
今、少年ジャンプは『HUNTER×HUNTER』(ハンターハンター)連載中という貴重な時期。そう、あまりに休載が多い作品だけに、ただ連載されているだけでありがたみを感じてしまうのである。
連載開始は98年14号から。前年の34号から連載が始まった『ONE PIECE』(ワンピース)のコミックスが87巻なのに対して、『HUNTER×HUNTER』は35巻。(2018年2月現在)
この数字からもどれだけ連載ペースが遅いのかご理解いただけるはずだ。
もはや、休載が代名詞となった作者の冨樫義博先生だが、最初の大ヒット作『幽☆遊☆白書(以下、幽遊白書)』連載中は、実は1度しか休載していないのである。
『幽遊白書』前のデビュー作もヒット! しかし冨樫先生の中ではなかったことに…!?
『幽遊白書』は少年ジャンプ90年51号より連載開始。同年の13号までデビュー作の『てんで性悪キューピッド』を連載しており、わずかなインターバルを経ての新連載。編集部の期待は大きかったに違いない。
『てんで性悪キューピッド』はコミックスで全4巻を刊行。終盤こそ巻末が定位置だったが、何かと裸が登場するラブコメ枠で根強い人気を誇りスマッシュヒットを記録と、上々のデビューを飾っている。
同じく90年の42号より、『幽遊白書』と並ぶ大看板となる井上雄彦先生の『SLAM DUNK』が始まっているが、前年に初連載した『カメレオンジェイル』は12週打ち切りの惨敗。それを思うと順調な連載デビューである。
しかし、『てんで性悪キューピッド』は冨樫先生自身にとって納得の行く作品ではなかったという。
ジャンプ公認「マンガの描き方」マンガ『ヘタッピマンガ研究所R(リターンズ)』では、スタッフが「先生の中であの作品なかった事になってるみたい」と語り、冨樫先生自身も「打ちのめされたんですよ 毎週一話 漫画を作ることの難しさに」と苦悩を振り返っている。
もっとも、この経験を通じて「話作りのメソッドを本腰入れて組み立て始めた」という。
現在、『HUNTER×HUNTER』で楽しめる、唯一無二の緻密で複雑なストーリーの妙味はこの失敗を糧に生まれたようだ。

ジャンプ得意のバトル路線から大人気漫画に
『幽遊白書』も連載当初はラブコメ路線を引きずりつつの人情もの。交通事故死した主人公、浦飯幽助が生き返るために試練を受けるストーリーだったが、人気は芳しくなく巻末を行ったり来たり。
しかし、生き返った幽助が霊界探偵となり、蔵馬や飛影などの個性的なキャラの登場とともに人気は上昇。ライバルが仲間になり、登場キャラクターが増えて行けば、ジャンプお得意のバトル路線にシフトするのはお約束だ。
連載1年目ころから始まったバトルトーナメントシリーズ「暗黒武術会編(戸愚呂兄弟編)」は右肩上がりで盛り上がりを見せ、節目では巻頭カラーを連発。人気上位を安定してキープし続け、92年のテレビアニメ化で不動の看板作品の地位を確立している。
ちなみに、この当時の少年ジャンプは190円。
『ドラゴンボール』『SLAM DUNK』『ろくでなしBLUES』『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』、そして『幽遊白書』が5強といったところ。
コンビニで朝の内に買っておかないと昼過ぎには売り切れてしまうのもザラ。校則で禁止されていようが、クラス中にジャンプがあふれている時代だった。
冨樫先生の心の声がのぞける「魔界の扉編」のラスト
続く「魔界の扉編(仙水編)」こそが『幽遊白書』の醍醐味だと、筆者は考える。
人間の業の深さや暗部に迫り、善悪の区分も複雑化。
『ジョジョの奇妙な冒険』の「スタンド能力」のような特殊能力を用いた頭脳戦も加わり、バトルの深みも増すのだが、当の冨樫先生はすでにこの作品作りに疲弊しきってしまっていた模様。
このシリーズのボスである仙水が倒れ、サポートする樹(いつき)が淡々と語る「オレ達はもう飽きたんだ」「お前らは また別の敵を見つけ 戦い続けるがいい」というセリフもそれを物語っている。
このころは明らかに絵柄が荒れていることも目立ち、リアルタイム読者の中には最終回が近いことを予見していた方も多かったはずだ。
もっとも、後に冨樫先生自身が同人誌『ヨシりんでポン!』において、このセリフには「当時の原作者(オレ)血の叫びが入ってた」と暴露しているのだから、その読みは正しかったことになるのだが……。
ブン投げた「魔界統一トーナメント編」! そして、突然の最終回へ……
そして、「魔界統一トーナメント編(魔界編)」では、その綱渡りを完全に放棄してしまった印象。
何しろ、強キャラが続々登場し、散々期待をあおってきた魔界の王を決めるトーナメントが、一気に大会終えての後日談に飛ぶ超展開。しかも、優勝したのはまったくの伏兵キャラという大胆さである。
しかし、この肩透かしっぷりこそ、冨樫先生の真骨頂ではないか?漫画の不文律をも平気で破ってしまうからこその先の読めなさ。だからこそ、『HUNTER×HUNTER』からも目が離せないのである。
その後、連載初期のような日常ドラマを数話繰り広げ、少年ジャンプ94年32号で突然の最終回となった『幽遊白書』だが、前述した1度きりの休載は直前の25号に当たる。
これは、連載終了を決意した覚悟の休載だったのだろうか…?
元アシスタント、味野くにお先生の『先生白書』によると、当時の冨樫先生は愚痴も文句も悪口も、仕事場で一切言わなかったという。
しかし、同人誌では激しく愚痴をこぼしている点を見ても、どうやら内にストレスを溜め込むタイプのようだ。
一週でも長く続けてもらいたい『HUNTER×HUNTER』。無理がたたってリタイアされるよりは、適度な休載でガス抜きしてもらった方がいいのかも知れない。
冨樫先生! くれぐれも「適度」でお願いいたします!
(バーグマン田形)