5月12日に放送された『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)の第4話。今回のオープニングは前回のエンディングと地続きだ。


天空不動産の部長・黒澤武蔵(吉田鋼太郎)は、「好きな人ができた」と妻・蝶子(大塚寧々)に告白。その“好きな人”が春田創一(田中圭)と知った蝶子は「私を騙してたの?」と、怒りの導火線に着火!
この時の蝶子のテンションが素敵なのだ。夫の同性愛にドン引きせず、「浮気してたなんて許せない!」という方向で感情を爆発させる。黒澤のカミングアウトをナチュラルに受け止めた彼女の態度を見逃してほしくない。

「変なところを見せてしまって悪かった。妻とは必ず、きちんと話をするから……もう少し、待っててくれ」(武蔵)
武蔵は武蔵で、自分が自由の身になる時を待つ春田だと勘違いしている。

「これまで真面目に生きてきた俺の人生、かつてこんな修羅場に遭遇したことがあっただろうか?」(春田)
春田は同居人で後輩の牧凌太(林遣都)と、前日に主任・武川政宗(眞島秀和)を巡るゴタゴタで口論したばかり。相談をしたくでもできず、1人落ち込む一方だ。

そんな情けない先輩へ、牧はぶっきらぼうに弁当を差し出した。
「作りすぎちゃったんで、良かったら」(牧)
牧は嘘を言っている。だって、朝食のメニューと弁当の中身が全然違う。食卓へ出されたのはスクランブルエッグで、弁当に入っていたのは肉団子とウインナーと卵焼きとフルーツと野菜。
どう考えても余りの食材で出来上がるクオリティの弁当ではなく、春田を励まそうとしていることは明らかだ。
第2話で牧は武蔵に「手作り弁当なんて重いに決まってるじゃないですか」と言い放った。溢れ出る思いの強さを隠すため、ぶっきらぼうになった牧。“ドSなのに尽くす男”によるツンデレ弁当である。そんな事実に気付く春田ではなさそうだが……。
「おっさんずラブ」第3の男・眞島秀和の介入で荒れる相関図。捨てられた子犬のような林遣都に来た限界
イラスト/Morimori no moRi

傷付きながらアドバイスする林遣都


好きになった方の負け。2人の関係性が如実なシーンがもう1つある。牧とともにビラ配りする春田の前へ、蝶子が現れた。
「あなたを訴えます。あなたさえいなければ、夫は私の元から離れることはなかった。あなたが30年間の夫婦生活をいとも簡単に壊したのよ。この破壊神!」(蝶子)

あからさまにびびる春田を見かね、牧が忠告した。
「春田さんも部長に対して曖昧な態度取ってるのが良くないんですよ。
『付き合う意思はない』『恋愛対象としてまずない』って、ちゃんと言いました? はっきり言わないことは、優しさでも何でもないですよ」(牧)

第2話を思い出していただきたい。「可能性がないなら優しくしないでください」と振り切ろうとしたのに「(友だちとして)お前が必要なんだよ!」と引き止められ、生殺しにされた牧。そんな男が、おくびにも出さずアドバイスしているのだ。心の傷に塩をまぶしながら、なお忠告せずにいられない。牧の心中は察するに余りある。

「聞こえない、聞こえない!」必死に抵抗する吉田鋼太郎


幼なじみ・荒井ちず(内田理央)とその兄・鉄平(児嶋一哉)が営む「居酒屋わんだほう」は近隣一帯のタワーマンション建設に伴い、閉店することが決定。同店の閉店パーティへ、天空不動産の面々が参加した。

意を決した春田は、ここで武蔵に切り出した。
「部長にきちんとお伝えしたいことがあります。今度、時間をいただいてもよろしいですか?」
何かを察した表情を浮かべ、「わかった」と返答する武蔵。

このくだりを、春田はちずに報告した。
春田 部長にも、こないだ「話す時間をください」って言った。
ちず おっ、すごいじゃん! 春田、成長したじゃん! えらい、えらい!
春田 やっぱ、人としてちゃんと向き合わなきゃいけないんだなって思って。

おいおい。それって、牧から忠告されて気付いたことじゃないの!

