しかし「キュイジーヌ」はどうだろう? なんとなく、ビールよりワインを合わせたくなるが、料理とアメリカのクラフトビールを“マリアージュ”させるイベントを取材した。
「日本よ、これがアメリカのクラフトビールだ!!」
近年日本でも市場が拡大し、ファンも増えているクラフトビール。しかし、日本でのシェアはビール業界全体の1%程度と言われる。一方、アメリカではクラフトビールのシェアは2016年時点で12.3%(※Brewers Association プレスリリースより)。まさに“クラフトビール大国”だ。毎日のように新しいブルワリーが創業し、新たなビールが作られている。

東京・日本橋のLA BONNE TABLEで行われた、クラフトビールと、アメリカから招いたシェフによる料理をマリアージュさせて楽しむ「AN EVENING OF AMERICAN CRAFT BEER & CUISINE」。5つのコース料理に10種類のアメリカンクラフトビールを合わせる。

主催したのはビールを醸造するブルワリー及びブルワー、ビール愛好家による、非営利団体「BREWERS ASSOCIATION(通称BA)」。アメリカのクラフトビールのほとんどは同団体の会員が作っているそうだ。
これまで同様のイベントはアジアを含めた海外でも行われていたが、日本での開催は初めてとのこと。アメリカがクラフトビール大国であることは知っていたが、アメリカンクラフトビールの多様性、繊細さに改めて驚かされる一夜となった。
ビールと料理のマリアージュ

まずはウェルカムビールで乾杯。次々にビールと料理が運ばれてくる。
1皿目・ホタテ貝のフリット×KOLSCH(Three Wavers Brewing Company)

絶妙な火の通り具合のホタテのフリットにうっとり。
2皿目・たまねぎスープ×Long Root Pale(Hop Works Urban Brewery)、Evolution IPA(Evolution Craft Brewing Company)

甘くてクリーミーなたまねぎと、穏やかな味わいのロングルートペール(アウトドアウェアブランド、パタゴニアとのコラボ缶だ)。全体的に優しい味わいだが、ベーコンの塩味とIPAの苦み、香りが全体を引きしめている。エボリューションはさらにIPAの苦みが強く骨太ではあるが、シトラスとパインの華やかな香りが特徴。
3皿目・仔羊のロースト×Shallow Grave(Heretic Brewing Company)、ESCLIPSE(Fifty Fifty Brewing Company)


ひよこ豆のソースがかかったジューシーな子羊のロースト。合わせるのは、こちらもダークローストした麦から作られた『異端者のヘレティック』による黒ビール。香ばしい香りがマッチする。
「ESCLIPSE」はまるでハチミツのような甘さがあり、肉にもぴったり。まるでブランデーのような濃厚さと重さを持ったビールだった。
4皿目・ウチワエビとヒラメのパイ包み×VIPA(Hardwook Park Craft Brewery)、Sound Humulo Nimbus Double IPA (Sound Brewery)

インパクト抜群の「ウチワエビ」が途上。サクサクのパイに包まれたエビの身とヒラメ。クリーミーなソースと魚介の旨味がたまらない。『VIPA』という名前はヴァージニアのIPA『Virgina India Pale Ale』から来ているらしい。寒い日でも暑い日でも美味しく飲めそうなバランスの取れたビールだ。Sound Humulo Nimbus Doubleは鮮やかなオレンジ色で、フルーティだがパンチがあり、まろやかなパイ包みをひき立てていた。
5皿目・イチジクとローゼルのパブロバト×Pineapple Mana Wheat(Maui brewing Company)、cluster funk(Schooner Exact Brewing Company)


ラストは甘さ控えめなデザートは、ハワイのパイナップル果汁が入ったハワイのビールとあわせる。このビールは温度管理が大変なので輸入するのがなかなか難しいらしい。また、最初はトロピカルで後からスタウトの香りがするクラスターファンも、イチジクと甘酸っぱいローゼルにぴったり。さらにクリスマスの雰囲気を感じるジンジャー風味のビールも登場。もはやビールそのものがデザートになっている。

基本的にすべての料理が繊細で控えめの味付けだったが、ビールでもその風味が失われることはなかった。こんなにバラエティに富んだビールがあることにも驚きであるが、これもクラフトビールの魅力。さまざまな素材のビールがあるため、料理に合わせてマリアージュできるのだ。
今回のメニューは、アメリカ人シェフがアイディアを出しつつ、日本人シェフたちと相談しながら決定したそうだ。また、今飲んでいるビールに合わせた料理を提供するだけではなく、その次に提供されるビールのことまで考えてコースが組み立てられていると聞き、感慨深かった。
「インディペンデント」なアメリカのクラフトビール
日本の飲食店でもアメリカのクラフトビールを見かけることが増えてきたが、まだそのほんの一部しか知らない。今回は初めて飲む銘柄のビールだったばかりでなく、これまで味わったことのないテイストのビールもあり新鮮だった。

アメリカは相当クラフトビールに力を入れているらしく、当日はアメリカ大使館関係者も来場していた。10年以上前から日本へのクラフトビール輸出に重きを置いているそうだ。まさに国をあげてクラフトビールを育て、広めていると言えるかもしれない。
作り手と飲み手の距離が近いこともクラフトビールの特色のひとつ。どんな人が作ったのか? どんな思いが込められているのか? 今回はそんな話を聞きながらビールを味わうことができた。

ブルワーさんたちの話の中で「independent」、「innovation」という単語が多く出てきた。小規模だが独立した、革新的なブルワリーがクラフトビール業界にたくさん参加することで、よりクリエイティブなイノベーションが起こるだろうとのこと。今後もさまざまなクラフトビールが生まれるのだ。
また、あるブルワーはこうしたアメリカの美味しいビールが輸入されることで、日本のブルワーもインスパイアを受けて良いビールを作り、ビール業界全体が活性化することを願っていると語った。
これだけ多様なビールがあると組み合わせは無限だ。また、クラフトビールの魅力である自由さでもある。作り手たちが愛を込めたビールを自由に作り、ビールラバーたちが自由に飲む。まさに自由を感じたアメリカのクラフトビールであった。








(篠崎夏美/イベニア)