史上最もデタラメでちゃらんぽらんなヒーロー(かどうかも怪しい)、堂々帰還! 『デッドプール2』は、前作同様のハチャメチャさ加減と意外に真面目なストーリーの作りが相まって、もはや安定の域に達している。
帰ってきたクソ無責任ヒーロー「デッドプール2」破滅的ギャグと真面目な作劇の狭間

マーベル随一のお喋りクソ野郎、デッドプール


今となってはマーベルユニバース屈指の人気者となったデッドプール。名前と、あのスパイダーマンもどきみたいな赤いコスチュームはなんとなくわかる……という人も多いのではないだろうか。
もともとは1991年にX-MEN系のタイトルである『ニュー・ミュータンツ』でデビューしたのでX-MENとは馴染みが深いが、コミックでは作品タイトルを飛び越えた大活躍を見せている。

前作の映画版『デッドプール』とコミックのデッドプールでは若干設定が違うものの、「末期ガンに侵された元特殊部隊員の傭兵がヒーリング・ファクターの実験で驚異的な治癒能力を得たものの、全身の皮膚が爛れると同時に頭がおかしくなってしまい、ハイテンションでハタ迷惑な自称ヒーローになった」という部分は共通。デッドプール最大の特徴は第四の壁を無視できるという点で、コミックでも映画でも観客に向かって話しかけてくるのである(つまり、コミックや映画の登場人物としては気が狂っている)。そういうヒーローだから劇中でもメタ的なネタが使い放題。まるで『不良番長』シリーズの山城新伍を不死身にしたようなヒーローが、デッドプールなのだ。

前述のようにX-MEN系のタイトルでデビューしたキャラクターなので、映画版もX-MENシリーズの一環として制作されている。が、X-MEN主要メンバーの中で『デッドプール』に登場するのは全身を鋼鉄化できる筋肉モリモリの巨人コロッサスくらいなので、ブライアン・シンガー版X-MENを見直すようなことはしなくても大丈夫。『デッドプール』シリーズを見る前に押さえておいた方がいい設定は「この世界ではミュータントと呼ばれる特殊能力を持って産まれた人たちがおり、その人たちは差別されがちなので、X-MENは"恵まれし子らの学園"という学校を作ってそういうミュータントたちを保護している」という程度で充分だ。

新レギュラーの未来戦士ケーブル、デッドプールの前に立ちはだかる


前作『デッドプール』で不死身の傭兵となり、恋人ヴァネッサと結ばれたデッドプール。半ば悪ふざけのように世界各地で犯罪者やマフィアを狩りまくり、ヴァネッサとは婚約。順風満帆の生活を送っていた。しかし2人の家にデッドプールを恨んだギャングたちが突入! ヴァネッサは射殺されてしまう。自暴自棄になり、不死身でありながら自殺を試みるデッドプール。
しかし、バラバラ死体(死んでないけど)になったところをX-MENのコロッサスに救われる。

コロッサスに説得され、X-MEN見習いとしてチームに加わったデッドプール。初仕事はミュータント用孤児院で暴れる、手から炎を放つミュータントの少年ラッセルを取り押さえることだった。しかし孤児院で虐待が行われていることを知ったデッドプールは勢いで孤児院の職員を射殺してしまい、ラッセルとともにミュータント専用の刑務所"アイスボックス"に放り込まれてしまう。

アイスボックスに収監されたデッドプールとラッセル。その前に現れたのは、機械の左腕を持つ未来から来た戦士、ケーブルだった。ラッセルを殺そうとするケーブルと、とりあえずラッセルを守るためケーブルと戦うデッドプール。だがデッドプールは敗北してしまう。ラッセルをケーブルから守ることを決断したデッドプールは、自前の"最強鬼やばチーム"を結成してケーブルと対決するべく、ミュータントのリクルートを開始する。

