“マンガ”人気はドイツでも不動だ。大型書店だけでなく小さな駅の本屋にも、必ず漫画コーナーが設けられている。
一方で、ドイツで漫画家として生計を立てることは、日本以上に難しい。日本ほど漫画家が職業として確立していないからだ。ドイツにおいて、漫画家やそのアシスタントを取り巻く環境はどうなっているのだろうか。
漫画家はドイツではどんな立ち位置?
「ドイツの場合は、最長3巻までという契約で新作を出すことがほとんどです。日本のような長期連載はありませんし、発行部数も多くありません。そのため漫画家が受け取る報酬自体が少なく、漫画家として食べていける人は両手で数えられるほどしかいません」
こう話すのはドイツの漫画家アナ・ホルマン氏だ。ホルマン氏も漫画の収入だけでは生活できず、他に職業を持ち「兼業」している。またドイツは、日本と比べると社会における漫画の地位ははるかに低いという。
イギリス在住の漫画家Mikiko氏は言う。
「ドイツでは漫画は芸術として認められていません。イラストレーターの協会の中ですら、漫画は程度の低いものと見なされています。また、フランスやイギリスでは芸術家に対する政府からの支援がありますが、ドイツではそのような支援の制度はありません」
Mikiko氏は、ドイツにおける漫画の地位の低さや漫画家に対する支援制度が不十分であることから、数年前にドイツからイギリスに活動の拠点を移した。
ドイツに漫画家アシスタントは存在するのか?
漫画家本人の生計を立てることが日本以上に困難なドイツでは、漫画家アシスタントという職業も、日本と比べてより成り立ちにくい。ホルマン氏やMikiko氏によると、どうしてもアシスタントが必要な場合は、友人や知り合いに互いに手伝ってもらうことが一般的であるそうだ。
しかし、アシスタントという職業がまったくないわけではない。『雪の玉 -日本に恋して』『アルファガール』などの作品を持ち、プロの漫画家として生計を立てているインガ・シュタインメッツ氏は、アシスタントを「雇った」経験があるドイツの漫画家だ。ただし、その環境は十分とは言えない。同氏は自身のケースも含め、現状をこうこぼす。
「漫画家とアシスタントが、きちんと契約書を交わして労働時間や賃金を取り決めるというのは聞いたことがありません。アシスタントは漫画家の求める時間だけ手伝いをし、それに対して収入を得ますが、実際問題としてドイツの労働基準に従って契約を交わせるほど、漫画家がアシスタントに賃金を支払えないからです」
ドイツ漫画家の不安定な労働環境
これら漫画家およびこれを取り巻く職業の不安定さは、そもそも漫画家という職業の特殊性と、出版社から払われる高くない報酬にある。
通常の会社員のように、出版社は漫画家の雇用主ではないため、報酬を支払う際に法律で定められた最低時給8.84ユーロ(約1196円:2018年の数値)を考慮しなくてもよい。報酬は作品単位で、その際の金額も決して大きくない。シュタインメッツ氏は述べる。
「漫画家の仕事を時給換算すると、1時間数セント(2~3円)の収入になってしまいます。どの漫画家も漫画に対する熱意で仕事をしていますが、この収入では自活することが厳しく、夢を諦める人もたくさん見てきました」
ドイツの出版社も、漫画家の熱意だけに依存しているわけではない。ドイツの漫画の裾野を広げ、漫画産業を大きくし、ドイツ発の漫画家を育てるため若手漫画家に対して出版の機会を与えるサポートは行っている。ただし、出版社と漫画家の認識の溝はまだ深い。シュタインメッツ氏は「各々の作品に対する予算は減少傾向にある」と状況を指摘し、Mikiko氏も「出版社からのサポートは実感できるほど厚いものではない」との意見だ。
「出版社と漫画家という力関係において、漫画家が出版社と報酬を交渉することは確かに勇気がいります。けれども、待っていれば作品の報酬が上がるということはあり得ません。自分の仕事を価値あるものだと思い、長く漫画家として働きたいのであれば、自分たちから声をあげることは必要です」
こう最後に話してくれたシュタインメッツ氏の言葉は、ドイツのみならず日本にも当てはまる言葉ではないだろうか。
(田中史一)
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