
パリで初となるナチュリストのためのレストラン「オーナチュレル(O’naturel)」が11月にオープンした。ナチュリストとは自然との調和を求め、全裸での生活を主義とする人のこと。
すでにパリでは、日時限定でナチュリスト向けに解放した公共プールがある他、市内東部にある公園・バンセンヌの森の一角が、ナチュリストに向けの区画に指定されたこともあった。
今回なぜ、このようなコンセプトのレストランを立ち上げたのか? 同店は「以前からナチュリストのレストランという分野には高い需要があったものの、パリではまだ全裸できちんと食事をできる場所がなかったから」と開店理由を答える。同レストランはリニューアル・オープンに際して、パリにある他のレストランと一線を画すような強いコンセプトを探していた。その時にバンセンヌの森にナチュリストのための場所ができるということを聞き、「これだと思った」と同レストランは述べる。
全裸で本格ビストロ料理を食べられる
同店の開業を心待ちにしていたのが、パリに住むナチュリストたちだ。パリ・ナチュリスト協会会長のローレンス・ルフトさんは「今回の開店にとても満足している。私たちの協会は1年を通してナチュリスム活動を行っているが、オーナチュレルができたことにより、ナチュリスムを実践できる場所が増えた。これで雪が降っても、仲間と全裸になってレストランでご飯を食べられる」と喜びを語った。

オーナチュレルは、単に全裸で食事ができるだけではない。新鮮な食材にこだわり、料理も自家製を貫いている(パリには自家製でない料理を提供するレストランは多い)。ルフトさんは同レストランが営業を開始して以来、すでに何度も足を運んでいるそうだ。「自家製料理のクオリティ、鮮度、ワインの品揃え、どれも素晴らしい。
メニューの一例を紹介すると、前菜にオマール海老のサラダ、エスカルゴのロースト、フォアグラなどが並び、主菜にはメルラン(タラ)のムニエル、低温調理の子羊、蒸し煮した鶏肉のトレンタとトリュフソースなど。デザートはエキゾチックフルーツのミネストローネ、クレームブリュレなどがある。フランスらしさがあふれるメニュー構成だ。
地方や海外からもナチュリストが訪れる
パリ以外からの客も多い。「レストランへ行くと、パリ以外にも南仏や外国など、毎回さまざまな場所から訪れた人に出会う。バカンスで訪れるべき場所になっているようだ」とルフトさんは語る。
「先日、初めてナチュリスト体験をするという人々と、オーナチュレルで知り合った。レストランでの経験がきっかけになり、彼らは次の月曜夜に私たち協会がパリ市内でのプールで開く、游泳会に来てくれた。今夏バンセンヌの森の一角がナチュリストに解放されたときのように、多くの人がオーナチュレルでナチュリスムの良さを見つけてくれると思う」とルフトさんは言う。パリ・ナチュリスト協会では、定期的にナリュリスト向けのイベントを開いているが、同レストランのようにいつでも全裸になれる施設ができたことは、パリのナチュリスムにとって大きな一歩と言える。

一方で、ナチュリスト以外の人にとっては、常に全裸で過ごすという行為は奇異に映ることもあるはずだ。しかし、レストランの営業については、近隣住民からの反対はないという。
発展途上のパリのナチュリスム事情
「長い道のりだった」とルフトさんが語るように、ナチュリスムは今でこそ認められつつあるが、完全に市民権を得ているとは言えない。「まだ認知が足りない」ともルフトさんは漏らす。彼によれば、他の地方にあってパリに欠けているのは、全裸で入れる温泉療法センターと気軽にナリュリスムの情報に触れられるビジターセンターだと言う。
「私たち協会は、週3回夜に公共プールで行われる遊泳会で、イル・ド・フランス地域圏(パリを中心とした首都圏)のナチュリスト向け施設について情報提供をしてはいます。しかしナチュリスムに興味を持った人に、いつでも対応できるわけではない」とパリにおけるナチュリスム環境をルフトさんは嘆く。
レストランが好調ということは、裏を返せば、それだけまだパリでナチュリスムを貫ける場所が限られているということ。今後パリでオーナチュレルに続くナチュリスト向け施設の開業はあるのか。見守りたい。
(加藤亨延)