アメリカ全土でスポーツ賭博が解禁へ 経済効果への期待と不正行為への懸念

アメリカのミレニアル世代が「新しい情報をアップデートする」という意味で使う「Woke」をタイトルの一部に組み込んだ本コラムでは、ミレニアル世代に知ってもらいたいこと、議論してもらいたいことなどをテーマに選び、国内外の様々なニュースを紹介する。14日にアメリカの連邦最高裁判所は、ラスベガスのあるネバダ州のみスポーツ賭博を合法とするという1992年の制定を違憲と判断。
これにより、アメリカ全土でスポーツ賭博が法的には可能となったが、スポーツ賭博の導入は各州や競技団体が判断することになる。スポーツ賭博の合法化によって莫大な税収を期待する州もある一方、八百長の発生やアスリートの禁止薬物使用の増加といった問題も懸念されている。スポーツ賭博の全面解禁は、アメリカスポーツ界にどのような影響を与えるのか?

米連邦最高裁がスポーツ賭博を認める判決
各州にとって、新たな財源となり得るのか


アメリカ全土でスポーツ賭博が解禁へ 経済効果への期待と不正行為への懸念

アメリカ国内におけるスポーツ賭博をめぐる規制は時代とともに変化してきたが、1992年に施行された法律によって、カジノ産業が盛んなラスベガスのあるネバダ州以外でのスポーツ賭博が禁止されたのだ。これは「プロアマスポーツ保護法」と呼ばれるもので、試合を賭けの対象にしないことでスポーツのクリーンさを維持する目的で作られたのだが、カジノ産業の力が強いネバダ州のみに例外が設けられたため、他州からは「不公平ではないか」という指摘が相次いでいた。

しかし、ネバダ州だけが優遇されてきた法律に噛みついたのが、ニューヨークの隣にあるニュージャージー州であった。ニュージャージー州はカジノと競馬場で、スポーツの試合予想を賭けることについて合法化したいという意向を何年にもわたって示しており、連邦最高裁判所に対して、「プロアマスポーツ保護法」の無効を求めてきたのだ。

連邦最高裁は14日、1992年から続く法律を無効とする決定を下した。これにより、ニュージャージー州だけではなく、アメリカ全土でスポーツ賭博が事実上解禁となったのだが、合法化に関しては各州が独自の法案を通して決定していくことになる。ネバダ州ではすでに認められているスポーツ賭博だが、実はニュージャージー州を含む5州ですでに法案は通過しており、ニュージャージー、ペンシルバニア、デラウェア、ウエストバージニア、ミシシッピーでも今年中にスポーツ賭博が解禁される公算が強い。また、法案はすでに14州で提出されており、これらの州でも法案が通過した場合、約20州でスポーツ賭博が解禁される。

今後の展開を注視する州が多いのも事実だが、スポーツ賭博解禁における経済的なメリットは、多くの州にとって魅力的なものだ。アメリカでは非合法なスポーツ賭博で、1年の間に16兆円程度のカネが動いているという報告もあり、合法化することによって、それぞれの州で新たな雇用が生まれ、莫大な税収も期待できる。ある意味で大麻の合法化と事情は酷似しているが、これまで非合法であったものを合法とすることで、税収減に悩む州は新たな財源を確保することができる。
16兆円ともされる違法スポーツ賭博の市場規模だが、実際には規模はそれほど大きくないという意見もあり、州政府にとっても解禁してみないと判断のしようがない部分もあるが、税収が増えることは間違いないだろう。

古くから存在する八百長と賭博の関係
第二の「ブラックソックス事件」発生の懸念も


アメリカンスポーツの歴史に目を向けてみると、スポーツ賭博絡みの八百長事件が世間を大きく騒がせた事例はいくつも存在し、現在でもスポーツ賭博が八百長行為を助長すると懸念する人は少なくない。もっとも有名な八百長事件といえば、1919年のワールドシリーズで発生した「ブラックソックス事件」だろう。

この年のワールドシリーズに進出したのは、シカゴ・ホワイトソックスとシンシナティ・レッズだった。ホワイトソックスはレッズに敗れるが、ワールドシリーズ終了後にホワイトソックスの主力選手が野球賭博を仕切っていたギャングから賄賂をもらい、八百長行為に加担していたことが発覚。すでに人気スポーツとなっていた野球で賭博絡みの八百長行為が行われたことは、アメリカ社会を揺るがす大事件へと発展し、ホワイトソックスの主力選手8名が八百長に加担したとして、球界から追放されている。

この八百長スキャンダルの背景として、当時のホワイトソックスが他チームと比べて選手の給与などを低く抑えていたことなどが挙げられており、少しでも収入を増やしたかった選手が誘惑に負けてしまったとされている。八百長に直接関与した選手が8名、八百長の存在を知りながら球団に報告しなかった選手が1名、合計8名の選手が球界追放処分を受けたが、実際には他の選手も関与していたという説を信じる野球ファンは少なくない。皮肉にも、この事件による社会の動揺を抑えるために誕生したのが、メジャーリーグ機構で絶対的な力を持つ「コミッショナー」であった。

ブラックソックス事件以降も、アメリカでは大きなスキャンダルが続いた。メジャーリーグ史上最も多くのヒットを打ったことで知られるピート・ローズは、監督時代の1989年に連日野球賭博に関与していたことが発覚。のちに自らのチームも駆けの対象にしていたことが判明している。
賭博への関与が発覚して間もなく、メジャーリーグ機構はローズの永久追放を決定。ローズは2004年にテレビのインタビューで謝罪したものの、復権は認められておらず、メジャー史上最多安打数の記録保持者であるローズは野球殿堂入りも認められていない。

野球以外にも、バスケットボールやテニス、ラグビーやクリケット、サッカーといった様々な競技で、賭博に関係した八百長事件が世界中で発生している。賭博に関与するのは選手だけではなく、審判というケースも。アメリカにおけるスポーツ賭博の解禁では、雇用や税収といった面における旨味がよりクローズアップされているが、自治体や競技団体は八百長を含む不正行為の防止にどう向き合っていくのだろうか。
(仲野博文)
編集部おすすめ