「目に見えるものが真実とは限らない。あなたの子どもは本当にあなたの子どもなのか? あなたの親は本当にあなたの親なのか? 家族の思い出は真実なのか? コンフィデンスマンの世界へ……おやすみなさい(ムニャムニャ)」

長澤まさみ主演、古沢良太脚本の月9ドラマ/『コンフィデンスマンJP』
奔放なダー子(長澤まさみ)、お人好しのボクちゃん(東出昌大)、変装の名人・リチャード(小日向文世)の3人の“コンフィデンスマン(信用詐欺師)”が悪党から大金を騙し取る。

第7話「家族編」は番外編のような感触のエピソードだったが、これが非常に味わい深い傑作だった。視聴率はやや回復して8.9%。
「コンフィデンスマンJP」はカンヌパルムドール受賞「万引き家族」と同じテーマか。傑作7話「家族編」
イラスト/まつもとりえこ

今回のターゲットは資産10億の老ヤクザ


今回のターゲットは資産家の与論要造(竜雷太)。余命いくばくもない好々爺に見えるが、若い頃は金儲けと女にしか興味がない経済ヤクザで、莫大な富を築き上げた。その資産はざっと10億!

ダー子は要造の末娘、理花(佐津川愛美)に扮して与論家に潜り込む。リチャードと偶然知り合った理花はスリに手を染めるなど荒れた暮らしをしていたが、幼い頃から血のつながらない義母と義兄、義姉にいじめ抜かれていたため、すでに10年以上実家には出入りしていなかった。

与論家には兄の祐弥(岡田義徳)と弥栄(『モンテ・クリスト伯』の桜井ユキ)、そしてお手伝いの聡子(阿南敦子)がいた。祐弥と弥栄は猜疑心丸出しでダー子扮する理花と要造のDNA鑑定を行うが、五十嵐(小手伸也)が医者に化けていてセーフ。

ダー子は自分を振った婚約者として、造り酒屋の跡取り息子・圭一に扮したボクちゃんを呼び寄せる。要造は鉄拳制裁を一発お見舞いするも、親子の盃をかわして圭一を迎え入れた。要造、祐弥、弥栄、理花、圭一の5人が家族として暮らすことになる。

決戦! 詐欺師VS詐欺師


ここでダー子も驚く真相が発覚する。リチャードが5人の団らんの映像を獄中の理花に見せたところ、祐弥と弥栄が偽物だと指摘したのだ。
2人の正体は「巣鴨のキンタとギンコ」という詐欺師で、遺産を得るため、祐弥と弥栄に化けて半年前から要造と同居していたのだ。同時にキンタとギンコもダー子とボクちゃんの正体に気づいていた。ニセモノVSニセモノ、どっちが要造に気に入られるかという戦いの火蓋が切って落とされる!

先手を取ったのはキンタとギンコ。児童劇団から雇った子役を孫に仕立て上げてきた。子役を演じたのは月9ドラマ『民衆の敵』で篠原涼子の息子役を演じた鳥越壮真くんという手の込みようだ。対抗するダー子とボクちゃんはついに結婚式を挙げる! 「ガッキーだったらな……」とため息をつくボクちゃんに「それを言うかね」と真顔で突っ込むダー子がおかしい。

そしてついにお互いに取っ組み合いを始めるダー子&ボクちゃんとキンタ&ギンコ。それを見た要造が「兄弟ゲンカはやめろ!」と一喝! 遺産目当てはかまわないが、家族なら最後まで家族らしく振るまえ、と4人を叱り飛ばすが、その直後に要造は倒れてしまう。要造は一命をとりとめるが、それ以降、5人は家族らしく毎日を過ごしていく。お互いの名前を呼びあいながら囲む食卓の自然なことといったら。

中尾明慶と前田敦子がサプライズ登場!


