ホワイトボード選びでわかるオフィスの哲学

イノベーションは、次々と価値を創造する企業のエネルギーの源だ。しかし、日本人の気質として、既存の概念を破壊して環境が変化することを好まないせいか、なかなか画期的なイノベーションに結びつけることができていない面もある。


イノベーションを起こすための第一歩、ブレーンストーミングに欠かせないツールのひとつが、ホワイトボードである。

IT化が進んだ今の時代、何十年も前からオフィスで使われてきたホワイトボードは、ちょっとアナログなもののように思えてしまうかもしれないが、逆に、むしろIT企業のほうこそホワイトボードをフル活用しているという点が面白い。

会議室には横長のホワイトボードという定番のイメージを捨て、どんなホワイトボードをどんなふうに使うか、選び方にこだわってみてはいかがだろうか。

シリコンバレーの企業はホワイトボード好き


イノベーションを起こすための思考法のひとつに、デザイン思考(デザインシンキング)というものがある。これはスタンフォード大学の「d.school」で実践している思考法で、世界的なイノベーティブ企業が次々と採用している。

d.schoolは、GoogleやAppleなど世界的に有名なIT企業が集まる、米カリフォルニア州シリコンバレーにある。シリコンバレーの企業を訪れた日本人は、たいてい、そのホワイトボードの多さに驚くそうだが、d.school内でも、膨大な数のホワイトボードが活用されている。
ホワイトボードはイノベーションを起こすために必要不可欠なものなのだ。

パーテーションのように天井から吊り下げられたホワイトボードや、ホワイトボードでできた壁など、どのホワイトボードも、学生たちは思いついたアイディアやイラスト、ポストイットなどでいっぱいになっており、賑やかなことこの上ない。

こうした膨大なホワイトボードのある光景は、シリコンバレーのスタートアップ企業では珍しいものではない。オフィスのどこにいても手の届く範囲にホワイトボードを用意しておき、アイディアが浮かんだらすぐに手近なホワイトボードにどんどん書き足していくというスタイルが、世界を変えるイノベーションの数々を生んでいるのだ。

デザイン思考の実践に最適な稼働式ホワイトボード


オフィス用品を扱う株式会社イトーキでは、こうしたデザイン思考を徹底させるために、自社のオフィスにおいても様々な工夫を凝らしている。
「思考のプロセスを変え、行為のデザインを変えることによってイノベーションを起こす」という考えのもと、通常の会議スペースとは別に、デザイン思考のための「アクティブワークスペース」という空間を設けているのも、そうした試みのひとつ。このアクティブワークスペースにスタッフが集まり、アイディアを出し、新しい解決策などを共創している。


会話の音が響かない作りになっていたり、天井までの本棚が作られていたりする部屋のデザイン自体も目をひくものだが、特徴的なのは、スタンドに立てられる何枚もの可動式の「セーブボード」というホワイトボードが部屋に用意されていることだ。

このセーブボードは軽量で、一人でも持ち運びができるので、必要な分用意して大きく広げて使う。
デザイン思考には、「共感する」「問題定義する」「アイディアをたくさん出す」「プロトタイピング」「検証しフィードバックを得る」という5つのプロセスがあるが、このうちの「アイディアをたくさん出す」をブレストで行う際に、セーブボードが活躍することになる。

その使い方のポイントは、いかに「非経験者」や「若い人」の気づきを拾い上げるかということにある。セーブボードに書き込む担当を決めてしまうと、なんとなく意見が集約されるような形になってしまい、新しい気づきにつながりにくくなってしまう。そこで、参加者の“階層”をつくらないように、参加全員者が、各々のホワイトボードに、気づいたことやアイディアをすべて書いていく。


このとき、椅子に座らないで書くのがイトーキでのルールとのこと。椅子に座ると、“大きなアイディア”だけ出すようになってしまったり、会議の中で上下関係がついてしまいやすいので、フラットな関係で会議を進めるために、全員が立ったままでセーブボードに書いていく。

セーブボードは専用のテーブルフレームに置くと、デスクの天板になり、書き込めるデスクにもなる。
こうすれば、デザイン思考のプロセス「プロトタイピング」にも使うことができ、フィードバックを受けて改良・改善していく作業にも威力を発揮できそうだ。

セーブボードは、書いたことを消さずに元のスタンドにストックできるので、次に集まる時までそのまま収納保管しておけることも便利なポイントだ。


ホワイトボードで立ち話を“見える化”


次に、コスメ・美容系総合サイト@cosme(アットコスメ)を企画・運営する株式会社アイスタイルのオフィスを見てみよう。このオフィスでは、執務スペースがフロアを1周する作りになっていて、建物の中央付近には幅の広い通路が設けられている。


通路にはたくさんのオープンミーティングスペースが作られており、そのスペースごとに備えられているのが、特注の可動式ホワイトボードだ。

座って書ける高さと十分な幅を持つというのがポイントで、いくつもあっても圧迫感は感じられない。キャスター付きなので、女性でもひとりで簡単に動かすことができ、フロア内でイベントをする際には隅に移動させることもできるとのこと。

ある企業では、立ち話のついでにミーティングができるように、ホワイトボードが2~3台、無造作に置かれている。縦型でスペースをあまりとらず、邪魔にはならない。

定位置は決まっておらず、立ち話ミーティングの後は、自席まで移動させて資料にまとめたりするなど活用したりできる。


この企業では、こうしたホワイトボードの導入によって、ダラダラと無駄に長い会議が減り、生産性を上げることができた。

ホワイトボードは立ち話の成果をきちんと“見える化”してくれるツールでもあるのだ。

描き出したら止まらない思考を妨げない“描ける壁”


最近では、壁全体をホワイトボードにしてしまうような事例も多く見られる。
まさに特大のホワイトボードだから、議論が白熱して、ホワイトボードへのアイディアの書き込みもどんどん増え、スペースが追いつかなくなり、思考が止まってしまうというようなことがなくなるかもしれない。

そもそも、ホワイトボードを使う意味は、頭の中にあるモヤモヤしたアイディアを形にして描いてみることにある。描き続けることで、思考の流れや時系列を整理することができる。

壁面がホワイトボードになっていれば、次々と分岐していくようなアイディアも、余白を気にせず、とりこぼさずに描き上げらることになる。

マグネットで資料を貼っていくのにも、広いほうが便利である。

ホワイトボードの使い方は“哲学”


最初に書いたように、オーソドックスな横長のホワイトボード以外に、最近では様々なホワイトボードが商品化されている。とくに、省スペースでコンパクトな縦型のものなどは、少人数のチームミーティングにも使い勝手がいいだろう。

カフェスタイルやリビングスタイルなどといったイマドキのオフィスにもマッチする、雰囲気の柔らかいウッドフレーム、ブラックカラーのシャープな印象のフレームなど、個性的なホワイトボードもあるので、選ぶ楽しみも味わえる。

仕事の目的やスタイルに合わせてホワイトボードを選んでいけば、きっと働き方そのものも変わっていくはずだ。
さて、あなたのオフィスにはホワイトボードがいくつあるだろうか。そして、どんな哲学で、どんなホワイトボードを選んでいるだろうか。

(アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 H.Y)