近年急速に活躍の場を広めているAI(人工知能)ですが、企業の採用活動の場でも一翼を担い始めています。
今回はAI面接サービス「SHaiN(シャイン)」を提供する、株式会社タレントアンドアセスメントの代表 山崎俊明さんにお話を伺いました。


「AI面接」で経験と勘による面接脱却 人間がするのは最終的な感情判断

「経験と勘による面接」からの脱却


――AI面接サービス「SHaiN」とはどのようなものなのでしょうか?

山崎:私たちがこれまでコンサルタントとして培ってきた、採用時に人を見抜くための戦略採用メソッドをAIに入れた装置です。「SHaiN」という名前は「Strategic Hiring AI Navigator」の頭文字を取ったものであり、また、社員を採用する、輝いている人を見つけ出す、といった意味も込めています。

――戦略採用メソッドというのは?

山崎:従来の面接は面接官の経験と勘によって行われてきました。しかしこのやり方では、候補者ごとに違う質問をして公平性を欠いたり、面接官のその日の気分や体調によっても合否が変わってしまったりすることもあります。結果的に、新入社員の3割が入社から3年以内に辞めてしまうというミスマッチの多い状態を作り出していました。
この問題を解決するために私たちは、例えばバイタリティのある人を採りたいならこういう質問をしよう、柔軟性を測りたいならこういう質問をしようというようなことを、明文化してメソッドを作りました。そうすることによって、候補者ごとに違う質問をされることもないし、誰が面接官を務めても同じロジックで面接するので、公正な採用ができるというわけです。このメソッドをAIに覚えさせた装置が「SHaiN」です。

――「SHaiN」はどのように利用するのでしょうか。

山崎:スマートフォン、もしくは人型ロボット「Pepper」を使います。24時間、365日、世界中のどこにいても面接を受けることができるようになります。また時間の制限もないので、1時間で終わる方もいれば、3時間がっつりしゃべる方もいます。最後まで面接を終えていただくと、自動的にアセスメントセンターに面接の情報がアップロードされます。
そのデータを元に、戦略採用メソッドの教育を受けたスタッフが評価レポートという形にしていきます。

――評価レポートに起こすのは人間のスタッフがやっているんですね。

山崎:面接というのは「ヒアリングをする部分」と「評価する部分」のふたつで成り立っているのですが、より時間が掛かるのは「ヒアリングする部分」の方なので、ここをAIが行います。

――評価レポートのサンプルを見せていただきましたが、A4の用紙7枚がグラフと文字でぎっしりと埋められていました。確かに人間がやる面接では、あれだけの情報量を候補者全員から聞き出すことは難しい気がします。

山崎:評価レポートは候補者の人生を背負っているものなので、そこに対してはスタッフ全員がすごく意識を高く持ってやっています。良く書くことも悪く書くこともなく、公正な視点で書けているかというチェックを積み重ねた上で提出しています。


すべての候補者に公正なチャンスを


山崎:インターネットが登場する前の就職活動は、企業の情報が記載されたリクルートブックという本を使って行われていました。就活シーズンになると、たとえば東京大学の学生には四畳半ぐらいの本がどっと届きます。一方で有名ではない大学の学生には三冊か四冊だけといった具合です。学生たちはこの本を読み、気になる企業にハガキを送ることでエントリーしていました。学歴に大きく左右される仕組みではありましたが、採用担当者からするとエントリーしてくる人数は今よりもずっと少なかったので、ひとりひとりの候補者に手間暇を掛けて、きちんと相手を見抜くための面接をすることができていました。

――現在の就職活動とは大きく違いますね。


山崎:それが現在ではインターネットで就職活動を行うようになり、就活生は大学や学部に関係なく企業にエントリーすることができるようになりました。すると大企業へのエントリー数は膨大なものになります。例えば大手メガバンクでは毎年3万人がエントリーしているといわれています。けれど実際の募集人数はたった500人。いかに大企業といえど、2万9500人を一斉に落とすために1人1人と面接するとなると、人手も、時間も、場所も足りません。そこでどうするかというと、エントリーシートで学生を落とすようになるんですね。そしてエントリーシートのどこを見て落とすかというと、やっぱり学歴です。

――結局学歴、ということになってしまっている。

山崎:本当はエントリーシートなんか使わずに、候補者全員と面接できればいちばん良いんです。けれど人間がそれをやるのは不可能。そこでAIを使ってみてはどうだろう、ということです。いつでもどこでも受けることのできるAI面接なら、人手、時間、場所が足りないという問題も解決することができます。
また学歴についても、すべての大学に同じ評価という意味での公平にはならないかもしれませんが、少なくとも公正にチャンスを与えることはできるようになるかと思います。

――ここまで、応募人数の多い大企業が利用するメリットについてお話しいただきましたが、中小企業ではどうでしょうか?

山崎:中小企業では現在、選考日程が大企業とバッティングすることによる機会損失があります。大手商社を受けている学生は、中小企業の面接が同じ日にあると、どうしても大手の方を優先してしまう。面接の当日に姿を表さないということも中小企業では非常に多いんです。AIならばいつでも面接を受けることができるので、こういった事態を避けることができます。また地方の企業にとっては、学生を現地まで来させることなく、面接することができますから、そういう面でもメリットがありますね。

――業界によっては採用コストの高さに苦労しているところも多いかと思います。SHaiNの導入コストはどれくらいなのでしょうか?

山崎:コストとしてはレポートを1人分提出させて1万円です。初期費用設定もありませんし、1人受けるだけでもご利用いただけますし、100人なら100万円になります。

「AI面接」で経験と勘による面接脱却 人間がするのは最終的な感情判断

感情で判断するところだけを人間がやるべき


――AI面接を導入することによって、採用プロセスが具体的にどのように変化するかを教えてください。

山崎:現在の採用活動では、最初にエントリーシートや筆記試験での選抜があり、次に一次面接、二次面接と続き、そして最終面接というスタイルが一般的ですよね。そのうちの、エントリーシートや筆記試験、一次面接の部分をAIに置き換えていただくイメージです。

――やはり最終的には人間の判断ということになる。


山崎:そうですね。従来の面接では、15分~30分、長くても1時間程度の限られた時間を、その人の経歴や、長所・短所などを聞くためだけに費やしていました。しかしそういった内容はAI面接を行った後であれば、評価レポートにしっかり書かれているので、人間が行う二次面接以降では候補者の内面をより深く見抜くための時間を設けることができます。人間の内面には色々な感情が存在しています。しかしAIには感情が理解できません。なのでそこは人間が集中して見なければいけない。感情をすりあわせて、文化の一致を図ることが大切なんです。

――人間が人間的なことをきちんと聞くために、人間じゃなくても良いことはAIにやってもらう。

山崎:その通りです。まだまだ一部から「AIなんかに面接されたくない」という批判や、「今まで以上にドライに評価されてしまうのではないか」という誤解を受けることも少なくありません。ですが実際には、事前にAIを通すことで、面接官も学生も余計な手間を減らし、より人間らしい面接ができるようになります。面接官の心得として「感情で合否を判断してはいけない」とはよくいわれていますが、感情を排して判断するところはAIにできるんです。
最後は感情で判断するべきだし、感情で判断するところだけを人間がやるべきかな、というのが私たちの考えです。

AI面接#採用


AI採用の導入に向けた各社の取り組みや、「SHaiN」の仕組みについてより詳しく解説された「AI面接#採用」が、東京堂出版より発売されています。


(辺川 銀)
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