第13回「変わらない友」4月8日放送 演出:野田雄介

前半30ページまで、正助と吉之助のこと、月照との出会いと別れが描かれている。
スピーディに進みながら、重要な情報は濃密に入り読ませる。
西郷と月照の場面は、ドラマの会見で「原作にはBLも書かれている」発言の元になった部分であろう。必読!
篤姫の輿入れ
ドラマの裏話を伝える特番「『西郷どん』スペシャル~鈴木亮平×渡辺謙の120日~」が入って1週空いての13話。
まず、12話を振り返っておくと、島津斉彬(渡辺謙)の国を変えたいという悲願に協力するため、公方・家定(又吉直樹)に輿入れするという重い使命を背負う決意をした篤姫(北川景子)だったが、大きな地震に遭い、心が揺れ、吉之助(西郷どん)に一緒に逃げてと迫った。
すぐに気持ちを整え、ひとりの女性としてではなく、国を背負う者の顔に戻る篤姫。
制作の舞台裏を見せる特番も面白かったが、この話のあとは一気に畳み込んで見せてほしかった気もする。間が空いてしまったのはタイミングが良くなかったかもしれない。
さて、13話では安政の大地震により、江戸が大きな被害を受け、輿入れが延期になったところからはじまる。
吉之助は、だめになった婚礼道具を、1年で整え直す使命を帯びて、奮闘。
着物の下絵を持ち出してくれた呉服屋の主人が出てきたり、不足した材木を慣れない手つきで切っている人が出てきたり。吉之助も手伝いはじめる。ここで、特番で紹介された、特殊な小さい草履を履いているのが見えた。
安政3年11月、篤姫はついに江戸城へ出立。
作り直した打ち掛けがきれい。
遠くから見つめ合う吉之助と篤姫。
篤姫のほんとうの気持ちを知っているのは、吉之助だけ。彼らが再会するのは、江戸城開城のとき、とナレーション(西田敏行)が語る。
薩摩の守り神
輿入れの際、斉彬が、篤姫に、薩摩の守り神を渡す。これは狐。薩摩には狐にまつわる吉話が伝わっている。
鹿児島の稲荷神社のサイトには、“津忠久公の母である丹後の局が暴風雨の中産気づかれた際、摂州住吉稲荷神社の神の使いであるキツネが、灯りをともして出産を助けた。その御神霊の加護により誕生された霊験を偲び、島津忠久公が薩摩守護職に任用された折、創建されたと伝えられる。”と書いてある。
また、関ヶ原の合戦における「島津の退き口」で有名な島津義弘は、朝鮮の役では白い狐と赤い狐に助けられたという伝説が。
そういうこともあって、島津家には甲に狐が象られているものもあるようだ。仙巌園で甲冑着て写真を撮るイベント(NHKとは無関係のものです)で用意された義弘の甲をサイトで見ると、狐がついている。
家定との出会い
城内をカゴに乗って移動してくる篤姫。余談だが、駕籠かきの前方の女性陣3人が後ろ向きで、大変そうだった。
カゴにかかった御簾をいきなり開ける家定(又吉直樹)。猫背でそこが印象的。
家定「丈夫か?」
篤姫「はい」
家定「死なぬか?」
篤姫「はい めったなことでは」
安堵の笑顔をして行ってしまう。
なんとも、余韻の残る出会いであった。
吉之助と斉彬
輿入れが済んでほっとした斉彬と吉之助は、薩摩切子のグラスで酒を飲み交わす。
集成館は、武器だけでなく、焼酎も、グラスもつくっていて、いろんな技術を民衆が身につけることで、
暮らしを豊かにするのだと斉彬は未来の希望を語る(あとで、ホトグラフもいち早く試してみるエピソードも描かれた。そのとき西郷は写るのを遠慮する。どうりで肖像が残ってないわけだ)
「暮らしが豊かになれば、民はみな前を向く」
この日のふたりだけの楽しい宴を、吉之助は忘れなかったとナレーション。
この感じを見ても、13話のあとに特番を入れたほうが良かったのではないかと思った。
月照との出会い
斉彬の心酔しきっている吉之助は、目黒不動に、不犯の誓い(女性との交わりを断つ)を立て、斉彬に男の子が生まれるように祈願。
その甲斐あってか、哲丸が生まれる。
