素人でも演技のクオリティが把握できるハイテク表示「TESカウンター」
ソチ五輪の際、普段フィギュアを見ない層からは「フリーで羽生結弦選手は2回も転倒したのに、転ばなかった選手より点数が高いの?」という戸惑いの声があがっていた。フィギュア観戦ではこうした、一般の印象と違う点数になることがよくある。だがこの疑問に答えるべく、テレビ放送での表示が近年ハイテク化してきている。
フィギュアの得点は以下のようになっているが、およそ半分に当たる技術要素点(ジャンプやスピンなどの各要素に与えられる点)が、リアルタイムで表示されるのだ。

作表参考/J SPORTS フィギュアスケート競技解説
「難度を示すレベル(ジャンプの場合は種類)とその基礎点」「出来栄え点」に加え、「演技後半」「規定違反により無得点」「レビュー対象(回転不足やエッジエラーなどの可能性があるためスロー再生で検証)」といった情報も表示される。これがあると、素人ではなかなかわからない「一見問題なく着氷したジャンプの点数が低い」理由もわかるというわけだ。リアルタイムに獲得した点数が把握できるライブ感は、是非一度体感してほしい。
ちょっと「予習」するだけで試合観戦の楽しさ倍増
ソチ五輪以降、大きく変わってきたのは男子の高難度ジャンプ。「真・4回転時代」と称される現在、トップ選手たちは4回転ジャンプを跳ぶだけでなく、数も種類も増やしてきている。昨年末12月のGPファイナルのトップ争いでは、フリーに4回転を5回組み込んでの戦いだった。
4回転ジャンプを一回入れるのがやっとだった時代は、冒頭が最高難度ジャンプの選手が多かった。しかし今では、得点が1.1倍になる演技後半に高難度ジャンプを入れてくる選手も多い。
たとえば、今大会優勝候補の宇野昌磨選手。ソチ五輪の翌シーズン、2014年全日本選手権フリーの演技冒頭で、単独の4回転トゥループ(以下4T)に挑んだ。これは当時の彼にとって最高難度の一番重要なジャンプ。ファンの気持ちは「大事なジャンプが決まってよかった!」だった。
しかし今季の宇野選手がもしも冒頭4Tを跳んだら状況は正反対。彼は4Tより難しいジャンプをあと3種類跳べるため、通常4Tは後半に跳ぶからだ。
「どうしたー!ジャンプの成功率が悪くて余裕のある前半にした?しかしトゥループって!」とファンは不安にかられることになる。
これはあくまで一例だが、とにかく演技予定がわかると全然違う状況が見える。気になる選手の「一番の大技は何か」「どこで跳ぶか」だけでも知っておくと、観戦はいっそう面白くなるだろう。
最新動向。五輪直前、4回転合戦に見直しが?
4回転インフレ状態だった中、揺り戻しの動きも出てきているのが最新のステータスだ。
今大会で宇野選手はジャンプの難度を落として挑むという。「試合で無難にまとめず攻める姿勢」で躍進してきた中、逆に手堅い構成で成果が出せれば大きな自信になるだろう。「何を跳ぶか」だけでなく「リスクリターンのバランスをどう取るか」が五輪の勝負を左右しそうだ。
一方女子は、高難度ジャンプに挑む選手はわずかなため、ジャンプ構成上は選手間で大きな差がない。「演技後半のジャンプ数」「前後の動作を含むジャンプの質」が技術的な勝負どころだ。また、僅差の戦いだからこそ、それぞれの個性を生かしたプログラム曲選びや表現面での戦略にも注目したい。
今年は日本の五輪代表選手が多数出場
四大陸選手権は五輪直前の大会になるが、今季日本からは、羽生選手以外の全選手が出場する。五輪前に演技を見ておく絶好のチャンス!
女子で注目なのが、激闘の全日本で見事代表の座を射止めたホープ、坂本花織選手。高さと飛距離のある、爽快で力強いジャンプが武器だ。今季は新鋭の振付師ブノワ・リショーによってスピード感あるモダンなプログラムに挑戦している。フリーの「アメリ」はマイムを多用、映画「アメリ」が持つ少し奇妙な雰囲気や疾走感を感じさせる独創的な振付が印象的だ。
国内の激戦で敗れた、トップ選手たちのシーズン集大成
惜しくも五輪代表入りを逃した三原舞依選手だが、日本選手の中でフリーの最高得点記録(ISU公式)を持っている実力の持ち主だ。今季のフリーは平和を願う天使を演じる「ザ・ミッション」。天から降り注ぐような歌声に乗せて、素直で柔らかなスケーティングとスムーズに繰り出されるジャンプが神聖な世界観を作っていく。クライマックスのステップシークエンスは圧巻だ。
同じく残念ながら五輪選抜に漏れたのが、ダイナミックなトリプルアクセルとベテランらしい大人の魅力を備える無良崇人選手。フリーの「オペラ座の怪人」では怪人の抱える葛藤と、スケート競技者としての悩みを重ねた哀愁あふれる演技が胸をうつ。
海外からは、激闘の国内選手権で惜しくも五輪代表を逃した親日家スケーター二人を紹介したい。
昨年末のGPファイナルにも出場した実力者、ジェイソン・ブラウン選手(アメリカ)。日本が大好きで、NHK杯では欠場した羽生選手に「はやくよくなってください!」と日本語の手書きメッセージを示したことでもおなじみ。フリー「Inner Love」では繊細な憂いをおびた旋律に、柔軟性を生かした美しいモーションが見事に同調する。
4回転ジャンプの先駆者、ケヴィン・レイノルズ選手(カナダ)。日本のアニメやゲームが好きで、2013年大阪開催の四大陸選手権で優勝した翌日はポケモンセンターへ向かっていた(関西ローカル「ちちんぷいぷい」のコーナー「ロザンの道案内しよッ!」のロケがたまたま出くわし、陸上でのジャンプを披露している)。
なおペア・アイスダンスも、フィギュアスケートアニメ「ユーリ!!! on
ICE」の作中プログラム曲を使用する木原龍一・須崎海羽ペア他、日本勢が出場。残念ながら地上波での放送は未定だが、BS/CSでの放送含め是非チェックしてほしい。
四大陸フィギュアスケート選手権2018(フジテレビ系列で1/25(木)から放送予定)
フジテレビ公式サイト
日本代表選手:
・男子シングル:宇野昌磨、田中刑事、無良崇人
・女子シングル:宮原知子、坂本花織、三原舞依
・ペア:須崎海羽 &木原龍一、三浦璃来&市橋翔哉
・アイスダンス:村元哉中&クリス・リード、小松原美里&ティム・コレト、深瀬理香子&立野在(敬称略)
(冴西理央)