何から書いていいのか、まだ整理がついていないのだが。5月26日放送『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)の第6話。


とにかく、何が起こったのか一つずつを振り返っていきたい。
「おっさんずラブ」恋人の母親と会い別れを決意した号泣の牧…最終回は自分の幸せをつかみに行ってくれ
イラスト/Morimori no moRi

元夫の作戦参謀につく男前な大塚寧々


前回のエンディングで牧凌太(林遣都)との交際をカミングアウトした春田創一(田中圭)。しかし、牧は「俺、ちょっと意味がわからないです」と、よそよそしい態度でその場を離れてしまう。

帰宅後、牧に真意を問いただす春田。
「あえて、みんなの前で晒さなくてもなって……」(牧)
そう言いながら、食卓に並んだのはから揚げだ。春田の大好物。牧よ、内心は嬉しかったんじゃないのか?

この交際宣言は、黒澤武蔵(吉田鋼太郎)のハートに火を点けている。自分がフラれた理由が「男だから」ではなかったと知り、恋心が再燃したのだ。離婚した元妻・蝶子(大塚寧々)が荷造りしているのに、そわそわして武蔵はそれどころじゃない。見かねた蝶子は男気を見せた。
「作戦立てるわよ。まず、あなたのストロングポイントは何? 強みよ、あなたの強み!」(蝶子)

武蔵vs牧のキャットファイト(第2話)では“春田の悪いところ言い合い勝負”が行われたが、今回は武蔵&蝶子連合による“武蔵のいいところ言い合い”だ。「行動力」「包容力」「経済力」と元夫の長所を書き出していく蝶子。
妙に、その字が男らしいのが笑う。『おっさんずラブ』登場人物で、一番男前なのは蝶子だ。
「最後は、『情熱』。あなたの思いの丈をぶつけてやるのよ!」(蝶子)
別れた男のストロングポイントを嬉々として挙げる彼女。いや、もう、本当、いい女過ぎて。

蝶子から策を授かった武蔵は、春田へのアプローチを再開した。りんごを見ずに完璧に皮剥きして「家庭的」をアピールするわ、2人でバスタブに入り「大人の色気」をアピールするわ。しまいには、こんなことを言い出した。
「二番目の男でいいです。待ってます」(武蔵)
仕事ができ、ダンディでスペックの高い武蔵。本来であれば女性に困らない資質があるはずなのに、自ら二番目を提案するなりふり構わなさ。
「いえいえ。
部長、部長、ダメです! 待たれても困ります!」(春田)
かつての春田は、NOを武蔵になかなか言えなかった。でも、今はちゃんと拒否できてる。牧との出会いが彼を成長させていた。

でも、あきらめない武蔵。
「なんで、牧は良くて俺はダメなのかなって。相手が牧なんだもん。男なんだもん。そんなの……そりゃ火点いちゃうでしょ!」(武蔵)
春田を家まで送り届けた武蔵は、車のブレーキランプを5回点滅させた。「未来予想図II」のアレだ。

春田 サ・ヨ・ウ・ナ・ラ!
武蔵 「ア・イ・シ・テ・ル」だよ!
春田 ……。

残念ながら、伝わらなかった模様。春田はドリカム世代じゃなかった。
どうやら、この策は蝶子が授けたものらしい。
「どういうこと? もう~ショックだなあ」(蝶子)
心強い作戦参謀ではあるものの、たまにアプローチの仕方が古いのが玉にキズだ。

自分の幸せを望まない元恋人を心配する眞島秀和


風邪で会社を休んだ牧に会うため、武川政宗(眞島秀和)が春田宅へやって来た。困惑する牧の首を抱え、おでことおでこで無理やり牧の熱を測ろうとする武川。
「やっ、やめろよ、政宗!」(牧)
反射的に牧は武川を突き飛ばした。この元彼は、何が目的でここへ来たというのか?

武川 (春田の交際宣言を)なんで否定したんだ? お前ら、付き合ってるんだろ?
 ……このまま本当に付き合って、春田さんは本当に幸せなのかなって思って。
武川 ハッ! なんだ、それ。……自分の幸せより、相手の幸せか。
 ……。
武川 じゃあな。お大事に。

武川は、未練がましくちょっかいを出しにきたわけじゃなかった。自分の幸せを優先しない元恋人を心配し、わざわざ牧の後押しをしに来ただけ。
こうして、武川は牧から手を引いた。

熱が引き、買い出しに出た牧は荒井ちず(内田理央)とたまたま遭遇。病み上がりで夕食を作る牧をちずが褒めるも、牧は「俺なんて欠陥だらけですから」と返答。今までの人生、そして春田との恋愛を通じ、無意識に「欠陥だらけ」と卑下しているのかもしれない。

