
ヒロインの恋心がばれ、ヒロインのライバルと主役がルームシェアし、三角関係が生まれた初回と比べ、今回は速度が若干緩まった印象。
眞島秀和は何が「二刀流」なのか?
第2話の序盤、怪しげな人物がいきなり出現する。非常にあからさまでスルー不可避なので、まずは私の解釈にお付き合いいただきたい。
バスルームで告白してきた同居中の後輩社員・牧凌太(林遣都)に唇を奪われた春田創一(田中圭)は気が動転。ところが翌朝、牧は何事もなかったような顔で春田に朝食を作り、サラッと出社する。え? 昨日のは無かったことになってんの!? 春田の混乱は加速する一方。
心ここにあらずでいる春田の頭部を突如触れたのは、主任の武川政宗(眞島秀和)だ。思わずビクッとする春田。
「頭にゴミ付いてたぞ」(武川)
その後、地元の後輩であり小説家の棚橋一紀(渋谷謙人)と陽菜(吉谷彩子)夫婦が家探しをしに来店。しかし、夫妻の意見はことごとく衝突する。困り顔の春田に、武川は自身の結婚観を述べた。
「(結婚は)興味ないな。
なるほど、武川は潔癖症か。その割には、春田の頭に付いていたゴミを平気で触っていたが……。
昨晩の牧との出来事を思い悩む春田を見て、武川は興味津々。春田は、悩みを打ち明けた。
「友達の話なんですけど、今まで意識してなかった相手から……突然、キスされて。なのに、次の日会った時に何にもなかった感じになってたんですよね」(春田)
「友達の話なんですけど」という話は、友達の話じゃないと相場が決まっている。春田は脇が甘い。だって、核心の部分までゲロっちゃうのだから。
「男女じゃないんですよ。男同士なんですよね」(春田)
「男同士なんですよね」の言葉を聞いた瞬間、メガネをクイッと上げる武川。
第2話では、田中圭と林遣都がドラマの裏話を副音声で明かしてくれている。ここで、林はヒントを提示した。
「武川さんは“政宗”っていう名前なんですよ。覚えておいてください」
政宗といえば、伊達政宗。二刀流の男だ。結婚に興味がなくて、二刀流。もう、皆まで言わない。近々、武川も参戦すると見た。
男同士の恋愛を面白がる、噂好きの伊藤修子
春田の悩みを聞いていたのは、武川だけじゃない。先輩社員・瀬川舞香(伊藤修子)は、噂好きのおしゃべりおばさんだ。
夜、一人で居残り仕事する牧。そこに、スマホの充電器を忘れた舞香が戻ってきた。春田との仲が気がかりの牧は暗い表情だ。
牧 好きになっちゃいけない人を好きになってしまったっていうか……。最初から可能性のない恋ってあるじゃないですか。
舞香 そうね。私は、全部それ。
牧 なのに、止められない自分が嫌になるっていうか。
舞香の中で、点(男同士のキス)と点(可能性のない恋)がつながった。その瞬間、「チーン!」と声を上げる舞香。
「好きになっちゃいけない人なんて、いないんじゃないかしら。押して上手くいかないんなら、引けばいいじゃない」(舞香)
牧にアドバイスをしている風だが、舞香の真意はそれじゃない。面白くなることを期待し、けしかけてるだけ。彼女の言葉に勇気付けられた牧が退社した直後、舞香が発したのは「なーんつって!」という言葉。
表情だけで魅せる林遣都の演技力
ルームシェアをしているのだから、帰宅後に顔を合わせないわけにはいかない。恐る恐るの春田に接する牧の態度は一変していた。
「春田さん、冗談ですよ。昨日のアレ(風呂場でのキスのこと)。春田さん、本気だと思ってません? あそこは『おい!!』ってツッコんでほしかったんですよ。『おい!!』って」(牧)
普段どおりを振る舞い、本心を隠す牧。「本気」を「冗談」だとごまかし、春田をホッとさせようとしている。ただただ、切ない。
春田のリアクションが、切なさに拍車をかけた。
「お前なあ、俺が今日一日どんな思いで過ごしてきたかわかってんのか!? マジで出てってもらおうと思ってたもん」
「だいたい、男同士でキスとか、もうマジでねえから!」
ドラマを録画している方は、この時の牧の表情を確認してみてほしい。どん底に落とされたかのような切なさを、笑顔で何とか隠そうとしている。100ある内の100の感情が、表情だけで伝わってきた。
大事なのは“長さ”より“深さ”
そろそろ、第2話最大の笑いどころにも言及したい。春田は会社の本社屋上で、上司の黒澤武蔵(吉田鋼太郎)とランチミーテイングする。ランチと言えば聞こえはいいが、黒澤は手作りのお弁当を持ってきているのだ。
黒澤は、春田に恋したきっかけを本人へ打ち明けた。契約を初めてゲットした日、春田は契約書入りのカバンをひったくりに取られたことがある。犯人を追いかける春田と黒澤。その時に転倒した黒澤は、足を負傷した。
春田は近所で買った湿布を黒澤の足に貼り、そして、靴を履かせてあげたのだ。その時の黒澤の表情はどうだ。まさに、夢見心地。黒澤に新しい感情が生まれた瞬間だ。
「あの時、お前が俺をシンデレラにしたんだ」(黒澤)
これは、10年前の出来事である。
黒澤から春田へ送られたメールのタイトルを、牧はチラ見していた。彼は、2人が逢引していることを知っている。牧は屋上に現れた。割って入るためだ。
牧 春田さんから手を引いてください!
