最近は「池の水ぜんぶ抜く」や、「鉄腕DASH」の外来種を捕獲・調理する企画(グリル厄介)などでの「専門家」としても有名だが、本業は静岡大学で生物の教授を務める立派な「先生」。
しかし、このクレイジージャーニーの加藤だけは他の番組とちょっと違う。
では何が違うのか?
この番組での加藤は、愚直な爬虫類欲を解き放ち、愛すべき「バカ」っぷりを全開に突き進む「どうしようもないコドモ」なのだ。(著作参考/「世界ぐるっと 爬虫類探しの旅〜不思議なカメとトカゲに会いに行く」)

そんな加藤少年はテレビで初めてコモドオオトカゲを見て「これでもいいじゃん!背中に乗って学校に行ける!」とすっかり虜に。
クレージージャーニー初登場にコモド島を訪れるさらに10年前、加藤が初めてコモド島を訪れた際の様子も本書に記されている。憧れのコモドオオトカゲと初対面した際、地元のレンジャーに「これに乗ってもいい?」と尋ね「だめ!」と即答される加藤。この時すでにアラサー。過去も今も本質は何も変わらず。さすがだ。
スイッチが入ると「やべえ」加藤に豹変
「クレイジージャーニー」に初登場したのは2016年9月15日。インドネシアで野生のコモドオオトカゲを追った。
道中、サングラスをかけ精悍な雰囲気で、その種の持つ毒の危険性などを真剣に語る加藤。その出で立ちや口調から冒険慣れした頼もしさを醸し出していたが、レアな対象(コモドオオトカゲの赤ちゃん)を前にした瞬間、そのキャラが豹変した。
「これはレアです、本当に凄い。本当に凄いんです!本当に、本当ですよ?」
急に熱を帯び饒舌になり、制御が効かなくなるあの感じ。同行スタッフやスタジオが違和感に包まれていく。
地元民のふくらはぎにある生々しい痕跡(噛まれた)を見た時も、明らかに喜んでしまっていた。
「これは!……ひどい」と言ってはいるものの、「これは」のあとテンション的に「たまらない!」とか不謹慎な言葉が漏れかけたのをギリギリで我慢した感じ。大学教授としての理性が間一髪ブレーキをかけ事なきを得ていたが、あれは絶対に大好きなコモドオオトカゲの歯型に高揚しちゃってた。
この直後、加藤は覚醒する。森を移動中、前触れもなく走り出したかと思うと枯葉の積もった斜面に豪快にダイブした。「え?え?」と、とまどう同行ディレクター。ざわつくスタジオ。怖がる小池栄子。
恐る恐る同行Dが状況を尋ねると… 「今トカゲが、一匹いました!」
そ…そうかもしれないけど…!
おそらく彼の中では「子どもがトラックに轢かれかけてたんです!」くらいの行動原理なのだろう。もちろん人命がかかってるなら納得できる「唐突さ」なのだが、そのスイッチの入るきっかけがわからないから唖然としてしまう。
この後も小さめのコモドオオトカゲを全力疾走で追いかけたあげく、水牛の糞を踏み派手に転倒し捕り逃がすという、サルカニ合戦以来の大立ち回りを見せてくれた。もう教壇に立つ教育者の面影は無い。
他の番組では、真面目すぎるあまり与えられた「役割」を忠実にこなそうとしたり、変に気の利いたコメントを言おうと頭でっかちになりすぎている感が見受けられ、それはそれで立場的に正解ではあるのだが、やはり自分のフィールドに解き放たれ本能のままの獲物を追う野生の加藤の輝きには及ばない。
この、見てる人を置いてけぼりにする加藤独特の捕獲スイッチはこれ以降のクレージー加藤回での見どころとなる。
2017年2月、マダガスカルで幻のヘサキリクガメを探していた時も、途中でブキオトカゲというマダガスカル固有種を発見してしまいスイッチが作動、フルスロットルで大木に頭から激突していた。絵に描いたような猪突猛進。なかなか捕まえられず何度も突進し、あげく木のうろ(穴)に入ったと思って覗いたら「うわ!ゴキブリ!」と巨大なゴキブリに驚くというオチまで付け、スタジオを沸かせた。
当初は「加藤さん自体が面白い」(松本人志)とその熱を面白がられながらも、捕獲自体は下手な人といういじられ方をしていた。しかし、そのキャラも登場ごとに更新されていく。
イチロー並みのジャンピングキャッチ
