「女は愛嬌」なんていうが、あれは嘘である。女だろうが男だろうが、クソ度胸と負けん気、そして仁義を通す気概があれば運を引きずり出すことができる。
『モリーズ・ゲーム』はタフな女の姿をテンポよく見せることで、そんなメッセージを伝えてくる。
「モリーズ・ゲーム」セレブ御用達ポーカールーム女経営者の度胸と頭脳とプライド、エグい、酷い、面白い

才女モリー、モーグル選手から女ポーカーゲーム運営者へ転身!


『モリーズ・ゲーム』の主人公、モリー・ブルームは実在の人物だ。臨床心理士の父に仕込まれた冬季オリンピック代表候補レベルのモーグル選手でありながら、政治学の修士でもあり、GPA(各科目の成績評価値)は3.9。ハーバードへの入試も余裕でパスできる成績である。モリーは文武両道の超優秀女性アスリートだった。

2002年、冬季オリンピック予選最終戦。モリーは女子モーグルで北米3位につけていた。しかし、滑走中に一本の松の枝がスキー板に接触。ジャンプ中に板が外れ、モリーは地面に叩きつけられる。ソルトレークで金メダルを獲り、ロースクールを卒業して会社を設立するというモリーの計画は完全に頓挫する。

怪我から回復したモリーはロサンゼルスで休暇を取り、人生を仕切り直すことにする。クラブのウェイトレスとして働く中、ディーンという不動産業者と知り合ったモリーは、彼の事務所で働くことに。パワハラ野郎のディーンだが、裏では非合法のポーカーゲームを運営しており、そこには錚々たるセレブが参加していた。
ポーカーゲーム運営で手に入るチップが膨大な収入となることを知ったモリーは、頭の回転の速さと話術で客にチップを払わせるテクニックを身につける。しかし、自らの立場が危うくなったことを察知したディーンは、モリーを解雇する。

しかし、モリーは顧客リストをそのまま引き抜き、自らのポーカーゲームを主催する。高級ホテルの一室を貸し切り、最高級の酒と葉巻と料理を揃え、ディーンのクラブから次々に客を吸い取るモリー。モリーのクラブの顧客リストには、実際にレオナルド・ディカプリオ、ベン・アフレック、マット・デイモンといった俳優や有名投資家、プロのポーカープレイヤーたちが名を連ねていた。しかし、ディーンのクラブから流れてきた客である"プレイヤーX"(実名が出せないのだ)とのトラブルを抱えたことでロサンゼルスに見切りをつけたモリーは、ニューヨークに拠点を移す。

しかし金回りがいいように見えるモリーも、実際の経営のコスト増加には手を焼く。アメリカの法律では店に支払われるチップを収益に当てるのは合法だが、客の掛け金から店が手数料を取るのは違法。しかし、モリーは一緒に店に出ているディーラーの勧めで、手数料を取り始める。そして、金のあるところに寄ってくるロシアンマフィアたち。きな臭くなってきたモリーの周囲に対し、FBIも目をつけ始める。

『モリーズ・ゲーム』は時系列がシャッフルされた、ちょっとややこしい構造の映画である。
モリーは実際に2012年に逮捕され、全財産を没収されているのだが、2014年にも再逮捕されている。2年の間にやったことといえば出版社から回顧録を出したことくらいで、特にポーカーには関わっていない。いきなり逮捕され、あらゆる弁護士から依頼を断られたモリーは、唯一弁護を引き受けてくれた黒人弁護士のジャフィと共に法廷闘争に打って出る。『モリーズ・ゲーム』は、この法廷もの的パートと、過去を回想するパートが交互に挟まれる形の映画だ。

複雑な構成ながら、とにかく編集のテンポがいい。モリーとジャフィによる丁々発止のやりとりや、きらびやかな空間で繰り広げられるポーカーの様子が、キビキビと割られたカットで表現される。モリーを筆頭に頭がいい人たちがキレのある編集でポンポン会話するので、なんとなく見ているだけで若干頭がよくなったような気すらする。「見てるだけで頭がよくなったみた~い」という感想のバカっぽさには目をつぶっていただきたい。

ガッツと頭脳で戦う女、国家を相手に仁義を通せるか


米国の法律上、モリーは犯罪者ということになる。が、すでに全財産を差し押さえられることで罰は受けている。なぜそんな彼女が再度逮捕されたのか? この点が『モリーズ・ゲーム』のストーリーの焦点となる。

大体、モリーの犯した罪というのは「大金持ちやセレブばかり集まるポーカールームで、手数料を取った」というだけである。
「自主的に支払われるチップを収益に当てることはOKだけど、店側が事業として金を集めるのはNG」という基準はなんとなくわかるが、モリーの事業に食い込もうとするロシアンマフィアの方がやってることはエグい。

そもそも最初にモリーを雇ったディーンもとんだパワハラ野郎だったし、"プレイヤーX"とのトラブルだってモリーは悪くない。さらに言えば、モリーの父親は娘の背骨に異常が出てもスキーをやらせるようなおっさんである。モリーは、自分の周囲に蠢く人間たちと(あくまで合法的に)戦い続けてのし上がってきた。最終的には犯罪者になってしまったが、仁義だけは通してきた女なのである。

今回頭脳と度胸とガッツで戦う女モリーを演じたジェシカ・チャスティンには、独特の説得力があった。『ゼロ・ダーク・サーティ』などでガリガリに痩せた知的な女性役の印象が強いチャスティンだが、今回はそれに加えてポーカールームの運営者の役だ。当然色っぽい格好もしなくてはならないし、それに言い寄ってくる変なおっさんもあしらわなくてはならない。胸元の大きく開いたドレスも着こなせる上、目には理性的な印象があるチャスティンは、モーグルとポーカールーム運営という巨大な挫折を2回も経験したタフな女を演じるのに打ってつけだ。

モリーがいかに仁義を通すか、そして弁護士のジャフィはどう動くのか。「毒親にケツを叩かれてウインタースポーツに精を出した女が、めちゃくちゃなトラブルに巻き込まれてひどい目に遭う」というストーリーは『アイ、トーニャ』にも一脈通じるものがあるが、モリーはトーニャより頭がよく、度胸があり、さらに協力者もいる。やっぱ、そういうところが色々結果を分けるよなあ……という気分になるので、ぜひこの2本は並べて鑑賞することをオススメしたい。

(しげる)

【作品データ】
「モリーズ・ゲーム」公式サイト
監督 アーロン・ソーキン
出演 ジェシカ・チャスティン イドリス・エルバ ケビン・コスナー マイケル・セラ ほか
5月11日よりロードショー

STORY
2014年、かつて違法なポーカーゲーム運営で逮捕されたモリー・ブルームは、再度FBIに逮捕される。罪を償ったはずの彼女が、なぜ再逮捕されたのか。モリーの過去を遡りつつ、弁護士ジャフィとともに法廷で戦うモリーの姿を描く
編集部おすすめ