しかし、ここでダー子の仕掛けが炸裂! 本物の祐弥(中尾明慶)と弥栄(前田敦子)を探し出し、キンタとギンコに引き合わせる。そして、2人から衝撃の事実が告げられる。要造には10億の資産などないというのだ。
「孤独な老人の虚言……」とは弥栄の言葉。

彼らが言う番号のとおりに金庫を開けてみると、入っていたのは女性のエロ写真ばかり……。怒ったキンタとギンコはさっさと撤退してしまう。ダー子も撤退するが、ボクちゃんだけは要造のために家にとどまることにする。

そして月日が流れ、要造は亡くなった。要造は最期まで一緒にいてくれた圭一(ボクちゃん)に10億円分の証券を渡すと遺言を残し、金庫の番号を渡す。ん? 金庫の番号? そして金庫が開くと……そこにはエロ写真じゃなく、本当に10億円分の証券!

そもそも本物の祐弥と弥栄がダー子の仕込みで、金庫は全員が出かけた後、五十嵐がこっそりニセモノとすり替えてあったのだ。もちろん、ボクちゃんも一緒に騙されていたというわけ。

と、従来の『コンフィデンスマンJP』ならこれで終わりだが、今回はちょっと違った。ボクちゃんがお金を配分する権利を主張し、キンタとギンコにもお金を渡したのだ。なぜって? それはきっと一緒に時間を過ごした“家族”だったから。お手伝いの聡子もまじえた5人は、要造の位牌とともに、彼が楽しみにしていた花火大会に出かける。
要造が最期に棺に入れたのは、ダー子たちと一緒に撮った“本当の家族”の写真だった。

『万引き家族』との共通点


2人っきりになったときのダー子とボクちゃんの会話が意味深だった。ダー子は諭すようにボクちゃんにこう言う。

「あのね、ボクちゃん。家族だからわかりあえるなんて、おとぎ話。親殺し、子殺しは太古の昔から続いてる。家族なんて幻想なの。ボクちゃんだって身にしみて知ってるはずでしょ? 世の中にはろくでもない親がいくらでもいるってさ」

ダー子の話を聞いているときのボクちゃんの横顔が苦渋に満ちていた。別のシーンではダー子が「わかんないわよ、家族いたことないんだから、私たち!」と言っている。背景が明かされていないダー子とボクちゃんだが、家族には苦い思い出がありそうだ。

キンタとギンコも養護施設育ちで家族の顔を知らなかった。だけど、ヤクザと4人の詐欺師は家族として暮らし、最後はボクちゃんしか残らなかったが、要造は安らかに死んでいった。


家族は血縁がすべてじゃない。血縁がなくたって家族のようにお互いを支え合う人間関係を作ることができる――というテーマは、坂元裕二脚本『カルテット』『anone』、宮藤官九郎脚本『監獄のお姫さま』などにも通底している。先日、カンヌ映画祭で最高賞パルムドールを受賞した是枝裕和監督の映画『万引き家族』も同じテーマを扱っていた。インタビューで「このところ、政権が『伝統的家族観』を盛んに打ち出してきますが」と問われた是枝監督は「余計なお世話だよ」と答えている。こうやって振り返ると、ダー子のオープニングの口上は『万引き家族』について語っているようにも見えるから不思議だ(観た人ならわかると思う)。

皮肉めいたオチを用意することが多い古沢良太脚本だが、今回はとても素直なラストだった。ただ、このラストが「家族とは血縁」という価値観にとらわれている人にとっては皮肉めいたカウンターになるのかもしれない。

「家族なんて幻想」と言うダー子だが、ボクちゃん、リチャード、五十嵐、執事のバトラーとの暮らしはとても楽しそうだ。ピンチになれば、(文句を言いながら)ボクちゃんは駆けつけてくれるし、リチャードだって頼りになる。血縁なんかなくたって、楽しい“家族”は築くことができるのだろう。

次のターゲットは“美のカリスマ”りょう。ダー子たちはどんな仕掛けを見せてくれるのか? 今夜9時から。

(大山くまお)
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