
ネトゲ中毒のニート、ハメられて殺人犯に!
ネットゲーム大国である韓国。長時間プレイし続けたことで死人も出たりするなど、それはもう白熱している趣味である。『操作された都市』の主人公クォン・ユもネトゲ中毒のプータロー。テコンドーの元強化選手でありながら、代表から外れて以来フリーターをやりつつネトゲにハマって生活しているクォンは、ゲーム内では仲間思いの有能なリーダーだ。その日もネットカフェに雪隠詰めになって仲間とともに敵チームを華麗にやっつけ、ゲーマーとしては充実した時間を過ごしていた。
そのネットカフェの机に放置されていた携帯に、一本の電話がかかってくる。電話に出たクォンに聞こえてきたのは若い女の声。聞けば、この携帯を忘れてしまったので、お礼をするからホテルの一室まで届けてほしいという。言われた通りにホテルの部屋まで携帯を届け、謝礼を受け取って家に帰るクォン。
あくる朝、自宅で寝ていたクォンは警察に逮捕される。聞けば、クォンが訪ねていったホテルの部屋で若い女の遺体が見つかり、監視カメラには部屋に入って3分16秒後に出てくるクォンの姿が映っていたという。それだけではなく、部屋からは指紋などクォンの犯行を示す様々な証拠が。クォンとその母は無実を訴えるが、やむなくクォンは刑務所へ。
刑務所内で他の囚人からいじめられまくるクォン。しかし塀の中で協力してくれた男にアドバイスされ、なんとか脱獄に成功する。行き場を失ったクォンだが、かつてネットゲームで同じチームに所属していたプレイヤー"髭面兄貴"ことヨウルと接触。現実では女性ハッカーだったヨウルらゲーム仲間とともに、自分をハメた相手の捜索に取り掛かる。
「ネトゲ廃人VS巨悪!」という、ネトゲ廃人側に勝ち目ないでしょというストーリーなわけだが、巨悪が本当に景気よく悪い。悪役サイドはタイトルの通り"都市を操作する"レベルの力を持ち、とにかく卑劣で子供っぽく(しかも金持ち)、見ていて気持ちいい。「悪役が同情の余地なくちゃんと悪い」というのは、こういう映画にとって非常に大事なことである。
悪役が本拠地にしている「悪のサーバールーム」みたいな部屋もハッタリが効いている。巨大な机と床一面がタッチスクリーンになっており、その床一面に市街地の空中写真が投影されたり、様々な人物の個人情報とかが表示されたりするのだ。で、床全体がタッチスクリーンになので悪役はそれを靴で踏んづけて操作することになる。このインターフェースだけで傲慢なムードを演出しているのには感心した。
こういう超悪い奴が無実のクォンをハメるわけだが、ハメられてからしばらくは見ていてつらい展開が続く。
そりゃ誰だって、ケンカ強いイケメンのオタクになりたいよ!!
で、中盤以降はクォンの反撃ターンに。ここから先がオタクに優しい。というか、そもそも主人公クォンのキャラクター自体がオタクの願望に手足が生えて歩いているような感じである。かつてテコンドーの強化選手だったのでケンカは強いが、現在はプラプラしている無職。そしてオンラインゲームでは抜群の腕前を誇り、しかもイケメン……。なれるものなら、おれだってこんなネトゲ廃人になりたい。
しかも、彼を助けるべく結集するネトゲ廃人さんチームが、これまたオタクに優しい。最初にクォンと接触し、彼をアシストする"髭面兄貴"は蓋を開けてみれば天才ハッカーで料理もうまいオタク女子のヨウル(対人恐怖症で携帯電話越しにしか会話ができずややゴス趣味、そしてネトゲ自体は下手)である。
それ以外にも「龍の使い」とか「爆破少佐」とか「余白の美」とか、なんだかオタク臭いハンドルネームの仲間たちがクォンのピンチを救うべく次々に結集。「龍の使い」さんが無職の元電気技工士だったり「余白の美」さんが自称大学教授だったりと、実際会ったら職業も年齢もバラバラだったというネットあるあるがうまくストーリーに噛み合っている。というわけでやってることはほとんどネトゲのオフ会だけど、立ち向かうのは本物の巨悪! それぞれバラバラな得意分野を生かし、ボンクラなオタクたちが一致団結して頑張る姿はワクワクする。
オタクたちの頑張りの結果、いつしか話はどんどん大きくなり、カーチェイスや殴り合いに発展。8車線全部を使ってのド派手なカーチェイスや、「目の前も見えない暗闇で敵だけを殴るにはどうするか」という難問に挑むクォンなど、アクションシーンもよく練られていて見所満載。冷静に考えると「ネトゲ廃人のオタクにそんなことできるの……?」という疑問も浮かんでくるが、そこに至るまでの盛り上げがうまいので特に気にならないのは見事。
オタクの願望に寄り添った優しさと、ストーリーを牽引するサスペンス、そしてド派手なアクションシーンと「とりあえず面白そうな要素を全部大盛りにしました」というサービス精神は素晴らしい。なにより『操作された都市』は、それらを提示する上で最も大事な観客の感情のコントロールに長けている。韓国製エンターテイメント映画の技巧の力強さを味わうには、うってつけの作品なのである。
【作品データ】
「操作された都市」公式サイト
監督 パク・クァンヒョン
出演 チ・チャンウク シム・ウンギョン アン・ジェホン ほか
1月20日より全国順次ロードショー
STORY
ネットカフェに入り浸りオンラインゲームに熱中するクォンは、ある日いきなり身に覚えのない殺人で逮捕されてしまう。何者かによって犯人に仕立て上げられた彼は刑務所を脱獄、ゲーマー仲間と共に真犯人を探すが、恐るべき真実にたどり着くことになる
(しげる)