米人気コメディ番組が突然の打ち切り 原因は大炎上した主演女優の差別ツイート 

アメリカのミレニアル世代が「新しい情報をアップデートする」という意味で使う「Woke」をタイトルの一部に組み込んだ本コラムでは、ミレニアル世代に知ってもらいたいこと、議論してもらいたいことなどをテーマに選び、国内外の様々なニュースを紹介する。今回取り上げるのは、主演女優のツイートが大炎上し、打ち切りが決定したアメリカの人気コメディドラマ「ロザンヌ」にまつわる騒動。
ファンは突然の打ち切り決定に動揺を隠せない。   

物議を醸すツイートはもはや芸の域に
炎上や批判には目もくれないトランプ大統領


影響力のある人物がソーシャルメディアで、考えの異なる、もしくは敵対する他者を叩くという行為は、2018年現在もはや珍しいものではない。それでも、投稿者の社会的な地位や、投稿の内容によっては、大きな騒動へと発展し、結果的に築き上げたキャリアをたった1回の投稿で台無しにしてしまう人もいる。

唯一の例外はアメリカのトランプ大統領だろうか? 12日にシンガポールで行われた米朝首脳会談で、北朝鮮の金正恩委員長との関係改善をアピールしたトランプ大統領。少し前までは、ツイートや報道陣への発言の中で金委員長を「小さなロケットマン」と呼び、米朝関係が最も緊迫した際には、アメリカが北朝鮮よりもより強力な核兵器を数多く保有しているとツイートし、周囲を唖然とさせた。

シンガポール入りする前に出席したG7サミットでは、関税を巡って同盟国からの支持を得ることができず、のちにカナダのトルドー首相をツイッターで「不誠実で弱虫だ」と非難している。同盟国やそうでない国といったことは関係なく、トランプ大統領は標的にした国の首脳を、合衆国大統領とは思えない言葉で罵ることが少なくないが、ツイートが原因で職を失うことはまずないだろう。


トランプ大統領は13日にもツイッターに物議を醸す投稿をしており、一番新しい標的になったのは俳優のロバート・デ・ニーロであった。デ・ニーロは10日に行われたトニー賞授賞式で、プレゼンターとしてブルース・スプリングスティーンの演奏を紹介する際、「一言だけ言っておきたい。トランプはクソ野郎だということを」と発言。

デ・ニーロの発言はカナダとシンガポールを訪れていたトランプ大統領も気にしていたようで、米朝首脳会談終了後にシンガポールを離れてすぐ、大統領専用機「エアフォースワン」の機内で真っ先に行ったのがツイッターでのデ・ニーロ叩きであったとされている。トランプ大統領は、「ロバート・デ・ニーロは非常にIQが低い人物。映画の中でボクサーに殴られ続けたため、パンチドランカー状態になっているんだろう」とツイートし、怒りを露わにしている。



2018年に復活した伝説のコメディドラマ
打ち切りにまで発展した主演女優の差別ツイートとは


これまでも差別的なツイートを投稿したり、個人や他国を大統領とは思えない言葉で攻撃してきたトランプ大統領だが、ツイートに対する国内外からの批判で大統領職を辞する可能性は極めて低く、むしろ「炎上上等」と開き直っているようにも思われる。しかし、多くの有名人にとって、炎上ツイートは人気の急速な低下だけにとどまらず、時には自らの職を失いかねない大きな爆弾となる。

5月末には、人気女性コメディアンのロザンヌ・バーがツイッターに投稿した内容が多くの視聴者の怒りを買い、結果的に彼女が主演していたアメリカで最も有名なテレビのコメディドラマが、問題ツイートの翌日に打ち切りとなる騒動が発生している。

日本での知名度は低いが、女性コメディアンのロザンヌ・バーは、アメリカではトップクラスの1人として名前があがるベテランの1人だ。コメディアンとして多くの舞台に出演してきたバーは、1980年代中旬から有名トーク番組やコメディ番組に定期的に出演するようになり、全米でその名が知られるようになった。1988年からスタートしたコメディドラマ「ロザンヌ」で主役に抜擢されたバーは、番組の人気と共に知名度が急上昇する。
ロザンヌは9シーズンにわたって放送されたが、最初の5シーズンは視聴率トップ3の常連となり、2シーズン目の平均視聴率が全ての番組をおさえてトップに輝いている。

「ロザンヌ」はシーズン9終了後の1997年5月にフィナーレを迎えた。バーはその後、他の番組にゲスト出演したり、スタンダップ・コメディの舞台で精力的に活動していたが、視聴率面でお化け番組であった「ロザンヌ」の復活を望むファンは多く、それに応える形で米ABCテレビが10話限定でシーズン10の放送に踏み切ったのだ。

20年以上の歳月を経て始まったシーズン10はテレビ局にとっても計算通りのヒットとなり、初回の放送では2500万人以上が視聴していた。視聴率も安定し、新シーズンの制作もすでに決定したことが伝えられる中、主演のバーが差別的なツイートを行った。バーはオバマ前大統領の側近として知られるバレリー・ジャレットさんがオバマ氏と一緒に写っている写真に、「ムスリム同胞団と映画『猿の惑星』の落とし子」というキャプションを付けたツイートを投稿。
差別的ではないかという批判が相次いだため、「趣味の悪い冗談を書いてしまい、申し訳なく思います」と返答し、問題のツイートを削除。しかし、批判の声が弱まることはなく、ABCテレビはツイート騒動から24時間で、番組の打ち切りを決定したのだ。

バーはハリウッドでは珍しい、トランプ大統領支持者としても知られており、「ロザンヌ」の新シーズンでもトランプ大統領を支持するワーキングクラス家庭の妻を演じていた。バーがソーシャルメディアで炎上したのは今回が初めてではない。2014年には丸腰の黒人を射殺した警備員(無罪判決となる)の住所や電話番号といった個人情報をツイートし、のちに裁判で罰金刑が確定している。さらに、2月にフロリダ州の高校で発生した無差別銃撃事件後には、銃規制を訴えるこの高校の学生がネオナチ団体と関係しているというフェイクニュースを拡散し、大顰蹙をかった。
トランプ支持者のバーは、トランプ大統領のように過激な投稿で注目されたが、大統領とは異なり、炎上によって仕事を失う可能性にまでは頭が回っていなかったようだ。
(仲野博文)