斉彬について、3年4ヶ月ぶりに薩摩に帰る吉之助。その途中、京都に立ち寄り、輿入れに協力した公家・近衛忠煕(国広富之)に挨拶。そこへ、風が吹き、印象的な音楽がかかり、一瞬画面が暗くなり、ゆっくり蠢くかたつむりや白い椿などが映って、歌「世の中に生きとし生けるものは皆、ただ玉の緒の長かれとこそ」
を詠いながら月照(尾上菊之助)がやって来た。
近衛家ゆかりの清水寺の住職である。
彼に一橋慶喜(松田翔太)を次期公方に推薦してほしいと、斉彬は頼む。
匂い立つような気配を漂わせる菊之助。
この月照と吉之助はやがて、ひじょうに濃密な関わりをすることになる。
この回のあとに放送された「西郷どん紀行」は月照がいた清水寺成就院だった。
ちょうど、この3月、この成就院と月の庭を見てきた。映った水琴窟の音も聞いた。水が落ちるテンポの早いのと遅いのと、ふたつあった。
西郷と月照がはじめてあった部屋に、彼らが入水自殺したときに着ていた着物が本邦初公開されていた。
成就院には、西郷と月照の書も飾られていて、西郷の字は踊るように勢いがあって、緩急大胆で、月照はかっちりと整った字だった。性格が出ているような字を見ると、ほんとうに生きていたんだなあ、と実感する。
そして、大久保正助
西郷が江戸で華々しく活躍していた間、薩摩で貧しさと折り合いをつけて生きてきた家族、そして、大久保正助(瑛太)。
江戸はとにかく金がかかって・・・という吉之助、飲み代とかもばかにならないってことなのだろうか。
皆がいろいろ仕事の話を聞きたがるが、秘密の事が多く話せないと言う吉之助。これでまた、残された者たちとの距離ができてしまう。
大山(北村有起哉)さんは? と聞かれて さしてなにもしてなくて、気まずい みたいなエピソードも盛り込まれ、話を逸らすために、正助が嫁をもらうと言い出す。
正助は、吉之助の婚礼のときも、みんなでゲームやろうと言って、吉之助と須賀(橋本愛)をふたりきりにしてあげていた。気が利く性分なのだろう。
吉之助は天下国家のために働いているから「おれの嫁どりなどつまらんことで煩わせるな」などとも言ったりして、気遣いの人。だが、気を使う分、ストレスが溜まっている。
正助と満寿(美村里江 元ミムラ)との祝言の日、吉之助は殿に呼びだされる。阿部正弘(藤木直人)が亡くなり、慶喜公方計画が暗礁に乗り上げた。
再び江戸へ戻ることになった吉之助は、正助とふたりで酒を酌み交わすが、
「上から見下ろしている」と正助に言われ、憤慨する。
恵まれている吉之助と、置いてかれた正助との差が露わになって、悲しいケンカ別れに・・・。
だが、13話の見どころは、このあとだ。
忘れもんをした
正助の思い(江戸で働きたい)を理解した良き嫁・満寿が出立の用意をし、家族も快く正助を見送る。
山道を、吉之助を追って走っていくと、向こうから、戻ってくる姿が。
急ぎ下って来て転ぶ吉之助。さわやかな広がりある音楽がかかり・・・
西郷「忘れもんをした」
大久保「そげん大事なもんをわすれたとか?」
西郷「おはんじゃ」
大久保「え・・・?」
西郷「大久保正助を忘れてきた」
西郷「いっど」
大久保「いっど」
西郷、大久保「おいしょー!」
ふたりは走っていく
ナレーション「西郷どんも正助どんも、チェスト! きばれ!」
じーん…
というものすごく濃くて熱い友情シーンが描かれた。
「忘れもんをした」は、例えるなら、
“銭形「いや、やつはとんでもないものを盗んでいきました」
クラリス「?」
銭形「あなたのこころです」“
みたいな印象。
ゴールデンタイムのラブストーリーとかでも通用しそうなドラマティックな台詞だった。
こうして見ると、いったんまとまったようなこの回のあとに特番でも良かったような気がしてならない。
話を分断して特番が入ることに否定的な意見も多かったようで、今後は、入れ方にも十分注意をする必要があるだろう。
(木俣冬)