半年後のカメルーン探訪(2017年8月)の際は、飛行場から拠点となる街へ移動中の車からいきなり飛び出し猛ダッシュしたかと思うと、ブロック塀の上を走るトカゲ(レインボーアガマ)をジャンプしながらワンハンドキャッチ。大げさでもなんでもなくホームランボールをジャンプして捕るイチローのようだった。
まだ予定したフィールドに到着してないのにターゲットを察知してしまうと、街なかだろうが車内だろうが、お構いなしに着火してしまう回路がたまらない。
「ヒュ〜すごいね〜!ほらアグレッシブだ、噛んでくる、おっとっとっと!」「こんな人が多いとこにもいるんだね〜」
こっちは加藤の唐突さに面と食らってるのに、当人はただ爬虫類を語りたくて仕方がないというのも「バカ」でいい。
このあとも本命となるカエル(両生類だが)を探すのに、スタッフの身の安全など気にもとめず、森の中の激流に立ち入りズンズン遡上していくこと3時間、「いた!」と叫ぶやいなや横っ飛び、半身ずぶ濡れになりながら岩の上を転がり、世界最大のカエル・ゴライアスガエルを捕えた。
「いた!すげえ!あぶねえ!」(ギリギリ捕まえたという意味)と興奮し叫んでいたが、いきなり飛びついた加藤の反射神経がまず「すげえ」し、目を見開き高揚しジャンキーみたいになってた加藤の表情の方がよっぽど「あぶねえ」。
さらに加藤は、人間の子供くらいのデカさのニシアフリカコビトワニを川の茂みに飛び込み捕獲。素手で口を押さえ、全体重をかけワニの体を押さえ込み、もたつくスタッフに指示して口にテープを巻く。
素手でワニを15分以上押さえ込み、捩じ伏せた興奮のまま加藤が語る。
「ワニは持久力ないからすぐバテます、だからホールドして、ホールドして、ホールドはっぶしゅ!!」
長く水に浸かり体が冷えたのだろう、得意気に語るウンチクの語尾がスムーズにクシャミに切り替わる。最高。
『世界ぐるっと爬虫類探しの旅』によると、幼稚園時代、将来「イチゴさんになりたい」という女子を「なれるわけないじゃん!」とバカにしつつ、自分は?と問われると加藤は胸を張って
「ワニになりたい!」と答えていたという。なりたかった相手を素手で堪能し、さぞ嬉しかったことだろう。

どんな「獲物」も素手で捕るのは何故か?
加藤のすごいのは、どんな時も網や罠やモリ(ヤス)などの道具どころか手袋すら付けずに、素手で捕獲を行うところ。
カエルを探す時も、そこに天敵のヘビもひそんでいるとわかっているのに、川沿いの冠水した植物の中にガシガシと素手を突っ込んでいく。
「ちょっと触れた時に、石なのか木なのかそれとも生き物の肌なのか、全て情報が指先から入ってきますから」「軍手してたら、あれ?ワニかな?何かな?と思ってる間にガブッときちゃう(噛まれちゃう)」
この皮膚感覚を重視するこだわりは、指先で釣り糸をたぐるカジキ漁師や、僅かな感度に左右されるアスリートと同じものだろう。加藤の研鑽された捕獲技術を裏打ちする野性味にシビれる。
それでいて、危険では?と心配するスタッフに「噛まれなきゃ大丈夫」とか、毒ヘビに対しても「噛まれたら(毒)抜けばいいし」と、身も蓋もないのもいい。
加藤は各地の爬虫類のDNA採取をライフワークとしており、世界中を旅している。それは種の分布や進化の歴史を紐解くための実にアカデミックな行為なのだが、リミッターの外れた時のこの人を見れば見る程、理由は全て「後付け」であり、結局一番の動機は愛してやまない爬虫類と純粋に触れ合うのがたまらないからなんだろうなと思えてくる。(紹介VTRのナレーションは「ただ触れ合うのが目的ではない」と言ってはいるが)
初登場時に、トカゲに指をガシガシ噛まれて嬉しそうしてる意味がわからないと松本人志に言われ、
「アゴの強さが『コイツ、これくらいか』っていうのがわかるんですよ」と、もっともそうな理由を嬉しそうに答えていたが、段々とその意味がわかってくるのだ。畑正憲(ムツゴロウ)が猛獣に齧られても嬉しそうにしてるのと似ている。
今夜の爬虫類ハントの舞台は初の南米、またしてもスイッチが入りのたうち回ってる加藤の姿が予告で放送されていた。楽しみだ。
(柿田太郎)