そんな牧に、ちずは申し出た。
「私……春田に告白してもいい? 2人が付き合ってることは知ってるし、それを邪魔するつもりはないから、全然。……ただの自己満! 自分がすっきりしたいだけなんだ。それ以上、何かを望んだりすることないから」(ちず)

牧は動揺した。当然だ。元々、春田は異性愛者。ちずを意識していたこともある。当人はすっきりしたいだけでも、牧にすれば脅威でしかない。
でも、やはり牧は我慢した。
「……はい! 俺は大丈夫ですよ、全然」(牧)
ちずの告白で春田が揺らいだら、牧はどうするのか? ちずの後ろ姿を見る牧の顔は、今にも泣きそうだ。

牧の個性を尊重する母と妹が心強い


春田が帰宅すると、冷蔵庫には牧の好きな「みかんゼリー」が大量に入っていた。異常な大人買いを不審に思う春田の口を、牧は強引なキスでふさぐ。
春田 ちょちょちょ……おい! な、な、な、なんだよ!?
 なんか、もう、うるせえなと思って。

牧のドSキスが炸裂! でも、ドSの割に何だか不安そう。心配を吹き飛ばすため、牧は提案した。
 次の休み、うちの親に会ってくれませんか?
春田 急だな!! でもさ、急にこんなのが行ってさ、ご両親腰抜かしたりしないかな?
 大丈夫ですよ。別に、春田さんが初めてなわけじゃないし。
春田 ……はぁ~い。

露骨に嫉妬する春田の表情が、また! それを見て、喜びが思いっきり滲み出ちゃってる牧の顔と言ったら!! 過去の男遍歴を匂わせ、春田を妬かせたくて仕方なかった牧。要するに、ただ2人がイチャイチャしているシーンである。

数日後、牧の実家へ行くと父親は激怒。

「なんだ、このふにゃ~っとした男は! っていうか、なんで男なんだ!」
牧が同性愛者だと、お父さんはこの時まで知らなかったらしい……。

でも、他の家族は知ってそう。春田を前に、妹のそら(安倍乙)が口を開いた。
「今度は本気なんだね。だって、お父さんがうちにいる時に連れてきたの初めてじゃん」
そうか、武川もあのお父さんには会ったことがないのか……。

そらも、母親の志乃(生田智子)も、牧の個性をナチュラルに受け入れている。父が拒否反応を示しても、母と妹がいれば安心。だから、牧は堂々と家族に春田を紹介することができた。2人は、牧にとって強い味方だ。今までの人生、父のような反応を見せる人は周囲に多かったはずである。

帰路で、春田は驚きを隠さなかった。
「っつうかさ、牧の作るメシと全く同じ味するからびっくりしたんだけど」(春田)
小さい時から恋愛対象は男性だった牧。それに気付いたお母さんは、家事全般ができる大人に牧を育てたのかもしれない。だから、お母さんと同じ味の料理を作るようになった。から揚げから、牧を理解する母の気持ちが透けて見える。

それにしても、そらちゃんが妙に可愛い。この妹、春田のタイプ(ロリ巨乳)そのままの子だ。
「そらちゃん、可愛かったなぁ。(胸のふくらみを手付きで表現しながら)だって、こんな……。俺、本当に好きになっちゃうかもしれない」(春田)
牧と交際中の春田だが、完全な同性愛者になったわけじゃない。春田のセクシャリティは明確にされてない。どこへ矢印が向くのかわからないのが春田。そらにうっとりする彼氏の膝に、牧は思いっきり蹴りを入れた。
「本当油断ならない、この人!」(牧)
はるたん、マジ、デリカシー……。そう、春田は油断ならない男だ。だから、牧は揺れ続ける。

“息子の友だち”として大歓迎され、傷つく牧


ちずから春田へ誘いの電話が掛かった。察して1人で帰宅する牧の眼前に、春田の母親が現れた。2人は初対面だ。お母さんは牧のことを何も知らない。ただの、息子の友だちだと思ってる。息子を心配する母親は、何の悪気もなく春田への思いを口にする。
「私だっていつまで元気でいられるかわからないし、孫の顔だって見たいじゃない?」
「早く、ちずちゃんとくっついてくれたらいいのに! あの子ね、小さい頃からず~っと『ちず、ちず!』って言ってたのよ」

春田がちずに呼び出され、ただでさえ不安な牧。追撃のように、恋人の母親からつらい悩みを打ち明けられた。繰り返すが、お母さんの方に悪気は全くない。家族にとって、春田は一人息子。孫を待ち望む親の期待が、春田へ集中するのは当然である。
「牧くんだっけ? あなたがいたら安心だわ! ずーっと、創一の友だちでいてね!」
恋人の母親に“息子の友だち”として認識された牧。お母さんは、友だちとして自分を大歓迎してくれている。帰り際に放たれた「友だち」のダメ押しで、遂に牧は傷だらけになった。