何はともあれ、ようやくはっきり意思表示する時が来た。武蔵との待ち合わせ場所に赴く春田。
春田 あの……
武蔵 わあーーーーーっ! わあーーーーーっ!! 聞こえない、聞こえない、聞こえない! 聞こえない! 聞こえない! 聞こえない! うわーっ! わー!聞こえない! 聞こえなーーい!!
春田 ごめんなさい!
武蔵 あああぁぁーーーっ!!

断末魔のように「あああぁぁーーーっ!」と叫び続ける武蔵の声量の凄まじさ! さすが、蜷川幸雄からシェイクスピアを引き継いだ吉田鋼太郎のロングトーンである。しかも、絶叫中ののけぞり方は『プラトーン』のジャケットのよう。
「おっさんずラブ」第3の男・眞島秀和の介入で荒れる相関図。捨てられた子犬のような林遣都に来た限界
イラスト/Morimori no moRi

「なんで……? ダメなのは、俺が上司だから? それとも、男だから!? ねえ!?」(武蔵)
「男だから?」の問いに対する春田の返答に、ぜひ注目してほしい。
「部長。僕は部長のこと、人としても、上司としても、心から尊敬してます。僕らを強いリーダーシップで引っ張ってくれて、失敗したら全力で守ってくれて、理想の上司だと心から思っています。でも、それは恋愛感情じゃないんです。僕は部長とまた純粋な上司と部下の関係に戻りたいんです! 部長! こんな僕を好きになってくれて、ありがとうございました」(春田)
ちずに頬を張られ、「マジ、デリカシー……」と牧を呆れさせていた春田が、こんなにも誠意ある言葉を返すようになった。『おっさんずラブ』は、春田の成長物語でもある。


武蔵も凄い。彼は乙女だが、漢でもある。
「(すすり泣きを収め)……うっす! 三鷹第二地区の再開発が来月から始まる。ハハッ……忙しくなるぞぉ。頼りにしてるぞ!」(武蔵)
「純粋な上司と部下の関係に戻りたい」と春田から言われた武蔵。10年思い続けた男にふられたばかりだ。なのにスイッチを切り替え、せめて大好きな男の理想であろうとした。
「じゃあ」と去り、見えない場所に行って初めて泣き顔になる武蔵。一方、泣き続ける春田。そして、陰で見ていた蝶子も号泣している。面白いのに切ないのが『おっさんずラブ』である。

嫉妬の対象・内田理央に最上のおもてなし


新たに建設されるタワーマンション1階に入る約束だった「居酒屋わんだほう」。だが、確認するとそんな計画は存在しないことが判明。
鉄平はだまされていた。

春田 ちず、大丈夫かなあ……。
 え?
春田 こんな時に何もしてやれねえのか、俺は……。

無意識に牧を傷つける春田。この時の牧の表情は、もう泣きそうだ。……その刹那、自宅を失ったちずが春田宅へやってきた。春田と牧のルームシェアリングへ、彼女は生活の場を求めたのだ。

牧は嫉妬の対象・ちずに最高のおもてなしをする。見事な腕で絶品パスタを振る舞うのだ。
「やばい! おいしい!!」(ちず)
この時の春田のドヤ顔は、もはや顔芸。「どうだ、牧はすげえだろ!?」と言わんばかりだ。しかし、あまりにもなちずの感激に、春田の感情は微妙に変化。
独占欲がくすぐられたか、悔しげな表情でおねだりする。

春田 牧、俺も食べたい。
 あげないよ。

出た、牧のドS! 一方、パスタを前に感激するちずへ「この家、住み着くなよ!」と春田が忠告した一瞬、牧が浮かべた笑みにも注目だ。ほっこりしたリビングでの団らんに見えるが、三者三様の悲喜こもごもが実は隠れている。

