優勝コメントを求められた濱田祐太郎は、番組終了間際までしゃべり続けていた。ADの「あと○秒」の指示が「見えなかった」。
過去最多3795名が参加したR-1ぐらんぷり2018。ひとり芸日本一に輝いたのは、ほぼ盲目の漫談家・濱田祐太郎。同点が二度起きるなど、レベルの高い戦いが続いた今大会を振り返る。

Aブロック:ルシファー吉岡、カニササレアヤコ、おいでやす小田、おぐ
決勝進出経験があるおじさん3人に、初出場のOL1人が挟まるというAブロック。ルシファー吉岡が息子の思春期を心配したり、おいでやす小田が601号室の客にキレたりと奮闘するなか、雅楽のネタで間をたっぷりと使う姿が印象的だったカニササレアヤコ。最後までネタの世界観の佇まいのままだった。
激戦を制しファイナルステージに進んだのは、おぐ。「見た目はハゲのおじさん・中身は女子高生」というややこしいシチュエーションを、RADWIMPS「前前前世」を流すことで一発で理解させてしまう。『君の名は。』をフリに使うとは……という驚きは、このあともう一度訪れるのだった。
Bブロック:河邑ミク、チョコレートプラネット長田、ゆりやんレトリィバァ、霜降り明星・せいや(復活)
敗者復活で霜降り明星・せいやが復活。Cブロックには霜降り明星・粗品がおり、決勝の舞台にコンビが揃うという奇跡。「コンビで同時優勝します!」と鼻息荒く乗り込んできた。胸につけている「チーン!」と鳴るベル、なんか見覚えがあるなと思ったら、さっきおいでやす小田がフロントで連打していたっけ。
河邑ミクの演技力、チョコプラ長田の小道具と、自身の強みを前面に打ち出したネタに続き、「昭和の女優」で3分間を押し切るゆりやんレトリィバァ。BGMでうっすら流れる「男はつらいよ」にマドンナたちの影が見え隠れする。審査結果はチョコプラ長田とゆりやんがまさかの同点! 「お茶の間d投票が多いほうが勝ち」というルールで、ゆりやんレトリィバァが3度目のファイナルステージに進んだ。「THE W」に続き二冠達成を狙う。
Cブロック:濱田祐太郎、紺野ぶるま、霜降り明星・粗品、マツモトクラブ(復活)
漫談、コント、フリップと多種多様なひとり芸が揃ったCブロック。マツモトクラブの敗者復活はなんとこれで3回目。過去4度の決勝進出のうち、ストレートに勝ち進んだのが1度だけである。結果は濱田祐太郎とマツモトクラブが本日二度目の同点に! 視聴者投票が多かった濱田祐太郎がファイナルステージに進出した。
しかしこの審査結果の発表、ほぼ盲目の濱田祐太郎は得票を伝えるモニタが見えない。そこで隣に立つ紺野ぶるまが、点数が入るたびに濱田に状況を伝えていた。濱田のファイナル進出が決まると手を叩いて喜び、自分が0点だったことに気づくと霜降り明星・粗品に「やだぁ」と悔しがる姿にほっこりしてしまった。
ちなみにBブロックの結果発表でも、咳き込んだゆりやんレトリィバァの背中を、隣のチョコプラ長田がさすってあげるシーンがあった。戦いを終えたもの同士の触れあいである。
ファイナルステージ:おぐ、ゆりやんレトリィバァ、濱田祐太郎
ファイナルに残った3人はそれぞれ身体的な特徴がある。「ハゲている」「太っている」「目が見えない」。いずれもその特徴を武器に変えたネタで勝負にきていた。
びっくりしたのはおぐの2本目のネタ。「見た目は女子高生・中身はハゲのおじさん」という、1本目で入れ替わった相手がメイン! 「DVDの趣味が一緒」「犬じゃない!」など、ネタの内容も1本目とリンクさせ、2本を通じて「ハゲに悪い人はいない」というメッセージまで打ち出してしまう。1本目がフリになっているぶん笑いも大きく、3分+3分=6分のネタを見た満足感があった。
一方ゆりやんは大きくネタを変え、「お願い」を繰り返しながら重力を感じさせず華麗に舞う。そして濱田祐太郎は、1本目と同じく目が見えないことを漫談で笑いに変えた。「目が見えない人あるある」「盲学校あるある」を繰り出しながら、「プリウス買ってやろうかな」「見えないけど二度見した」など、要所要所にくすぐりを入れて引き込んでいく。
濱田の圧巻のしゃべりは視聴者、審査員共の高得点を引き出し、濱田祐太郎が見事優勝! マイク1本の漫談が優勝したのは、2010年のあべこうじ以来のことだ。
世間の「ボケ」を相手にしたツッコミ
昨年優勝したアキラ100%は「見えそうで見えない」だった。今年優勝した濱田祐太郎はズバリ「見えない」だ。その漫談で語られるのは、言われてびっくりしたこと。
言わば「目が見えないことを忘れてしまう世間」がボケ。濱田祐太郎は世間を相手にしたツッコミだ。「見えない人」によるツッコミはとても小気味よく、「笑ってもいいのかな」という不安を払拭する。
象徴的だったのは1本目のネタの出だし。スタッフに連れ添われ、手に白杖を持ち、マイクの前に立った濱田に、客席は拍手のタイミングを失ってしまった。「大丈夫かな」という空気が流れた。そこを突破したのがこのツカミだ。
濱田「あ、拍手なしですか? (会場拍手) ありがとうございます。拍手してくださいよお願いしますよ! びっくりした俺客席見えへんから今お客さんゼロ人かと思ったもん(会場笑い)」
まさに濱田祐太郎にしかできないツカミ。キャッチコピーどおりの「オンリーワン漫談」だ。テレビだけでなく、講演会やラジオといったお仕事も増えそうな予感。
(井上マサキ)