副業でオリジナルデニム作り サラリーマン起業をしたリクルート社員の場合

厚生労働省は、会社員の副業を解禁する方針を示した。世論は多様な働き方を歓迎する一方、「過労死にもつながる」「会社への忠誠心が薄れる」など賛否両論の意見がある。

しかし、ここ最近になって「副業解禁」をオープンにする会社も現れ、副業の是非よりもその中身と質が問われる時代になった。
リクルートグループは以前より、条件を満たせば、副業を認めている。今回、リクルートマーケティングパートナーズの人事企画を担当する野村由美子氏に同社の副業認可のシステムとその制度設計について、ゼクシィ宮城・山形の営業グループマネージャーであり、実際に副業で通販事業をメインとしながら、デニム加工体験も行っている小野寺永治氏に話を聞いた。
副業でオリジナルデニム作り サラリーマン起業をしたリクルート社員の場合
左からリクルートマーケティングパートナーズの野村由美子氏と、ゼクシィ宮城・山形地域営業グループマネージャーの小野寺永治氏


イノベーションの芽を出すための副業認可


――御社の副業認可の制度から伺います。
野村由美子(以下 野村) 弊社は約1,400人の従業員がおります。そのなかで副業をしているのは約70名です。副業申請制度があり、月に1回に承認の是非作業を行っています。もちろん、すべてが承認されることではありません。条件付で了承します。例えば、ほかの会社と雇用契約を結んで働くというのは、基本的にNGです。もう一つは同業他社の副業、三つ目は、レアケースではありますが、弊社や子会社と取引をすることも認められません。こうした条件のもと、副業は認められています。

――そもそもなぜ、副業を認めるのでしょうか。

野村 職業選択の自由を認めることは基本的なことである一方、弊社は現在、「働き方改革」に力を入れています。働き方変革を行っていくなかで、生産性を向上し、できた時間で、新しいことに触れ、新しい価値創造につなげていきたいという想いがあります。今、やらなければならない仕事、例えばルーティンワークについては生産性向上により、なるべく圧縮し、早く終わらせ、その空いた時間に、外へ出ましょうと推奨しています。副業を認めることもその一環です。


副業のデニム作りを通して地域の課題解決を図る


――そして、実際に副業されている小野寺さんは、海水を利用したオリジナルデニムの加工体験とサイト運営をしていますが、起業しようとしたキッカケはなんだったのでしょうか?
小野寺永治(以下、小野寺) 私の場合、宮城県に勤務し、東日本大震災で大きな被害を受けた気仙沼にルーツがあり、生まれた町に恩返しができないかということで、オリジナルデニム作り、通販ビジネスやイベントの発想が生まれました。
東日本大震災も3年、5年が一つの節目であった時は、なにかとニュースになり、補助金も付与されます。しかし、6年たつと、明らかに若者が、東京や仙台などの大都市へ働きに行き、高齢者の方のコミュニティーも次第にしぼんでいく様子が分ります。
このままでは震災の記憶も風化してしまいますし、気仙沼の町全体も衰退してしまう。町を活性化するためにはどうすれば良いかということを考えた結果、弊社の起業家精神に立ち返って考えたいと思ったことが副業したきっかけです。
副業でオリジナルデニム作り サラリーマン起業をしたリクルート社員の場合

――そこでオリジナルデニム作りのビジネスが生まれたのですね。
小野寺 日々身につけるものとしてジーンズという発想が生まれました。気仙沼からスタートしましたが、高知県や神奈川県でもゴミの問題があるなど、各土地の海にはそれぞれ課題があります。これらの地域でのイベントを通じて、海の良さの再認識、そして課題解決に向かってどうあるべきかをみなさんで考えていこうという試みを行っています。

ただ、遠方から気仙沼に来て欲しいと言っても距離的に難しいこともありますので、まずは気仙沼や高知の海で加工したオリジナルデニムのジーンズを通販して、それぞれの海に対する思いを馳せて欲しいと思っています。

――作成方法を教えてください。
小野寺 まず自分のデニムジーンズを一本持ってきていただき、砂や流木を使ってデニムの表面にキズを付け、海水に浸けます。その後、1カ月ほど、天日干しをします。そうすると全体が使い古した感じのデニムになります。ただし、それでは素人が加工したデニムですので、専門家による加工を施して自宅に納品します。
副業でオリジナルデニム作り サラリーマン起業をしたリクルート社員の場合

――起業をされていかがですか。
小野寺 生まれた町に恩返ししたいという想いからはじめたので、私はこの仕事でお金儲けをすることが主な目的ではありません。大きな利益を得ているのではありませんが、小さいレベルでの黒字は続いています。


起業経験が本業に好影響をもたらす


――この副業を通じて、本業に対してどのようにフィードバックされましたか。
小野寺 サラリーマンであることはあらためてチャンスにあふれていると実感しているところです。この感覚が大きかったです。
サラリーマンはリスクと言っても生活を脅かされるほどではないが、起業家は違う。サラリーマンこそ投資できるリソースに恵まれていてチャレンジしないことがもったいないです。
本当に会社に対してはありがたいと思います。
一つの事業を思いつき、社内の新規事業提案制度「New RING」に提案もしました。残念ですが受理はされませんでしたが、副業をしなければ思いつかなかったでしょう。今度はより深化した案を提案したいです。

――本業のゼクシィの営業には、副業後はどのような影響がありましたか。
小野寺 自分が起業することにより、経営者がなにを考えているのか、話が合うようになり、クライアントとのコミュニケーションが深まりました。
視点が変わったことで、クライアントの抱えるリスクなども理解ができ、より深い会話ができるようになりました。
副業でオリジナルデニム作り サラリーマン起業をしたリクルート社員の場合


――これから本業と副業の二足のわらじで進んでいきますが、その意気込みについて
小野寺 まず、副業としてはふるさとの東北に恩返しをしたいという気持ちです。しかし、それは本業からもアプローチが可能です。もう一つ、本業としては、副業で得た視界・知識・経験を活かしていきたいです。
本業と副業の両輪を活かし、仕事や地元貢献へのバリエーションを増やしていくつもりです。

――本業と副業の両輪でスムーズに進むと、人脈も相当幅広く、深化していくのではないでしょうか。
小野寺 地域団体や自治体からもお声がけをいただくことが増えました。仙台市で、「みんなで灯す、心の明かり」をテーマにする「光のページェント」というイベントがあります。東京で言いますと表参道のイルミネーションのようなイベントをイメージしてください。今回から公式グッズをつくりたいということで、気仙沼の海で加工したカバンが公式コラボグッズになり、またオリジナルのロゴも東北に縁のある学生に公募を行い30点ほどの集まりました。これは大きな前進です。

――起業家としての目線は本業に何をもたらしましたか。
小野寺 13人のメンバーがおり、今はその育成に時間を費やしています。クライアントがなにを考えているのか、「経営者視点を持て」と漠然と話しても、メンバーはなかなか理解できません。私はサラリーマンである一方、起業家という人格を持っています。営業面で起業家の人格でクライアントが求めていることは、「こういうことである」と理解し、提案をいたします。
その生々しい実体験を部下に伝えることにより、漠然としていた話が真実味を持ちます。そのため、自身の営業だけではなく、メンバーの育成にも大いに役立っていると実感しています。

――ありがとうございました。
(長井雄一朗)
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