デリカシーがない田中圭


「居酒屋わんだほう」を取り戻すため、牧は策を練った。
「何とかしたいんですよね。こっちもプロの意地があるんで」(牧)
さすが、本社から来たエリート。言葉の端々から察することができる、春田とはモノが違う。

春田と牧は、鉄平をだました「真堺コーポレーション」(イカサマの逆読み)へ乗り込んだ。当然、2人のネクタイは同じ柄の色違いだ。到着する直前、首を“コキッ”と捻る牧の気合が何ともカッコいい。

牧は秘策を用意していた。バンドマンである鉄平は、メロディが降りるとその場で録音するのが常。契約時の鉄平は、「タワーマンションが建ちましたら1階のテナントに入っていただくことになります」と美味しいことを言う真堺コーポレーションの声を偶然にも録音していたのだ。その音声入りレコーダーを、牧は勇ましく叩きつける。
「これでもまだ、シラを切るつもりですか?」(牧)
勝負あり! 牧の“できる男”っぷりを見た春田は「カッコいいーー!」と言わんばかりの表情だ。

店舗を取り戻した春田は、ちずに電話で報告する。当然、ちずは感激! そして、春田を見直すちず。皮肉にも、いい雰囲気になってしまう。
ちず ごめん、すぐ荷物引き揚げるから。
春田 ああ、いいよいいよ。そんな慌てなくて。気ぃ使うなって、俺とお前の仲だろ。

ちょ、マジ、デリカシー……。「俺とお前の仲だろ」の言葉を聞いた牧の表情が、一気に暗くなった。「全部、牧のおかげだけどな」と賞賛されても、虚しいだけ。近くにいてもこんなに遠いのか……。
一方、春田とちずの距離感は明らかに縮まっている。春田のために行った仕事が、自ずと牧の居場所を失くしていた。

田中圭のモノをガン見する眞島秀和


牧は“追う男”であり、“追われる男”でもある。牧を追うのは、主任・武川だ。今回のタイトルは「第3の男、襲来!」。では、第4話における“第3の男”の行動を、まとめて振り返ろう。

・勤務中、マウスを持つ春田の手に自分の手を重ね、ニヤつきながら異常な近距離でアドバイスする武川。
・トイレで小便をする春田の隣に立ち、連れションしながら春田のモノを執拗にガン見する武川。

武川が同性愛者であることに、疑う余地はない。ということは、武川の矢印も春田に向いている? いや、そうじゃない。武川は春田が「こっち側」か「あっち側」かを探るため、極端な行動に出ていただけ。

なぜ、こんな予測が立つのか? キーは、「居酒屋わんだほう」閉店パーティにおける1シーンだ。落とした箸を拾おうと春田がテーブル下に潜ると、牧の手を強く握りしめる武川の手を偶然にも目撃する。
「武川さんと牧はデキてる!?」
いや、違う。よく見ると、牧の手は武川から逃げようとしている。それをさせまいと抑え込む武川の手。“追う男”と“追われる男”の攻防が微妙にあるのだが、そんなことがわかる春田ではない。

「なに、あれ……? なんか俺、すごい動揺してんだけど……」(春田)
帰宅後、エアコンのリモコンでテレビをつけようとするほどアタフタの春田。「牧は自分のことを好き」と確信していたら、予想外の爆弾を投げ込まれた状況だ。
「なんで胸がざわついてんだ、俺……?」(春田)

社内を闊歩する牧へ、声を掛ける武川。このシーンは、武川の存在感をより決定的なものにした。
武川 牧。お前は今、不毛な恋愛に足を突っ込んでる。そう思わないか? 完全にお前の片思いなんだろ?
 はい。
武川 「あっち側」の人間を好きになっても、幸せになることは絶対にない。
 わかってます! そんなこと、俺が一番わかってます。
武川 俺なら、あいつと違ってお前を傷つけたりやしない。
 ……ですね。

