世界一有名なヒーローの誕生を、エモさたっぷりかつド派手に描いた大作であり、現在『ジャスティス・リーグ』が上映中のDC・エクステンデッド・ユニバース(以下DCEU)シリーズの第一作が『マン・オブ・スティール』。今夜21時30分から二時間半にわたって放送される。

今夜放送「マン・オブ・スティール」は、スーパーヒーロー版「アナ雪」だ。あのスーパーマン誕生の物語

スーパーマン映画、久しぶりのリブート作


タイトルである『マン・オブ・スティール』(以下『MoS』)とは世界最初のスーパーヒーロー、スーパーマンの愛称。「鋼鉄の男」の意味である。意味づけとしてはノーランがタイトルを『バットマン〇〇』にせずに『ダークナイト』としたような感じ。このタイトルの通り、本作はスーパーマンを主人公にしたものだ。

アメリカの二大コミック出版社の片方であるDCコミックスが、1938年に刊行された『アクション・コミックス』誌の第一号で登場させたスーパーマン。戦前から大活躍していたスーパーマンは1948年に連続活劇としてすでにスクリーンデビューしていたが、映画として印象的なのは1978年から4作(間に『スーパーガール』を挟んでいる)作られたクリストファー・リーヴ版だろう。2006年には『スーパーマン リターンズ』が作られたが、その後スーパーマン映画は『MoS』まで沈黙することとなる。『MoS』は、DCコミックスの映画シリーズであるDCEUの第一作とされ、このDCEUは今後もシリーズが継続される予定だ。

物語は超文明を持ちながら崩壊の危機に瀕したクリプトン星から始まる。停滞したクリプトン星の現状に不満を抱えるゾッド将軍はクリプトン星人存続のためクーデターを画策。一方科学者であるジョー=エルはこの危機に際し、生まれたばかりの息子カル=エルを小さな宇宙船に乗せ、クリプトン星人最後の生き残りとして外見の似た知的生命体のいる地球に向けて脱出させる。一方ゾッド将軍のクーデターは失敗し、彼らは凍結されたままファントム・ゾーンへと流刑に。ほどなくしてクリプトン星は崩壊。
カル・エルの乗った宇宙船はアメリカのカンザスに着陸する。

33年後の地球。カンザスの牧場で育ったたくましい青年クラーク・ケントは自らの能力に戸惑いつつ、各地を転々として生活していた。常人を遥かに超える力を持つ彼は、養父母であるジョナサンとマーサからの愛情を受けて育ったが、同時に自らが宇宙から来た存在であることも教えられた。自らのアイデンティティに疑問を感じていたクラークだが、カナダの氷壁に埋まっていたクリプトン星の探査船において自らのルーツを知る。そして船内に眠り続けていたクリプトン星のスーツを受け取り、生まれて初めて自らの力を解放する。

しかしその頃、地球には謎の宇宙船が迫り、各国の言語で地球人たちに「君たちは一人ではない」と語りかけていた。そして宇宙船からは「地球人に紛れ込んでいるクリプトン星人のカル=エルを引き渡せ」というメッセージが発される。

スーパーマン、放浪しつつすごく悩む


本作は、悩める青年クラーク・ケントが自らのアイデンティティを確立し「スーパーマン」になるまでの物語である。鋭すぎる視聴覚によって幼少期はまともに学校で授業すら受けられず、青年になっても人助けをしては逃げるように放浪する日々を送るクラークは痛々しい。クラークを演じるヘンリー・カヴィルの風貌も手伝って、髭面で漁船に乗りロードサイドをフラフラと歩く姿からは微塵もヒーロー感がない。

そんなボサボサのクラークが、あの赤と青のコスチュームを身にまとって全身スーパーマンと化すシーンはとにかく感動的である。出自がわかり、生まれて初めて全力を出して大気圏の外までぶっ飛んで行く様には、ほとんど『アナと雪の女王』の「Let it go」のシーン並みの開放感とエモさが。
特殊な能力を持ちながらそれと向き合えず悩んでいた者が、自らのアイデンティティを確立する姿を描いた『MoS』は、スーパーヒーロー版『アナ雪』なのである。

悪役であるゾッド将軍もアイデンティティに問題を抱えた男だ。クリプトン星では子供は生まれる前に遺伝子的に設計されて"生産"される(クラーク=カル・エルはめちゃくちゃ久しぶりに自然出産で生まれたクリプトン星人だ)。ゾッド将軍も軍人として生まれ、軍人として生きてきた。

そんな彼が故郷を失い、それならと地球に来たら同胞であるカル・エルが地球人のために自分に立ち向かってくる。今更生き方を変えようにも、遺伝子レベルでクリプトン星の武人なのでどうしようもない。育った地球を背負って立つクラークと、滅んだクリプトン星のためにしか生きられないゾッド将軍は、互いのアイデンティティゆえに激烈にぶつかり合う。

いつ終わるのか心配になるド派手なバトル!


このぶつかり合いがすごい。スーパーマンはなんせ人類史上初のスーパーヒーローなので、その能力にはひねりがない。太陽の無限のパワーをエネルギーにして戦う彼の能力は、とにかく力が強いこと、めちゃくちゃ打たれ強いこと、超音速で空や宇宙を飛べること、目からヒートビジョンというビームを放つことだ。速くて硬くて強い。シンプルである。


このようなシンプルだけど桁外れなパワーが、我々の住む世界で発揮されたらどうなるか。それを全力で表現したのが『MoS』の戦闘シーンだ。なんせ敵はスーパーマンと同族のクリプトン星人。地球上なら最強のスーパーマンと同等の戦力が、カンザスの田舎からメトロポリスのビル群まで、周囲に大迷惑をかけながらガチンコでぶつかり合う。敵味方ともに一発殴れば建物2〜3棟をぶち破って吹っ飛び、パンチの速度は音速を超えるからソニックブームが発生。殴られた衝撃でビルがボキボキ折れ、カンザスのトウモロコシ畑が壊滅する!

この戦闘シーンのド派手さとケレン味は、監督のザック・スナイダーの持ち味だ。これまでにも『300〈スリーハンドレッド〉』や『エンジェル・ウォーズ』でCGと俳優の肉体を密接に絡ませてキレのある絵面を作り上げてきた彼の手腕が、この大袈裟でバカと紙一重な戦闘シーンを可能にした。もう……大好き……!

とにかく重厚長大な映画なので割と好き嫌いは分かれるところがあるが、筆者は数あるアメコミ映画でも『MoS』はかなり好きな方。とにかくベタにエモいクラークの成長と、派手すぎてどうなってるのかわかんなくなる激烈な戦闘シーンをゲップが出るほど堪能できる重量級の一本だ。

【作品データ】
「マン・オブ・スティール」公式サイト
監督 ザック・スナイダー
出演 ヘンリー・カヴィル エイミー・アダムス マイケル・シャノン ケビン・コスナー ほか

STORY
滅びに瀕したクリプトン星から地球に飛来したカル=エルはクラーク・ケントとして地球で育ち、アイデンティティに悩みながらも自らのルーツを知る。一方、クリプトン星の生き残りであるゾッド将軍は移住先として地球に迫り、地球人にカル=エルを差し出すよう要求する
(しげる)
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