後藤「え、なに?」
みき「なんでもない。……はあ、私もまだまだだなあ」
1月26日(金)に最終話が放送されたドラマ『女子的生活』(NHK)。
心はレズビアン、体は男性というトランスジェンダーのみき(志尊淳)。みきのため、そして自分のために、2人の男女が自分を変えた。

孤立して戦わずに生きる
後藤「おれ気づいちゃったんだよね。自分にはまだないなって」
みき「なにが?」
後藤「好きなもん、っていうか譲れないもの? これのためなら立ち向かっていけるっていう何か」
それを探すためにみきとの同居を解消して自立すると言って、同級生の後藤(町田啓太)は家を出ていく。後藤は、自分の格好や好きなファッションに対してまっすぐ向き合うみきの姿勢に影響を受けたようだった。
みきは同僚のかおり(玉井詩織)と合コンに向かう。タワーマンションでの、お金持ちが集まる合コン。みきはそこで、天真爛漫なお嬢様・マナミ(土村芳)と出会う。
みきのセクシャリティを知ったマナミは、いままで出会ったことがないタイプのみきを神格化して接してくる。神格化は「珍しい=貴重=尊敬」という流れで起こる。たとえば「恋愛相談に対して、ゲイなら素晴らしい解決策を教えてくれそう」という偏見も神格化の一例だ。
みきはそういう扱いにうんざりしながらも、慣れている。また、マナミの婚約者・ケンイチ(山口翔悟)に「普通じゃない」「家には呼べない」と悪意を持って言われても、何も感じないし逆に燃料にしてがんばれると言う。
ケンイチのみきへの態度に、先に怒ったのが後藤だった。
後藤「あんたに、小川のなにがわかる。こいつはね、すっごいやつなんですよ。理想の自分に向かって、努力しながら毎日がんばってる、えらいヤツなんです。1回や2回会っただけで、こいつのことわかったように言うな。小川はそんな薄っぺらいヤツじゃないんだよ」
みき(ヤバい、来る……)
後藤「小川は───、みきは、どこに出しても恥ずかしくない、おれの大切な友だちだ!」
みき(無理、やっぱ無理。言いがかりとか嫌味とかなら気にならない。むしろ、それを燃料にしてがんばれる。でも、恥ずかしいのは無理! 青春っぽいこと言うやつはほんとダメ!)
第2話で、ミニーさん(中島広稀)がみきを侮辱したときは、後藤はここまではっきりとは怒らなかった。後藤が探していた「これのためなら立ち向かっていけるっていう何か」は、みきとの友情だった。
逆風を強さに変えて1人で生きてきたみき。後藤が理解者で味方だとわかったとき、1人で強くいる必要がなくなり、弱いみきが現れてしまいそうになる。
みきは、追いかけて来た後藤からマナミがケンイチを殴ったと聞く。
ケンイチに酷いことを言われても「いつか変わってくれると思うから」と受け入れていたマナミは、みきと自分の名誉を守るためにケンイチに立ちふさがった。
それを聞いて、自分もマナミを「ケンイチの言いなりで何もわかっていないお金持ちのお嬢様」という偏見の目で見ていたこと、そして、人は変わることができるということに、みきは気づいた。
「人っておもしろいなあ」「私もまだまだだなあ」と、みきがつぶやく。
マイノリティだからといって、その人が他者に偏見を持たない、尊敬すべきパーフェクトな人間だというわけではない。他人に偏見を抱いて、失敗することもある。第3話でも、みきはテキスタイルデザイナーの美穂(前田亜季)を弱者だと思い込み、痛い目を見ていた。
後藤やマナミは、みきと関わることで変わった。いままで1人で強く生きてきたみき。でも、人は、人との関わり合いの中で変化し成長していく。
どんなに孤独でも、人と関わることを諦めないほうがいい。
マナミ「この先に嬉しいものが待ってる」

ラストシーン、髪をショートボブに切ったみきが、神戸の港を颯爽と歩く。
ゆるふわロングヘアは「女子的」の象徴だったはずだが、髪を切ったみきは堂々としている。港を歩く人たちがみんな、美しさに見惚れ振り向く。
ドラマ『女子的生活』は、甘いものや可愛いものに目がなかったり容姿でマウントを取り合ったりと、女子をステレオタイプにも描いてきた。そして、みきは自分を持ってはいるけれど、どこかステレオタイプな女子像に適応しようとし過ぎている感じもあった。
でも、髪を切ることで、みきは「女子らしく」よりももっと「自分らしく」に舵を切ったのではないだろうか。そのみきを演じた志尊淳は、ブログでこう書いている。
〈でもみきが“全て”ではありません。
あくまでも、1人の女性の生き方です。
沢山の人がいます。
沢山の人がそれぞれオンリーワンです。
誰でも人を愛する気持ちは同じく尊い。
他者を想うこと・尊重することによって人は成長出来る。
みきを通してそんな想いが芽生えました。〉
(志尊淳オフィシャルブログ より)
トランスジェンダーの生き方ではなく「みきの生き方」を描いてきた『女子的生活』。
他者を想い、自分が持っている偏見に1つずつ気づいていくことで、フラットな関係や社会に少しずつ近づいていける。いまはまだ、その途中。
『女子的生活』は、そんな途中の人たちや世の中を拾い出し、これからまだまだ変わっていけるという希望を見せてくれている。
マナミ「この先に嬉しいものが待ってる、って思ったら、毎日がんばれるんだ」
時間をかける料理の醍醐味を、愛おしそうに話していたマナミ。
SNSを見ると、『女子的生活』を見て自分のセクシャリティをカミングアウトしたという人や、「自分はマイノリティではないから、後藤のように生きたい」と決意する人がいた。小さな変化で、世の中やその人の人生が良くなっていく。
時間はかかるかもしれないけれど、「嬉しいものが待ってる」と信じていきたいと思わせてくれた。
(むらたえりか)
U-NEXT、NHKオンデマンドで配信中。
NHKドラマ10『女子的生活』
出演:志尊淳、町田啓太、玉井詩織、玄理、小芝風花、羽場裕一、ほか
原作:坂木司『女子的生活』
脚本:坂口理子
音楽:鈴木慶一
トランスジェンダー指導:西原さつき
制作統括:三鬼一希
プロデューサー:木村明広
演出:新田真三、中野亮平