黒澤 ちょっと言ってる意味がわからなーい!
牧 手作り弁当なんて重いに決まってるじゃないですか。
普段から春田に手料理を振る舞っている牧が、黒澤の手作り弁当を否定する。
「俺は、春田さんが好きです。たとえ相手が部長でも、絶対に渡しません!」(牧)
予想外の展開に困惑する春田だったが、「『おい!!』ってツッコんでほしかったんですよ」という牧の言葉を何とか思い出した。牧よ、ここはツッコむべきなんだな!?
「おいっ! ぅおおいぃぃー!」(春田)
無視する牧。春田渾身の「おい!!」が通じない……。
これで、ようやく全員のスタンスがはっきりした。ヒロイン(黒澤)とライバル(牧)が直接対決だ。
黒澤 俺はよぉ! はるたんと10年一緒に働いてんだよ!
牧 だから!? 大事なのは長さより深さだと思うんですけど。
長さより深さって、意味深な……。ここからは、どちらが春田のことを想っているかの競い合いだ。
黒澤 じゃあお前、はるたんのいいとこ10個言えんのかよ!?
牧 春田さんの悪いところ10個言えますか!?
黒澤 えーっと……えー……、かわいすぎる! 存在が罪! ピュア! ……かわいすぎる!
悪いところを全然言えない黒澤。「かわいすぎる」を2度言っちゃってるし……。一方の牧はスイスイ言う。
牧 優柔不断、朝不機嫌、服脱ぎっぱなし、好き嫌い多い、靴そろえない、皿洗いしない、「ちょっとそれ一口ちょうだい」って言う、改札で引っかかる、方向音痴、うつ伏せで寝る!
「うつ伏せで寝る」に関しては、同居していないと知り得ない情報。恋敵への強烈なマウンティングか? ダメージが大きい黒澤は、思わず牧に掴みかかった。
「はるたん、そんなんじゃねーよ!」(黒澤)
2013年のドラマ『カラマーゾフの兄弟』(フジテレビ系)で親子を演じていた吉田と林が、田中圭を巡りキャットファイトを演じることになるとは……。
ここで、春田の悪いところをスイスイ言えた牧と、言えなかった黒澤をタイプ分けしてみたい。まず黒澤だが、彼は言うまでもなく乙女。春田のことを美化し、お花畑のテンションで愛している。
一方の牧は、ドS。彼の性格から春田の短所が目について仕方ないはずだし、同居生活で短所を目撃する瞬間も多数だ。Sなだけに、短所への攻撃に躊躇もない。というか、短所さえ愛おしいのが牧である。
はっきり言って、私は両者を応援したい。誰に感情移入していいかわからなくなる、罪なドラマじゃないか。
「俺のために喧嘩するのやめてくださぁぁぁあい!」(春田)
ダメ男なのに、スペックの高い男たちからモテモテの春田。彼への感情移入も、もちろん可能だ。
最初から可能性のない恋
幼馴染・荒井ちず(内田理央)の実家が営む居酒屋で、離れて席を取る春田と牧。昼間の行動に怒る春田へ、牧は本音を隠せなくなった。
「俺は春田さんが本気で好きなんですよ! 相手が部長だろうがなんだろうが、そんなの関係ないじゃないですか!」(牧)
異性愛者・春田の反応は、牧にとって酷なものだった。
「一緒に住み始めたのもさ、メシとか、掃除とかも、全部そういうつもりだったのかよ! はあ? すっげえ裏切られた気分だわ!」(春田)
「メシとか、掃除とかも、全部そういうつもりだったのかよ!」とは、随分だ。牧に家事を丸投げしていたのは春田の方である。ずっと、牧の好意に付け込んでいた。
いや、春田の立場でものを考えないのもアンフェアだ。彼は、いわゆるノンケ。ただの同性同士のルームシェアとして、屈託なく牧を誘っただけだった。なのに、いきなりの告白。本意じゃない恋愛の形に拒否反応を示しても無理はないだろう。