牧の切ない思いが存分に込められた「ですね」。傷つくのはわかっているけど、春田への感情は止まらない。「こっち側」の人間・武川からの助言に一礼をし、牧はその場を去った。

限界が来た林遣都


武川の参戦は、図らずも春田と牧の関係に変化を起こした。春田家に転がり込んだちずと春田の会話が、牧の耳にたまたま届いてしまったのだ。
「牧さ、武川さんと手ぇ繋いでた。こないだのわんだほうの閉店パーティの時に、たまたまテーブルの下見ちゃったんだけど、そしたら牧と武川さんがギューって。盛大な勘違いでした!」(春田)

なんで! 「本気で好きなんですよ!」というストレートな告白を、牧はしたはずなのに。キスだってしてるし!! 今までの全力アピールの甲斐もなく、牧の恋心は勘違いで済まされてしまった。
加えて、ちずが「良かったじゃん。一安心だね」と返したのもまずかった。「春田の中で、自分の存在が急スピードで失われていく」。捨てられた子犬のように目を泳がせて春田とちずのいるリビングをスルー、牧は2階へ上がっていった。

そして、遂に牧に限界が来た。
 俺、出ていきますね。武川さんのとこ、お世話になろうと思って。
春田 なんで、武川さんなんだよ!
 元彼なんですよ。春田さんはちずさんと幸せになってください。

武川との交際歴は、牧にとって明かしたくない事実だったはず。春田はノンケであり、男同士の恋愛に未だ抵抗がある。過去の男性遍歴を知れば、ドン引きする可能性がある。
しかし、牧はあえて口にした。そして、「ちずさんと幸せになってください」と付け加えた。「あっち側」の人間・春田の幸せを願い、身を引こうとしたのだ。

整合性のある牧と違い、春田はワケがわからない。ちずに思わせぶりな態度を取り、あわよくばのノリで「一緒に寝る~?」とアプローチしておきながら、牧への嫉妬も露わにする。振り回された牧がヤケクソになるのも当然だ。

いや、ここは一つ、春田の立場にも立ってみようじゃないか。物凄く好意的に物事を考えてみたい。男同士の恋愛経験がない春田は、牧への思いに無自覚である。頭で理解できる感情がちずへの矢印となり、理解不能の感情は牧への嫉妬に表れた。自分で自分がわからないのだから、ワケのわからぬ言動になっても仕方ない。超好意的に考えれば、そういうことになる。

第4話のエンディングは衝撃だった。出ていこうとする牧を追いかけ、風呂上がりの春田が「行くなって!」と、裸のままバックハグ。
 えっ……?
春田 あれ……?

春田の行動を、春田も牧も理解できていない。そこへ、タイミング良く(悪く?)ちずが帰宅。こうして、絵に描いたような修羅場が出現した。
「神様。俺は一体、どうしてしまったんでしょうか……?」(春田)


筆者はノンケだが、『おっさんずラブ』の登場人物全員に共感することができる。思いを寄せられるも、応えられない春田。叶わぬ恋と理解しながら、激情に苦しむ武蔵と牧。愛する人の心が自分にはないと苦しむ蝶子。もちろん、武川の嫉妬もちずのときめきも経験済みだ。きっと、多くの視聴者も同様だろう。
このドラマにはヒールがいない理由は、それだ。みんなを応援できてしまう。

しかし、次回以降はわからない。異性愛者の視野を広げるフェーズへ入る予感がする。即ち、春田&牧の新展開の予感。未知の感情に戸惑い、向き合う春田の新境地。全7話と言われている『おっさんずラブ』にふさわしい折り返し地点ではないだろうか?
色々な意味で、今晩放送第5話への期待値は大きい。
(寺西ジャジューカ)


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