゲスト女優の人選も素晴らしかった。「愛人同盟」の一員・坂田安吾(森田甘路)が思いを寄せる女子大生・綿貫リサを演じるのは“リアル峰不二子”の異名を持つ女優、グラドルの小倉優香である。

こじらせている坂田が異性を意識した瞬間


玉砕はしたものの、田斉治(大東駿介)と満島由紀夫(淵上泰史)の両者は一度“愛人作り”へのチャレンジを敢行している。そして、ついに坂田の番がやって来た。

はっきり言って、彼には問題がある。そもそも、坂田は独身だ。“愛人作り”も何も、妻がいなければ愛人を持つことはできない。
「俺にだって嫁がいる! 俺の嫁は、クロエ・グレース・モレッツだ。俺は、モレッツの出演作は全部観てる。もう、嫁同然だろ!」(第1話での坂田の発言)
溢れんばかりの映画愛を持ち、レンタルDVD店でアルバイト中の坂田。その意地の張り方からして先が思いやられてしまう。

坂田がリサを意識した経緯も、趣味に生きる中二病患者ならでは。彼が勤務するショップに彼女は来店、「『プレデター2』ってどこですか?」と笑顔で坂田に語りかけてきたのだ。
「プレデター? しかも、2!? いい選択じゃねえか……」と、映画マニアを認めさせるセンスをリサは持っていた。
「あっ、お兄さん! 前にも教えてくれましたよね。『悪魔の毒々モンスター』の場所。あれ、めっちゃ面白かったです!」(リサ)
こんなこと言われたら、“青春ノイローゼ”をこじらせている大抵の男子ならばきっと落ちてしまうだろう。
「可愛い上に、俺と趣味が合う! もしかしてこの子が、俺の“愛人の原石”じゃ……?」(坂田)
わかるなあ。今までの展開、全てに共感せざるを得ない。

しかし、店内を物色するリサに笑顔で語りかける男が出現。そのままリサと肩を組んで、共に帰宅してしまった。
これも、わかる。意識し始めた子が彼氏持ちだという展開も含め、いちいちシンパシーを感じずにはいられない。

中二病男子が抱える“女を憎む気持ち”


坂田に関して気になるのは「既婚者ではない」というパーソナリティだけじゃない。ではここで、彼が発した問題発言(心の声含む)の一つ一つをピックアップしてみよう。

レンタルDVD店のバックヤードで、同僚の女子店員と2人きりになった坂田。
彼は映画雑誌を読みながら「あ~やだ。早く出て行けー」と無言のまま心中でつぶやく。この女子店員は携帯で彼氏とデートの約束をしているのだが、坂田は「よく人前でデートの約束できるなぁ、無神経な」と苛立ち続ける。怒りが沸点に達した坂田は、ついには読んでいた映画雑誌を思い余って裂いてしまった。

意識しているはずのリサ相手にも憤る坂田。眼前で彼氏と共に去った彼女を思い出すや「やっぱり、女なんて嫌いだ! クソ! 映画好きでもねえくせに知ったかぶりやがって! 大学生のくせに男とヤリまくりやがって! 学生の本分は勉強だろが!」と荒れてしまうのだ。店員と客の関係でしかないというのに……。
綿貫リサに惹かれているくせに、これだ。要するに、坂田は“女を憎む気持ち”を慢性的に抱えていた。そういう気持ちを持つことも、時にはあるだろう。共感できなくもない。しかしこれ、“愛人作り”へ臨む男としてはとてつもない障壁である。


愛人作りで使える「赤べこの法則」と「張り子のサーベルタイガー」


どんな憎まれ口を叩こうと、結局のところ坂田はリサが気になってしょうがない。携帯での会話を盗み聞きし、いつの間にかリサの素性をつかんでいたのだから。彼女は某大学の軽音楽部に所属し、ヴォーカルとして活動していた。

早速、“愛人教授”である井伏真澄(板尾創路)と坂田は軽音楽部の部室へ侵入し、情報収集を試みる。……が、そこで2人は部員と鉢合わせしてしまった。
「アンタ、ここで何してんの?」と迫られた井伏と坂田であったが、井伏は冷静に機転を利かす。シャツのボタンをいくつも開け「よお! 俺、OBのトシキっていうんだけど卒業して20年以上経つからな」と、軽音楽部卒業生を騙ったのだ。