「最初から可能性のない恋ってあるじゃないですか」、牧の言葉がフラッシュバックした。
田中圭はずるい
自宅へ帰った春田。冷蔵庫を開けると、温めればOKのカレーが用意されていた。ドSの「S」は、サービスの「S」でもある。
「くっそ……。超うめえ……」(春田)
春田の胃袋を完全に掴んでいる牧。いや、その意味以外でも、牧はかけがえのない存在になっていた。そして、街を駆ける春田。恋愛ドラマによくある展開なのに、妙に響く。受け入れてもらえない分、男同士の愛はより切なかった。
公園で佇む牧を、ようやく春田は発見した。
牧 可能性がないなら優しくしないでください。ルームシェアなんかするんじゃなかった。出て行きますから! 何もかも違うのに一緒に暮らすなんて無理です。
春田 でもさあ! 俺には、たぶん、何ていうか、お前が必要なんだよ!
牧 どういう意味ですか?
春田 いや……一緒にいて楽しいしさ。いや、俺、ダメなところあったら直すからさ、その……友達として? 今までみたいに普通に暮らせないのかな(泣)?
交際したい牧と、友達のままでいたい春田。2人の目指す場所はまるで違う。なのに、まだ思わせぶりなことを言う春田。友情を大事にする春田の態度は、都合が良くて残酷だ。恋愛感情がないのに、振り回し続ける春田。このままだと、牧はずっと“都合のいい男”である。
「本当……ずるいですよ、春田さん」(牧)
牧は春田に歩み寄り、キスをする。牧が唇を当てたのは、春田の唇ではなくおでこにであった。
ただ、キスをするのなら唇でもいいはず。しかし、今回のキスは初回のそれとは意味が違う。叶わない恋だから、背伸びしておでこにキスする牧。今度は拒絶せず受け入れた春田。だが……
「普通には戻れないです」(牧)
LGBTだけでなく熟年夫婦の問題にも触れるドラマ
家探しの過程で、価値観の相違が明らかになった後輩夫婦。抱えている事情は違うが、春田と牧の関係性と問題点は一緒である。
春田は、後輩夫婦の家探しにこだわり続けた。
「もう一度、一から考え直してみない? 今まで見てきたのはさ、それぞれ自分が住みたい家だったと思うんだよね。でも今度は、これから2人が一緒に暮らしていくための、2人にとって必要な条件を教えてほしい」(春田)
自分に言い聞かせてるようにしか聴こえないのだが。春田は、新たな形で牧との復縁を願っていた。
このドラマは観てて面白いのに、いつの間にか切なくなる。春田の立場も牧の立場も、どちらも切ないのだ。
第2話は、春田―牧の関係性に重きを置いた回であった。しかし、次回はわからない。今回のエンディングで、黒澤の嫁・蝶子が来社している。“ヒロインの嫁”が、いよいよ襲来! そして、遂に春田と対峙した。
「春田創一さん……ですよね? あなたにお聞きしたいことがあるの」(蝶子)
そういえば蝶子、就寝中の黒澤の寝顔を掴まえ、顔認証で勝手に夫のスマホを覗き見していた。黒澤のスマホの待ち受け画面って、春田の隠し撮り画像じゃなかったっけ……?
『おっさんずラブ』は、LGBTだけでなく、色々な愛の形を描くドラマ。熟年夫婦や幼馴染の関係性などもだ。
手始めは、今夜放送の第3話か。春田&黒澤&牧の3人だけでなく、蝶子、そして武川の存在も際立ち始めるはずである。
(寺西ジャジューカ)
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