春田の幸せを優先し、号泣する牧


牧はお母さんが忘れたスカーフを見つけ、追うために家を出た。そして、春田とちずの姿を見つけてしまう。予告どおり、ちずは思いを伝えていた。
「好き。春田のことが好きなんだってば! なんだろう、本当、全っ然タイプじゃないし、どっちかっていうと嫌いって思うことも多いんだけど……。好きだったみたい。でも、別に付き合ってほしいとか、そういうんじゃないから。単に、言いたかっただけ」(ちず)

ちずは、春田と牧の関係を壊そうとしていなかった。
「はい、おしまい! 鈍感ボーイはさっさと愛の巣に帰って。牧君、待ってるよ。じゃあね」(ちず)
ちずの泣き顔を見た春田は、思わず抱きしめてしまう。その様子を、遠くから牧が見ている。ライバルが女性というだけで、牧には敗北感がある。

春田が帰宅すると、牧は怒っていた。理由は話せない。だから、洗濯の色分けや入浴後の換気など別のことで憤っていると取り繕う。牧は春田との仲を現状維持させたいのだ。
「あと、生ゴミは火曜日なんで! ……まあ、いいや」(牧)
言いかけて、牧は本音に蓋をした。
「なんだよ! 言ってくんなきゃわかんねえよ!」(春田)
怒っている理由を、牧は言わない。でも、本音がこぼれ落ちた。
「結局……幸せじゃないんですよ、俺。春田さんと一緒にいても苦しいことばっかりです。ずっと……苦しいです。……別れましょう(泣)」

武川の言う通り、牧は自分の幸せ以上に相手の幸せを優先させてきた。恋は成就したが、幸せじゃなかった。牧はいつも不安だ。春田は女性が好きかもしれないし、自分は子どもを産むことができないし、春田の家族にも申し訳ない。牧は、また相手の幸せを優先させようとしている。春田を大事に思うあまり、牧は別れを切り出した。

今さっき、春田はちずを抱きしめていた。牧はそれを見ていた。でも、誤解だと思う。ちずにしても、牧と交際する春田への矢印は“叶わない恋”だ。そんな幼なじみの泣き顔を見て、春田は思わず抱擁したのだ。
「じゃあさ、俺さ……、俺これから家事も手伝うしさ、いつか牧のお父さんに認めてもらうように努力するから! ねえ(泣)」(春田)
ちずへ心移りしているなら、泣いてすがりなんかしない。

「(首を振って)忘れてください、俺のことなんか。俺のことなんて、忘れてください! 俺は……春田さんのことなんか好きじゃない(泣)」(牧)
好きじゃなかったら、涙なんて出るわけないだろう。好きだからこそ、牧は「好きじゃない」と言っている。

もう、牧は“自分の幸せ”を優先するべき


第5話で後輩のマロ(金子大地)が言った通り、春田は超鈍感な男。牧が身を引いた理由が、春田には全く伝わっていない。
1年後、春田の同棲相手はなんと武蔵に替わっていた。春田に女性との恋愛を成就してもらうため、牧は身を引いたのに! 改めて“どこに矢印が向くのかわからない男”春田の浮雲っぷりが浮き彫りになる。「ちょっと待ったー!」のねるとん世代・武蔵による大どんでん返し! 蝶子のサポートって、よほど優秀なんだな……。

今夜、このドラマは最終回を迎える。副音声によると、第6話以上の波乱が待ち受けているらしい。

ここで、整理したい。武蔵はなぜ、春田への恋心を再燃させた? それは、相手が牧だったからだ。
「相手が牧なんだもん。男なんだもん。そんなの……そりゃ火点いちゃうでしょ!」(武蔵)
せっかく牧が身を引いたのに、春田の新しい相手は武蔵だった。現在の牧とかつての武蔵は、立場が一緒だ。
「男なんだもん。そりゃ、牧に火点いてもおかしくないでしょ!」
そんな、牧の大逆襲が容易に想像できてしまう。

言いたいことは、もう1つある。エンディングの次回予告で、結婚式の映像が流れた。ヴァージンロードを並んで歩く春田と武蔵。これ、2人が新郎と新婦だとは限らないはずだ。父親とともに新婦が新郎の待つ所へ進む場面も、結婚式にある。どこの映像が切り取られ、予告に使われた? それは不明だ。何がどうなるか、現時点では全くわからないということ。

もしも牧が逆転するならば、進む道は一つしかない。相手の幸せばかりじゃなく、自分の幸せを望む。そして、つかみに行く。武蔵や牧との出会いで春田は変わったし、武蔵も変わった。牧だって、絶対に変われるはずだ。

『おっさんずラブ』は、春田の成長を見守るドラマだとばかり思っていた。違ったらしい。『おっさんずラブ』は、牧凌太の成長物語でもある。
(寺西ジャジューカ)

●アマゾンプライムにて配信中
●U-NEXTにて配信中
編集部おすすめ