このくだりで、井伏はいくつかのHow toを披露している。
●赤べこの法則
ツボを押さえたキーワードを投げ掛け、赤べこの如く頷き続けることで玄人味を醸し出す。

例えば、こうだ。
部員 どんなアンプ使ってるんすか……!?
井伏 グルーヴ感、かな。
部員 ……ですよね! アンプなんか何でもいいんだよ、そんなこと気にするなよ! やっぱり、こだわりどころの次元が違いますね!
井伏 (無言で頷く)

「ターゲットのツボを押さえたキーワードを用意します。例えば、ワイン通なら『マリアージュ』、観劇マニアなら『ケレン味たっぷりな』。
それっぽい言葉を投げ掛けとけば、後はターゲットが一人で勝手に喋っていてくれます。頷いていればいいのです、赤べこのごとく」(井伏)

●「張り子の虎」ならぬ「張り子のサーベルタイガー」
「先輩のギターを聴いてみたい」と迫られた井伏は、何の躊躇もなくギターを受け取り、見事なギターソロを披露! 現役部員たちを感激させている。

井伏 愛人作りの過程で、楽器の演奏が必要な時があります。ギター以外にも、ピアノやサックスも弾けるようにしています。ワンフレーズだけですが。ジャズバーなどで演奏を求められた時、ちょっと弾いて、後は「疲れた」とか何とか言ってやめればいいのです。
満島 何というハッタリ……。まさに、張り子の虎!
坂田 いや。お前はあの演奏を聴いてないからそんなことが言えるんだ。あれは虎なんてもんじゃねえ。張り子の……張り子のサーベルタイガー!

楽器というジャンルとはズレるものの、筆者もハッタリを利かすため卵の片手割りだけを繰り返して練習した過去がある。不意に思い出してしまった。
やっぱり、いちいち共感せざるを得ない。

『フリンジマン』の視聴熱に還元される板尾創路の私生活


タレント志望でもあるリサに対し、「制作会社のプロデューサー」を名乗って近付く戦法を今回の井伏は選んだ。
井伏が名乗る肩書について、当初は疑っていたリサ。しかし井伏はタブレットでトレンディエンジェル・斎藤司と彼女を会話させ、無事に信用を得ている。と言っても、この動画はあらかじめ用意していた素材。リサと会話していたのは、声を斎藤に似せて発声した満島であった。

しかし、なぜ坂田が狙うリサに井伏が近付く必要があるのだろう? ここで確認しよう。リサは彼氏持ちだ。この存在は彼女を愛人にするために排除しておく必要がある。愛人同盟の会合で、井伏はこう宣言した。
「私が綿貫リサとSEXをし、その最中に彼を呼び出し、修羅場を作ります」(井伏)

板尾創路がグラビアアイドルとラブホテルへ入る瞬間を激写された件が、ここで活きてくる。井伏の意思表明が、ものすごく生々しく聞こえるのだ。
しかも、リサを演じているのは小倉優香。現実世界に沿った妄想をせずにはいられなくなってくる。思わず。

話をドラマに戻そう。繰り返すが、坂田は“女を憎む気持ち”を慢性的に抱えている。井伏がとった今回の戦略は、坂田の病状を悪化させる気がしてならないが……?

田斉 今回の教授、いつも違うと思わないか?
満島 ああ。どこか恐ろしさを感じる。
田斉 あの人は一体、何を考えているんだ……。

もしかして、リサの美貌を知った井伏が己の性欲を優先させようとしている? いや、この人はそんな浅はかではないはずだ。

やっぱり、どうしても板尾創路の私生活がだぶって見えしまう。結果、ドラマへの興味と勘繰りを増幅させている自分がいる。
あの件は、『フリンジマン』にいい効果をもたらしていた。そう認めざるを得ない。トラブルをただのトラブルで終わらせない板尾創路に、ここは感服でしょう。皮肉ではなく。
(寺西ジャジューカ)

アマゾンプライムでは先行公開中『フリンジマン~愛人の作り方教えます~』
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