連続テレビ小説「わろてんか」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第12週「お笑い大阪春の陣」第69回 12月20日(水)放送より。 
脚本:吉田智子 演出:本木一博 高橋優香子
「わろてんか」69話「伝説の教師」脚本にも参加していた吉田智子に求められるものを再度考える
イラスト/まつもとりえこ

69話はこんな話


寺ギン(兵藤大樹)の嫌がらせから逃れるため、藤吉(松坂桃李)は自分たちで芸人を抱えることを決意する。

あさりとおじいちゃんの、ちょっとええ話


あさり(前野朋哉)と祖父・治五郎(佐川満男)のエピソードと、寺ギンと風鳥亭との確執を絡ませて描く回。
あさりが妹の結婚のためにお金を貸してほしいと、藤吉(松坂桃李)に頼んでいると、寺ギンが急に芸人を差し止めて、代役対策でてんやわんやになる。

あさりも出演しないとならなくなって、おじいちゃんはほったらかし状態に。
なんとか誤魔化そうとするてんだったが、おじいちゃんは、薄々あさりが勤め人ではないことに気づいていた。

あさりは昔から嘘つきだったというおじいちゃん。
元々、寄席が大変なとき、ひとりだけ逃げて、景気がよくなるとこっそり戻ってくるなど、お金に目のない調子のいい人物だったし、68話で、船酔いするから漁師になれなかったのに、漁師になりたくなくて大阪に出てきたと嘘をついていたという描写もあったので、説得力がある。妹の結婚も嘘じゃないかという気がしてくるが・・・それは置いておき、おじいちゃんにお金を仕送りしていたことが判明。すでに、ながいこと、勤め人の演技をしていたとは驚いた。

私生活から演じてきた男・あさりの高座での芸を、おじいちゃんははじめてみる。
滑稽な顔芸で観客を笑わせる孫を見て、親がないからといって人様から笑われないように厳しく育ててきたが、たくさんのひとを笑わせて楽しませている姿に感動して帰っていく。
この手の美談は大衆受けするし、あさりの顔芸・恵比寿さまが漁業の神様で、彼の出自と芸がつながっているところは尊いと思う。

夫を立てる貞淑な妻・てんを見倣いたい


このまま、寺ギンにいやがらせを続けられたら疲弊するばかり。藤吉は芸人を抱えたいと、てんに相談。
てんは、藤吉についていくだけと、肯定する。相談と肯定。
すばらしいパートナーの形である。
てんは、肯定したうえで、芸人の生活の安定を保障するため、月給制にしてほしいとお願いする。このお願いの仕方もあくまで下手にでていて、藤吉を立てている。出過ぎない妻・てん。現代女性が失ったものをもっている。
ところが、ふたりの決断が寺ギンを激怒させてしまう。
さて、どうなる? でつづく。

吉田智子と笑いの関係


さて、「わろてんか」の脚本を書いている吉田智子。「僕等がいた」「ホットロード」「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」「君の膵臓をたべたい」など恋愛漫画や小説を原作にした映画脚本で目覚ましい活躍していて、「わろてんか」の起用も恋愛部分に期待されてのことだというが、恋愛ものだけでなく、笑いのドラマも手がけていた。
しかもそのドラマには、「わろてんか」の北村笑店のモチーフとなっている吉本興業が関わっていた。
2000年、日本テレビで放送された「伝説の教師」である。
これは松本人志が原案をてがけ、当人が、型破りの高校教師役で主演。
W 主演として、松本演じる教師にしだいに感化されていく若い教師を中居正広が演じていた。

ビデオ発売のみでDVD 化されていないため、いま見返すのは困難だが、高校で起こるヘヴィな問題を先生が解決する学園もの。ただし、いわゆる熱血教師が真面目に奮闘するものではなく、つねに斜に構えながら、笑いで状況を煙に巻いていくところが逆にかっこいい、ビターな味わいのドラマだった。

そのなかで、吉田は4話と8話を書いている(10、11話にも、数人の共同脚本として参加)。ちなみにメインライターは、朝ドラ「やんちゃくれ」(98年)の石原武龍だった。

彼女がひとりで書いた2作が、どちらも陰鬱なエピソードで、4話は自殺を考えるほど追い詰められたいじめられっ子を助けるためにいじめられっ子を当番制にする話で、8話は余命わずかで絶望する女の子に漫才を見せる話。

印象的な台詞をワニブックスから出ていたノベライズから引用してみよう。
「イジメられるのがイヤやったら、イジメ返すしかないやろ!? それも無理やったら、笑いにかえてまえ!!」(4話)
「生き物ちゅーのはな、死ぬために生まれてくるんや。次の命の肥やしになるためにイチイチ生まれてくるだけの存在や。生きるとか死ぬとか考えること自体がアホらしいわ!」
「(前略)人間が許された唯一の特権は笑うことや。笑いながら生きるってことは人間としての証なんや(後略)」
「笑いながら死ぬか、笑わんと死ぬかは、おまえが選べ!」(8話)

松本人志の声を思い浮かべながら読んでほしい。
どれもドギツイ言い方ではあるけれど、逆説的なだけであるし、絶望からなんとしてでも生き残るという生命力と、それを笑い一点に集約しているところが潔いでないか。

ノベライズの松本人志のインタビューを読むと、原案のみならず、かなり台本にも彼の意思が入っているようなので、これらの台詞が吉田智子の発想ではないかもしれないが、脚本家としてこの台詞を一話のドラマにまとめたことは、彼女の血肉にはなっているはず。
「わろてんか」は、「伝説の教師」で書かれた生きることと笑うことに関するハードな部分を、ソフトにして朝ドラ向きにアップデートしたところもあるように思う。
吉田智子が「わろてんか」を書く必然性は、けっして恋愛面だけではなさそうだ。

「わろてんか」のDVD、ブルーレイが、吉本興業の子会社であるよしもとミュージックエンタテインメントから発売されることでもあるし、「伝説の教師」もDVD 、ブルーレイ化されないだろうか(VHS はバップから出ている)。
(木俣冬)
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