
とにかく俺は万歳映画が見たいんじゃ!
いわゆる「アメリカ万歳映画」みたいに揶揄されるハリウッド映画はたくさんある。だが、実は最近、そこまで能天気に万歳している映画は大して多くない。
冷戦はすでに遠い昔。レーガン政権期のような底が抜けたアクション映画は量産されなくなり、米軍が協力した映画でも敵は宇宙人ばっかり。最近は色々気を使わないといけないから、敵が全部「宇宙からの侵略者」になっちゃうのはわかるけど、でもやっぱり中南米の独裁者とかと人力で戦う泥臭い映画もたまには見たい。もうこの際どこの国でもかまわない。もっとこう、腹の底から万歳三唱できるような映画はないのか……!
という我々の万歳欲に応えるべく、ウー・ジンさんが作ってくれたのがこの映画である(多分違う)。ウー・ジンさんは21世紀に入ってから大きくブレイクした、比較的新世代のアクションスター。6歳の頃から武術を学び、香港アクション業界の巨星ユエン・ウーピンに見出されるも、長らく「腕の立つ脇役」みたいな役ばっかりやってきた。『戦狼』シリーズはそんな彼が監督・主演を務める戦争アクションシリーズである。ちなみに『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』は『ウルフ・オブ・ウォー ネイビー・シールズ傭兵部隊 VS PLA特殊部隊』の続編なのだが、前作を見ていなくても特に問題ない親切設計だ。
アクションの合間にストーリーが挟まっている映画です
主人公は中国最強の特殊部隊"戦狼"に所属するめちゃくちゃ強くて男気溢れる兵士、レン・フォン。戦死した戦友の遺骨を郷里に届けに行ったレンは、悪徳地上げ屋によって戦友の実家が潰されそうになっているのを発見。生来の正義感から警察の前で地上げ屋をボコボコにしたことで、軍を除隊することに。
しかし、殺人ウイルスによる疫病の研究のため奥地には中国人の医師団が派遣されていた。国連軍抜きで動くことのできない中国軍に代わり、レンはたった一人で医師たちの救出任務に志願する。かくしてレンは、反政府勢力と謎の外国人傭兵部隊、さらに殺人ウイルスまでが待ち構えるアフリカの奥地へ向かう!
とにかくもう、予算とアクションをこれでもかと詰め込めるだけ詰め込んだ内容だ。ストーリーの合間にアクションがあるというよりはアクションの隙間にお話を突っ込んだというボリューム感になっており、冒頭の水中戦(海賊に襲われたタンカーからレンが水面に飛び込む→海賊を水中に落とす→水中で海賊の集団をボコる→パラシュートコードで海賊を水中で縛りあげる→水上に上がって遠くの海賊を狙撃する、という流れを擬似1カットで見せるという、たとえ思いついても良識のある人は絶対やらないやつをやっています)からアクションの連打。殴り合いから銃撃戦にカーチェイス、さらには戦車戦に至るまで、盛れる限りのアクションを盛りまくっている。まさにワンマンアーミーだ。
更に言えば、現代の戦争アクションとして趣向をこらそうという意気込みも感じられる。例えば、敵が偵察に使ってくるのが機関銃付きのクアッドコプター(いわゆるドローンです)だったりするのだ。弾の切れたAKをバットのように振り回してドローンを叩き落とすウー・ジンさん……。今まで想像したことのなかった絵面である。
なんせ戦争映画なので銃もたくさん出てくるのだが、そのチョイスにもお国柄が出ているのが面白い。というのも、正義の味方であるレンが使うのは大体常に旧ソ連のAK-47系列、それも今風の照準器がゴテゴテ付いたものではなく、木製ストックに木製ハンドガードが付いた素のAKなのである。対して、白人の悪い傭兵たちが持っているのは光学機器やらグリップやらがレールでたくさんくっついたAR系(ざっくり言うと西側の武器)のライフルだったりする。やっぱり中国のヒーローが西側の銃を持って大活躍するのは色々微妙なのか……といらない邪推をしたくなる。
やっぱり面白いんだよな……エクストリーム国策映画……
というわけでレンさんが縦横無尽の大活躍を見せる『戦狼』なのだが、基本的にこの映画は中国万歳ムービーである。中国海軍の協力のもとアフリカ近海に展開している(という体裁だけど記録映像もけっこう混ざります)艦隊がバンバン登場。フリゲートやらに混じって色々話題の空母遼寧まで映るという、マイケル・ベイ作品みたいなことになっている。
『戦狼』は中国人以外の観客が見ることをあんまり意識していない。なんというか、『インデペンデンス・デイ』のホイットマン大統領演説シーンみたいなノリが、清々しいほどに全編を貫いている。ラスト付近の"人間国旗掲揚台"のシーンといい、なんだか無邪気さを感じるくらいのエクストリーム国策映画なのだ。昨今の国際政治の状況を考えると、アフリカを舞台にした中国製アクション映画という時点で「ああ〜なるほどね〜〜」という感じになる人も多いと思う。
ただ、面白いかどうかで言ったら、これが面白いのである。
内容面での政治性の高さはちょっと気に留めたいところだが、とにかく圧倒的なアクションと万歳映画としてのポテンシャルの高さは必見。アクション映画が好きなら絶対に見ておいた方がいい一本なのである。
【作品データ】
「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー」公式サイト
監督 ウー・ジン
出演 ウー・ジン フランク・グリロ セリーナ・ジェイド ウー・ガン ほか
1月12日より全国ロードショー
STORY
軍を除隊したレン・フォンは、アフリカに渡って第二の人生を送ろうとしていた。しかしその地で内戦が勃発、難を逃れて中国まで帰国する軍艦に乗り込もうとする。しかし奥地に取り残された同胞を救うため、彼は再度戦場に向かう。
(しげる)