オフィス勤務に回帰の流れ?「アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)」とは何か
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一周回って、「オフィスで仕事したほうがやっぱり捗る」?


日々、働き方改革が進む最近の企業では、時短勤務やリモートワークなど、時間や場所という制約から働く人を解放してくれるような施策が浸透しつつある。満員電車での通勤から解放されることは、日本のビジネスパーソンにとって大きな意味があるだろう。
ところが、最近の欧米では、さらにリモートワークから一周回って、働く人々を逆にオフィスに回帰させるような動きもあることをご存じだろうか。


たとえば2013年、米Yahoo!はそれまで実施していたリモートワーク制度を廃止している。その理由は「人は1人でいると生産性は上がるが、集団になった方がイノベーティブになるから」というもの。机を並べて働くことにより、コミュニケーションとコラボレーションが実現し、ちょっとした休憩や雑談からこそ、クリエイティブな革新性は生まれやすいと判断したという。

つまり、自宅やカフェではなく、オフィスこそ最も働きやすい、イノベーティブな空間にすることで、働く人をオフィスに集合させるというわけだ。
こうした先進的なオフィスを実現するものが、「アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)」というスタイルである。簡単に言うと、「場所と時間を選ばない働き方」、働き方の自由度に重きを置くことで、最も働きやすい場所と時間を提供するという考え方である。


フリーアドレスよりさらに自由な「ABW」


ABWを実践しているオフィスとは、具体的にどのようなものなのだろうか。

AWBは固定席を設けないので、フリーアドレスと似ているとも言える(フリーアドレスの進化版だという人もいる)。働く人々が、オフィスに限らず、自由に場所を選択して働けるようにすることで、よりクリエイティブな成果を促す仕組みがABWだ。

従来のデスクワークは、打ち合わせや外出時以外は、基本的に決められた自席で仕事をするのが普通だった。これに対して、フリーアドレスというのは、自席が決められておらず、どこに座るかということを自分で決めることができるようになった。さらに、ABWでは、仕事内容に合わせて、デスク以外の場所を自由に選べるようになったわけである。

今やるべき仕事を終えるために、いつ、そしてどの場所で作業するのが最も効率がいいかを自分で決める。
様々なタイプの仕事の特性に合わせて工夫されたワーキングスペースが用意されており、最適なものを自由に選んで使えるのである。

たとえば、ひとりで集中して企画書を作成したいようなときは、静かな個室で作業する。
企画案を上司に見せて意見を仰ぎたいようなときは、ファミレス風のソファテーブルで話し込む。
同僚と雑談したり、情報交換したりしながら仕事をするときは、チームが集まったテーブルで仕事をする。
昼食の後のボーッとしやすい時間や、気分転換が必要なときは、スタンディングデスクのあるエリアで立って仕事をする。
静かすぎず、ちょっと刺激のあるところで仕事がしたければ、オフィス内のカフェカウンターで、コーヒーを飲みながら仕事をする。


こんなふうに集中スペース、協業エリア、チームで働くワークテーブルと多彩な環境が整備され、フレキシブルに選べるのがABWオフィスだ。

わざわざ外に行かなくとも気分を変えられるようにと、オフィス内に様々なタイプのスペースを設けることで、働く環境の選択肢を増やしている企業もある。

ここまで読んで、まだぴんと来ない人は、昔と今では、デスクワークの内容はかなり変わってきているということを考えてみてほしい。
多くのビジネスパーソンにとって、単純作業が減り、企画や調整、営業のような調整仕事のウエイトが増えてきている傾向を感じているはずだ。1日中同じ作業を続けることは少なくなり、まるで多能工のように、企画立案や営業や調整などの打ち合わせをこなしていく実情に合わせたワークスタイルが、今求められているのだ。


社員がワクワクできるABW導入オフィス


場づくりに関するプロジェクトマネジメントとインテリアデザインなど、オフィスづくりのプロフェッショナルである株式会社ディー・サインのオフィスは、ABWの考え方に従い、カウンター席や、大型モニター付きの執務デスク、集中ブースなどのバリエーションある空間が提供されている。

ノートパソコンとモバイル通信機器が社員全員に支給され、リモートワークできるIT環境も整備されているので、オフィスにとどまらず、社外でも仕事ができるようになっているという。
その日の自分の業務内容に合わせて、オフィスのスペースを活用したり、ノマドワークしたりと使い分けて仕事を進められるのだ。

不動産サービス大手のシービーアールイー株式会社では、オフィスを移転するにあたり、働き方を綿密に調査して分析した上で、ABWオフィスの導入を決めた。
ゾーンによってデザインが異なる様々な机やカウンターなどが用意され、テレビ会議ができるミーティングラウンジや、防音の電話ブース、ハイカウンターを導入した会議室、会話禁止の集中スペース、カフェラウンジなど、じつに変化のあるオフィス空間になっている。社員がワクワクして働きたくなるオフィスと言える。

株式会社イトーキは、2020年までにやってくる『アシタのオフィス』を実現したオフィスを設け、新しいワークスタイルを社員が実践している。
このオフィスには、ABWを踏まえてイトーキが提唱する「自律性」「組織マインド」「個人の気持ち」という3つのキーワードがこめられているという。

自ら場所を選ぶ働く人自身の「自律性」、働く人たちの方向性を揃えるための「組織マインド」を重視した上で、働く人の「個人の気持ち」を大事にするという、イトーキの考え方がよくわかる空間になっている。

オフィス環境は、企業のあり方そのものを表す


ワークスタイルが自由自在ということは、働き方を自分でデザインするということを表す。
コスト効率や組織のフレキシビリティだけでなく、個人の働き方の自由度に も重きをおいたABWを導入することにより、オフィスの使われ方や、働き方は確実に変化する。たとえば健康観に対する意識なども向上するだろう。
優秀な人材を獲得するためにも、働く環境の整備は重要だ。一日の大半を過ごすオフィスをどのように構築しているかということは、その企業のあり方そのものを表しているとも言える。

ABWによるワークプレイスは、単なる働き方改革の波を越えて、今後のオフィスのあり方のスタンダードになっていくかもしれない。

(アスクル「みんなの仕事場」運営事務局)