第5週「東京、行きたい!」第26回5月1日(火)放送より。
脚本:北川悦吏子 演出:土井祥平
連続朝ドラレビュー 「半分、青い。」26話はこんな話
秋風羽織(豊川悦司)に「私の弟子になりませんか」と誘われた鈴愛(永野芽郁)は、東京に行って漫画家になると言い出し、家族の仲が険悪になる。

ポニーキャニオン
「秋風塾」といって羽織が「あまちゃん」の太巻化してきた気もしないでないが、「あまちゃん」で、スカウトされて東京に行こうとしていたユイちゃん役の橋本愛主演映画「パークス」に永野芽郁も出演している。
役のほわんとした雰囲気は、ちょっとだけ鈴愛を彷彿とさせる。
これ、雰囲気のいい映画なので、GW鑑賞 におすすめです。
せっかくの制服が破れる
農協に就職が決まってせっかく制服もできたのに、農協には行かないと言いだし、晴(松雪泰子)を怒らせる鈴愛。
制服をもって帰ると木田原幸子(池谷のぶえ)が仲裁に入ったが、押し問答になって、制服の袖がほつれてしまった。
晴が、就職祝いもしたのに(そのときに、晴側のおじいちゃんおばあちゃんもいたことが判明)と鈴愛を責め、
幸子もさりげなく「制服は鈴愛ちゃんのお祝いにおばさんが」と言うが、鈴愛は自分の欲望にいっぱいいっぱいで他人のことを考える余裕がない。
夢の中と書いて、夢中。
鈴愛は、自分を認めてくれた(と思い込んでいるが、実際の秋風〈豊川悦司〉の思惑は違うところにあるようだ)秋風羽織の元へ行くと言って聞かない。
母と娘の直球ピリピリムードに、池谷のぶえの「いま音したよねびりっと」「袖のところがほつれた・・・」のちょっと違う角度の言い方が、救いになった。
井川遥がこわい
秋風にスカウトされてから一週間過ぎても連絡がないため、菱本(井川遥)が鈴愛に電話をしてきた。
宇太郎(滝藤賢一)が出て、親に挨拶もないのかと文句を言う。
菱本は、大事な先生を「秋風なんとか」呼ばわりされたため激怒し、立板に水で宇太郎を論破する。
井川遥の、上から目線のひたすらきつい言い方は、面白さを通り越して、朝からきつい。
でも、滝藤賢一の表現する実直さと、豊川悦司の醸し出す超越したヘンな感じと、志尊淳の柔らかさで救われた。井川遥も YES d’accord (承知した)と英語とフランス語をW使いするところで、若干、救われた。
鈴愛がわがまま過ぎる
池谷のぶえ、豊川悦司、滝藤賢一、志尊淳の連携で、なんとか救われたが、8時10分、東京行きがなしになったことを宇太郎から聞かされた鈴愛が「冗談やない やっていいことと悪いことがある」と言い出したところからは、完全にいやなムードに。
26話の鈴愛はことごとくいやな子に書かれている。
「(就職祝いにみんなを)呼んだのはわたしやない母ちゃんや」これはひどい。
「親に許してもらえないんですがどしたらいいでしょう(ちょっと口調可愛め)・・・なんて小学生みたいなことは言えん」これも感じ悪い。
8時10分以降はとにかくひどい。
宇太郎と菱本の間で、東京行きがなしになったと聞いた鈴愛は、
「こどもの夢つぶして何がお父ちゃんや」
「これはあかん。鈴愛は許せん」と怒り出す。
鈴愛が一方的にひどいことを言うものだから、農協が仙吉(中村雅俊)のコネだったことを漏らしてしまう晴。
鈴愛はさらに激昂して、
「おじいちゃんまでグルか」
「この家は嘘つき家族や」
と喚いて、家を飛び出る。
夜中、律の家まで言って、笛を吹こうとしたが、受験が大変そうとブッチャー(矢本悠馬)に聞いていたので、
さすがにこらえる。
久しぶりに、イライラエンタメがはじまった気がして、もやもやした。
冷静に考えたら、反抗期は誰しもあり、親に対して暴言を吐くことだってあるだろう。
他者とくらべて自分には何もないと思っていたら、認めてくれた人がいて舞い上がる気持ちもわかる。
しかも、こっそり就職を頼まれていたと知ってプライドがズタズタになってしまった悔しさもわかる。
そしてこれは、やがて描かれるヒロインの旅立ちという感動の流れへの布石であることも、ドラマを見慣れた人間ならわかるが、狙いがあるにしても、26話の鈴愛はわがままが過ぎた。この我の強さは、「純と愛」の再来かと胸が痛くなった。
小学生のときは乱暴ではあるがもっと健気だったのに、高校生の鈴愛は、わがまま放題に育てられている印象だ。永野芽郁のふんわりした雰囲気をもってしても緩和できない攻撃力。
家の手伝いをしているとか、家が裕福でないからお小遣いをもらうのも申し訳ないのでバイトしている描写などをちょっと入れておけば、好感度が担保できたであろうに、なぜそれをあえて描かなかったのだろう。
朝ドラヒロインに多い、他人優先の忍耐強い子ではなく、まず自分を大事にする子を描きたかったのか。
でも、やっぱり、朝ドラヒロインはいい子であってほしい気もしないでない。
なにはともあれ、早く解決エピソードを見てホッとしたい。
秋風塾
ところで、秋風は、全国から若者を募って少数精鋭の「秋風塾」をやるという計画があるという。これは、現実における、高橋留美子、原哲夫、さくまあきら、にしむらしのぶを輩出した小池一夫の劇画村塾のミニマム版みたいなことだろうか。
ちなみに、「秋風なんとか」では、北川悦吏子の書いた岐阜を舞台にしたドラマ「3つの月」で谷原章介(「半分、青い。」では律のお父さん役)が演じた東京で活躍するピアニストの名前も「秋風」だったので、ちゃんと「秋風羽織」と言わないとわからなくなってしまう。
(木俣冬)