ケーブルもコミックのX-MENシリーズに登場するミュータントで、90年代のアメコミを代表するキャラクターだ。元はと言えば目からビームを放つX-MENのミュータントであるサイクロップスの息子で、タイムスリップし成長して壮年となった姿で未来から戻ってきたという、マーベル屈指の強キャラである。が、『デッドプール2』ではそのへんの設定はざっくりカット。
ターミネーターのようなおっさんとなっている。元々コミックでもデッドプールとは絡みがあり、堅物のケーブルと終始ふざけ倒すデッドプールのコンビは根強い人気があった。今回の『デッドプール2』にケーブルが登場するというのも、ある意味当然というわけである。

で、このケーブルを筆頭に、90年代にちょっとでもX-MENシリーズを読んでいた人間なら感涙もののヒーローたちがぞろぞろ登場する。「ケーブルが出てくる」という情報しか知らなかったので、これは嬉しい誤算。こういう客いじりができるのも「第四の壁が無視できる」というデッドプールの設定ならでは。コミックを原作とするスーパーヒーロー映画として真っ当な作りのマーベル・シネマティック・ユニバースの作品や、シリーズとしての作りがガタガタすぎて客いじりどころじゃないDC・エクステンデッド・ユニバースの作品にはできない芸当である。『デッドプール』を映画にするということの強みを、製作陣がちゃんと考えた結果だろう。

前作のヒットを受けて予算が増えたので、アクションシーンもマシマシ。ミュータント護送車でのケーブルとデッドプールの対決や、"幸運"が武器であるドミノが邪悪なピタゴラスイッチみたいな感じで敵を倒していくシーンなど、アクション自体の面白さが強く感じられるように。そのあたりは監督がスタントマン出身で『ジョン・ウィック』や『アトミック・ブロンド』を撮った人であるデヴィッド・リーチに交代した点が効いている。

孤独なはみ出し者は、幸せになれるのか!?


パロディもメタネタも山盛りで型破りなヒーロー映画ではあるが、『デッドプール2』の作劇はとても丁寧である。
なんといっても映画におけるデッドプール本人の動機付け、そしてその後の行動の設計がしっかりしている。社会からはみ出し、皮膚が爛れ、頭のネジも外れたデッドプールにとって、恋人のヴァネッサは文字通り唯一無二の存在だ。だからこそ、そのヴァネッサを失ったデッドプールが悲嘆にくれる姿は見てるこっちまで悲しくなるし、死ねない体で自殺を試みるシーンも「そりゃ死にたくもなるよなあ……という納得がある。自殺の方法自体は無茶苦茶ですが。

であるからこそ、その後に見つけた「体を張ろうが死人が出ようがケーブルを止めてラッセルを守る」という目標に、デッドプールはすがりつく。『デッドプール2』は大切なものを失った孤独なはみ出し者の狂人が、新たな目標を見つけて救われようとするプロセスを描いた映画なのだ。「デッドプールの映画」として必須であるタチの悪いギャグや流血沙汰の戦闘シーンにまみれてはいるが、映画の骨格自体はとても切ないものなのである。

そう考えると、『デッドプール2』の日本版ポスターに書かれた「もう、ぼっちじゃない♡」というキャッチコピーもなんだか色々な意味が含まれたものに見えてくる。「ぼっちじゃない」というからには、そうじゃなくなるまではデッドプールは一人ぼっちだったのだ。果たしてデッドプールはどのような経緯を経て「ぼっち」ではなくなるのか。めちゃくちゃに見えて案外ちゃんとしているそのプロセスを、映画館で確かめてほしい。
(しげる)

【作品データ】
「デッドプール2」公式サイト
監督 デヴィッド・リーチ
出演 ライアン・レイノルズ ジョシュ・ブローリン ザジー・ビーツ モリーナ・バッカリン ジュリアン・デニソン ほか
6月1日より全国ロードショー

STORY
ヒーロー稼業とともに恋人ヴァネッサとも婚約、順風満帆だったデッドプール。
しかしとあるきっかけでヴァネッサを失い、自暴自棄になった彼はX-MEN見習いに。初仕事で赴いた孤児院で、デッドプールはミュータントの孤児ラッセルと出会う
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